遠くて近い世界で

司書Y

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Internally Flawless

14 幸福 1

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 ◇秋生◇

 21日目。

 目覚めると、殆ど見覚えのない部屋だった。一瞬、どこなのかが分からずにアキは放心した。もともと、寝起きが良くないことは自覚している。しかし、さすがに酔ってもいないのに、自分の知らない場所で寝ていることは初めてだった。

「……あー……と」

 身体を起してから、はっとする。

「スイさん?」

 ベッドには自分一人で、スイの姿はなかった。
 結局、昨夜はエントランスで一回。バスルームで一回。ベッドに移動してから×回。スイにはかなり無理をさせたと思う。宣言通りめちゃくちゃしてしまったと、少し罪悪感。
 でも、スイは嫌がるどころか『アキ、俺の中。いい?』だとか、『もっと、俺で感じて?』だなんて、今思い出しても鼻血をふきそうな台詞で煽ってきて、制御が効かなくなってしまった。
 散々身体を重ねて、囁き合って、キスをして、最後には抱き締めて寝たはずなのに。

「仕事行ったのか?」

 朝一番にスイの顔が見たかった。泣きはらして真っ赤になっているであろう目元にキスをして、照れて朱に染まる頬にもキスをして、おはようと呟く唇にもキスしたかった。
 アキが起きるまで待っていたら、スイが遅刻しただろうことは間違いないのだが、自分との逢瀬に溺れるスイを見たかったというのは我儘だけれど、アキの本心だった。

 部屋を見回すと、アキの下着以外の衣服が全部ちゃんとたたまれて、ソファの上に乗っている。ソファテーブルの上には、ラップのかかった朝食まで用意されている。その隣には何やら包みが置いてあった。
 その脇に小さな紙片と、その上に鍵が置かれているのに気付いて、アキは立ち上がった。近づいて、手に取ると、それは、スイからの置手紙だった。

おはよう
声聞きたかったけど、
起こしても起きないから、
仕事行きます
テーブルの上の朝食は食べてください

お弁当はユキ君に渡してください

あと、この部屋の合鍵はそのままアキ君が持っていて

ありがとう
愛してる

               翡翠

 ため息が出た。最後の『愛してる』まで、まるっとセットで完璧な恋人が今、ここにいないのが悔しい。スイが起こしてくれた時に起きなかった自分が心底恨めしく思えた。

「俺のお姫さまは出来すぎか?」

 ソファに身体を投げ出して、スイの顔を思い出す。

「……あー……昨夜はヤバかった……」

 よく、仲直りのセックスはすごい。と、聞いたことはあったが、ここまでとは。と、にやけが止まらない。今まで経験がないほど萌えたし、燃えた。
 スイは終始素直で、可愛らしくて、エロかった。何度も自分の名前を呼んで、キスも、抱擁も、愛撫も、挿入すらおねだりする姿なんて、いつもの恥ずかしがりな彼からは想像もできない。いや、ねだってしまってからやっぱり恥ずかしがるのが堪らなかった。
 今まで、喧嘩した相手と仲直りのセックスなんてしたことがない。喧嘩をしたらそれまで、もう二度と会わない。で、おしまいだった。
 でも、スイは違う。どんなにみっともなくても、恥ずかしくても、手放したくない。無様に土下座してでも、取り戻したいと思った。
取り戻してよかったと思った。

「翡翠」

 本当に最高だった。
 最高だったのだけれど、思う。
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