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Internally Flawless
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◇翡翠◇
遠慮がちに声をかけてから、入ってきた警備員に、変質者を拘束したことと、警察を呼んだので通用口からの案内を頼む旨を伝えると、スイは壁に背を預けてため息をついた。おとといからいろんな意味で身体を酷使していたこと、情報収集のための睡眠不足、肩に受けた火傷と、精神的な緊張も相まって、酷く疲れているのを感じていた。
身体が鉛のように重い。
それ以上に、アキやユキが触れてくれた感触を穢されたようで酷く不快だった。
「スイさん!!」
警備員の制止を振り切って入ってきたのはナオだった。酷く慌てた様子で、殆ど半泣きだ。いつもは内勤のナオなので、こういう事態には慣れていないのだろうと思う。
「大丈夫?? 怪我ない? 無事?? 変なことされてない?」
スイの両肩を掴んで返事をする間もなく、スイは質問攻めにされた。
「……痛っ」
さっきの火傷がびり。と痛んで、スイは思わず眉を寄せた。
「え? なに? 怪我したの? 救急車!!」
スイの表情にナオはいきなりスマートフォンを取り出して119番に電話をしようとする。スイはそれをナオのスマートフォンの上に手を載せて止めた。
「大丈夫。これは、今した怪我じゃないから。落ち着いて。俺は大丈夫だよ」
努めて冷静にゆっくりと言葉を切ってそう言うと、ナオはほうっ。と息を吐いてから、座り込んだ。
「……マジでびっくりしたあ。緊急連絡なんて本当に使う日が来るとは思ってなかったし、繋がったと思ったらなに? あれ? マジで変質者じゃん。場所も分かんないし。も。スイさんになんかあったら、どうしようかと思った」
スイが無事なことに安心したのか、本当に泣き出してしまいそうな表情で、ナオがまくしたてる。
「ごめん。まさか、こんないつ人が来るか分からないような場所であんなのに遭うとは思わなくて」
座り込んでしまった涙目の上司をスイは手を貸して立たせた。心配をさせてしまったことを申し訳なく思うが、スイだって想定外だったから、許してほしい。
「……マジで……俺、アキさんに殺されるんだって……覚悟した」
魂の抜けたようなナオの顔にスイは思わず吹き出した。
「心配させてごめん」
安心させようと、笑顔を作る。けれど、うまくは笑えなかったかもしれない。それくらい、どうしようもなく気持ちの悪い出来事だったと思う。
「ホント……大丈夫? なんか、顔色悪くない? あ。ごめん。当たり前か……電話……内容聞いてたけど……やだったよな。マジ気持ちわりい」
まるで、自分が嫌な思いをしたかのように、沈痛な表情でナオが言う。彼は人の痛みを慮ることのできる人間だ。その作り物でない表情を見ていると、スイの緊張は少しずつ解けていった。
遠慮がちに声をかけてから、入ってきた警備員に、変質者を拘束したことと、警察を呼んだので通用口からの案内を頼む旨を伝えると、スイは壁に背を預けてため息をついた。おとといからいろんな意味で身体を酷使していたこと、情報収集のための睡眠不足、肩に受けた火傷と、精神的な緊張も相まって、酷く疲れているのを感じていた。
身体が鉛のように重い。
それ以上に、アキやユキが触れてくれた感触を穢されたようで酷く不快だった。
「スイさん!!」
警備員の制止を振り切って入ってきたのはナオだった。酷く慌てた様子で、殆ど半泣きだ。いつもは内勤のナオなので、こういう事態には慣れていないのだろうと思う。
「大丈夫?? 怪我ない? 無事?? 変なことされてない?」
スイの両肩を掴んで返事をする間もなく、スイは質問攻めにされた。
「……痛っ」
さっきの火傷がびり。と痛んで、スイは思わず眉を寄せた。
「え? なに? 怪我したの? 救急車!!」
スイの表情にナオはいきなりスマートフォンを取り出して119番に電話をしようとする。スイはそれをナオのスマートフォンの上に手を載せて止めた。
「大丈夫。これは、今した怪我じゃないから。落ち着いて。俺は大丈夫だよ」
努めて冷静にゆっくりと言葉を切ってそう言うと、ナオはほうっ。と息を吐いてから、座り込んだ。
「……マジでびっくりしたあ。緊急連絡なんて本当に使う日が来るとは思ってなかったし、繋がったと思ったらなに? あれ? マジで変質者じゃん。場所も分かんないし。も。スイさんになんかあったら、どうしようかと思った」
スイが無事なことに安心したのか、本当に泣き出してしまいそうな表情で、ナオがまくしたてる。
「ごめん。まさか、こんないつ人が来るか分からないような場所であんなのに遭うとは思わなくて」
座り込んでしまった涙目の上司をスイは手を貸して立たせた。心配をさせてしまったことを申し訳なく思うが、スイだって想定外だったから、許してほしい。
「……マジで……俺、アキさんに殺されるんだって……覚悟した」
魂の抜けたようなナオの顔にスイは思わず吹き出した。
「心配させてごめん」
安心させようと、笑顔を作る。けれど、うまくは笑えなかったかもしれない。それくらい、どうしようもなく気持ちの悪い出来事だったと思う。
「ホント……大丈夫? なんか、顔色悪くない? あ。ごめん。当たり前か……電話……内容聞いてたけど……やだったよな。マジ気持ちわりい」
まるで、自分が嫌な思いをしたかのように、沈痛な表情でナオが言う。彼は人の痛みを慮ることのできる人間だ。その作り物でない表情を見ていると、スイの緊張は少しずつ解けていった。
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