遠くて近い世界で

司書Y

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 目覚めると、11時を回っていた。ベッドの上で体を起こし、スマートフォンを確認すると、アキからメッセージがはいっている。

 17時集合
 忘れてないよな?

 タイムスタンプは8時になっていた。アキがそんな時間に起きているのは珍しい。

 おにいちゃん。気合入ってんなあ。

 と、思わず微笑ましく思う。
 アキとユキは仲がいい。男同士の兄弟にしては珍しいほどに。
 少し歳が離れた弟が心配で可愛くて仕方がない(でもそれを素直に表さない)兄と、兄ちゃんは世界で一番かっこいいと信じて疑わない弟という構図だ。

 了解。
 うまいもん食わせてやるよ。

 慣れた手つきで返信して、スイはベッドを抜け出した。
 三人でいる時はスイが料理を担当することが多かった。
 一度、訪ねていったとき、仕事終わりでボロボロになっていた二人にあり合わせで“親子丼”を作ってやったことがある。その味に惚れこんだアキに“嫁に来い”とプロポーズwwされて以来、スイがいる時は大抵飯当番をするようになっていた。
 料理は嫌いじゃなかったし、二人の美味そうに食べてくれる姿も好きだった。

 プレゼントは何にしよう。
 それから、ディナーは何を作ってやろうか。
 ケーキはアキ君が準備するって言ってたから。あの甘党ならきっとおいしい店知ってるんだろうなぁ。

 ここのところ忙しくて買い物に出る暇がなかったから、プレゼントすらまだ用意していない。急いで買いに行かないといけない。それから、ディナーはイタリアンにしよう。パスタと、ピザと、イタリアンワイン。アンティパストは何にしよう。トマトは……必須か。
 きっと、二人は喜んでくれる。
 手早く着替えて、身だしなみを整える。といっても、ひっつめ髪で、殆ど髭も生えないスイは、顔を洗って歯を磨くくらいで準備は完了するのだが。
 お気に入りのフレグランスをふる。
 自分の周りに♪が飛んでいるんじゃないか。
 スイは思う。
 それから、まるで恋を知ったばかりの女の子みたいだと思う。

 もうすぐ30になろうかっていうおっさんなのにな。

 自嘲気味に笑う。でも、この浮足立ったような気分をもう少し味わっていたい。
 せめて、二人が迷惑に思っていないうちは。
 履き心地のいいスニーカーを選んではいて、とんとんと地面を蹴って、スイは部屋を出た。
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