遠くて近い世界で

司書Y

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Internally Flawless

最終話 帰宅 2

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「……俺……どうしたんだっけ? なんで、ここ。俺の部屋? いつの間に?」

 だから、スイは話を逸らした。鼓動が速くなるのが伝わってしまいそうで恥ずかしい。きっと、顔は赤くなっていたと思う。

「車の中で寝ちゃったんだよ? 服、着替えさせても起きなかったから、相当疲れてたんだな」

 優しく髪を梳くアキの手に夢の余韻が消えていく。いつもなら、一晩中震えながら過ごすのに、こんなに簡単に夢のことを忘れられるのは初めてだった。

「スイさん。この間、嫌な思いした後は夢を見るって言ってただろ? だから、添い寝してた」

 くい。と、アキの手に促されて後ろを向くと、その唇にアキのそれが重なる。

「夢。見たんだろ? 大丈夫?」

 何度も何度も啄ばむみたいにキスをくれて、それから、また優しく抱きしめてもらって、夢の直後だというのに幸せな気分になった。

「ん。平気。やっぱり……二人がいてくれたら、大丈夫だった。すごいな。ずっと、何してもダメだったのに。
 アキ君……もっと、キスしてくれる?」

 珍しいスイからの懇願に、少し驚いたような表情を浮かべてから、すごく嬉しそうな顔をしてアキはまたキスをくれた。

「もっと」

 離れていた寂しい時間を全部埋めるくらいに、沢山アキを補給したくて、スイが言うと、不意にぐいと、腰を引き寄せられて、顔を正面に向かせられた。

「ずるい!」

 気付くとユキも起きていて盛大に拗ね顔をしている。

「こっちも」

 そう言って、ユキが、ちゅ。と可愛いキスをくれる。

「スイさん。可愛い。唇すごくやわらかい」

 頬を擽るように優しく撫でて、ユキがもう一度、二度。何度も、唇にキスをする。
 幸せすぎて、蕩けてしまいそうだと思う。あんなに嫌なことがあったのに、二人がいてくれるだけで、全部溶けて消えてしまった。今こうして一緒にいられる幸福だけで、身体が満たされる。

 ユキとのキスに夢中になっていると、ぎゅっとスイの首筋に唇を寄せたアキにそこをきつく吸われて、思わず身体がびくりと跳ねた。

「ひゃっ」

 その感触に、まるで女の子みたいな甘ったるい声が出てしまって、スイは慌てて両手で口を押さえる。

「あ。兄貴ずるい! 今日はえっちいことしないって、約束だろ?」

 アキの顔を後ろに押しやって、ユキが言った。

「お前だって今、舌入れてただろうが」

 ユキの手を振り払ってアキが逆襲する。

「あ。やべ。バレてた」

 兄に言い当てられても、悪びれることもなく、ユキは何だか、ドヤ顔でへへ。と、笑った。

「だってさ……」

 ユキとアキが言いあいをしているのを見ながら、スイはようやく戻ってきた日常にじんわり。と、広がる幸せを感じていた。
 怖いことや、やりきれないことや、過去の痛み。全部がなくなったわけではない。スイが選んた生き方は恐怖とか、暴力と切り離すのは無理だし、簡単に消せるほど過去の傷は浅くはない。
 けれど、一緒にいられる今は確実に幸せだと感じられる。

「……あの」

 だから、スイは言った。
 スイの小さな呟きに、言い合いをやめて、二人がスイの顔を見る。

「た……ただいま」

 その赤と黒の瞳に笑顔を返すと、二人からも笑顔が返ってくる。

「「おかえり」」

 また、明日から、3人の日常が始まる。そんな夜の出来事だった。
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