遠くて近い世界で

司書Y

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Internally Flawless

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「じゃ。今度は俺から質問。スイさんみたいな人が、なんで『ハウンド』なんてやってるの?」

 その質問にスイが驚くことはなかった。

「あれ? 驚いてないね? 俺が知ってること、知ってた?」

 くすり。と笑って、ケンジが問いかけてくる。

「知ってたよ……初日から」

 スイの答えに、ケンジの方が意外な顔をした。

「初日? あれ? 俺なんかした?」

 きょとんとした表情でケンジが言う。約1か月前の会話など覚えていないのだろう。覚えていたとしても、意識していた言葉ではなかったと思う。

「アキ君。サングラスしたままだったのに、赤い目だっていっただろ?」

 肩を抱いていたケンジの手を離れて、その顔を正面から見据える。確かに見えるあの昏い穴。内向きに開いた昏く深い穴の奥にその男の心の昏い部分がちらちらと、見え隠れしているようだ。

「そんなことで?」

 表情も態度も特に変わったところはないのに、瞳の中だけが違う。

「や。別にそれだけじゃないよ。俺が最初からアキ君のことを知ってたっていうような発言もあったし。正直年齢のことで驚かれないのも初めてだった」

「それって、結局、全部、推測だよね? っぽいってだけ」

 くすくすと笑って、ケンジはいった。きっと、スイが何に気付いていたとしても、それが公になることはないと、自信があるのだろう。

「そうだよ? でも、もともと全員を調べるつもりだったから、理由なんてなんでもよかったんだよ。けど、君初日から、俺のPCに悪戯しただろ? メールや使用履歴の内容を監視するウイルス入れられたの、気付かないと思った?」

 あの場所でPCを離れる時、スイは決してPCの電源を落とさなかった。普通に考えればそれが危険なことくらいは分かっている。照明のプログラムを作るためのPCではないのだ。そこには捜査の進行状況も、極秘情報も、スイのプライベートの交友の情報すら入っている。

「あらら? 気付かれてたんだ? じゃ、情報は偽物だったってわけ?」

 けれど、敢えて電源は落とさなかったし、どこにでもPCを置きっぱなしにした。もちろん、PINコードの認証はある。けれど、それを簡単に解除できるアングラソフトが存在することも、スイは知っている。
 だから、ケンジからすれば、スイが偽の情報を流すためにPCを置き去りにしていたと思っていたのだろう。

「いや。殆ど本物だよ。だって、隠したって意味ないし。君らの仲間にいるんだろ? 警察関係者」

 スイの言葉にケンジの片方の眉が僅かに動く。

「じゃなきゃ、俺がアキ君やユキ君と仲間だって情報は絶対に入らないはずだ」

 その情報はここへ来てから手に入れることは多分不可能だ。自分がBBBと呼ばれるハウンドの集団に所属したこと自体、殆ど知られてはいない。それは隠していたからというより、日が浅いからだ。ただし、今回の潜入捜査に参加した警察官なら確実に情報を得ているはずだ。
 ケンジがそのことを知っているというなら、情報の入手先は警察と考えるのが妥当だ。

「警察関係者……や。潜入捜査官の中に裏切り者がいるなら、PCに偽情報を仕込んでおいてもバレるだろ? でも。全部が本当だったわけでもないよ? 俺のPCはさ。セキュリティがちょっと厳しめなんだ。君が見ていたのは表層の方。絶対に知られちゃ駄目な情報は、深層の方に入ってるから」

 PINコードの入力画面で一定の手順を踏まずにコードを入力すると、表層へ。手順を踏むと深層へ繋がるように細工をしてある。ある程度PCに精通しているものなら気付かれたかもしれないけれど、気付かれた時の対策もしてあるし、深層へのコードは流通しているソフトで解析することはできない。人目につく場所で、スイ以外がそれを開くことは殆ど不可能だ。

「そんなことまでわかってたんだ。スイさんは頭いいんだね?」

 一瞬、動揺は見せたものの、それは僅かな時間で、もう、ケンジは余裕を取り戻していた。自分の部屋に二人きりだという圧倒的な有利が彼を冷静にさせているのだろう。

「やっぱり、俺の思った通りだ。じゃあさ。教えて? 俺たちの仲間の捜査員って誰?」
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