遠くて近い世界で

司書Y

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Internally Flawless

24 恍惚 4

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「忘れるって……どういう意味だよ」

 本当はもっと、冷静に問い詰めたかった。けれど、もう、嫌悪感も不快感も隠すことができなくなっていた。それくらい、目の前の男は最低の男だった。

「最近結構出回ってきたんだけど知ってる? 『エデン』ってさ」

 その言葉に、スイはひゅっ。と、息を飲んだ。
 それは『フォールダウン』とは質の違うセックスドラックだった。あの男、古家泰斗がスイに使っていたものだ。当時は殆ど流通してはいなかった。依存度は非常に少なく、煙草や大麻と変わらないと言われている。しかし、使用時の多幸感や性的興奮度は段違いに強い。価格が非常に高価で一般人には手を出すことはできない。現在出回っているものの殆どは別のドラックを混ぜた紛い物で、出所も分かってはいない。警察も、ヤクザさえもその根絶に躍起になっていた。

「心配しなくても大丈夫。ちゃんと『本物』だよ。開発者本人から買ったしね」

 一歩。ケンジがスイに歩み寄る。

「ねえ。スイさん。そこまでわかってるのにさ」

 また、一歩。

「どうして、一人でここに来たの? 知ってるんでしょ? スイさん自身に発注が入ったって」

 それには、今朝には気付いていた。だからこその、この『作戦』だ。どうしても、足りない最後のピースを埋めるために、スイは危険を承知でここにいるのだ。

「スイさんが手に入るなら。リンちゃんの10倍出すって言ってくれてる人がいるんだ。大井さん。オーナーだよ。だからさ。俺がゆっくり、ゆっくり調教して、売ろうと思ったけどさ。やっぱり、やめようかな。こんな宝石が手に入るなんて……二度とないしね」

 窓際に追い詰められて、スイはケンジの顔を睨みつけた。

「そうだよ。その顔。一番いい。綺麗だ。最高。めちゃくちゃにしたくなるね。
 ねえ。スイさん。選ばせてあげるよ。俺のものになる? それとも、あのじじいの慰みものになる? どっちがいい? 俺を選んでくれるなら、たっぷり愛してあげられるんだけどな」

 もう、これまでかと、これ以上、時間稼ぎはできないと諦めかけた時だった。

「あ。そうだ! その前に教えてあげるね? 多分、一番スイさんが知りたいこと。ナオトとユカリの居場所。それを知るために俺があなたを狙っているって知っててもここに来たんだろ? いいよ? 教えてあげる。今日からはスイさんもここで暮らすんだしね」

 そう言って、ケンジはつかつかと歩いていって、隣の部屋への仕切りを大きく開けた。
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