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ヴィル編③

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 パンケーキ屋で会ったクリスティーナ様とパトリック。
 二人もこの店に来ていたようだ。
 俺が休日の日に敢えて出掛けたのか。

 ふとそんなことを考えた。

 クリスティーナ様がいつ出掛けようと俺がとやかく言える事ではない。

「叔父上、リーゼ様!」

 パトリックが偶然会えたからか、俺たちに嬉しそうに声をかけてきた。

「あら?パトリック様お久しぶりですね?」
 リーゼがパトリックの声に反応した。

「パトリックは今日は……クリスティーナ様と来てたんだね?」

 気がついていたくせに今気がついたかのように声をかけた。

「リーゼ、クリスティーナ様だよ」
 パトリックが紹介をした。
 クリスティーナ様はリーゼに会うのは初めてだったようだ。

「初めましてクリスティーナ・トレントです」

 クリスティーナ様の柔らかい笑顔を俺は久しぶりに近くで見た。

「わたしこそ初めまして。リーゼ・シェルバーと申します。ヴィルの幼馴染なんです」

 リーゼはクリスティーナ様の髪飾りを見て微笑んだ。

「その髪飾り気に入ってくれていたんですね?」

「えっ?」
 俺が3年前誕生日プレゼントした金の土台に小さな真珠が沢山散りばめられた髪飾り。

 よくクリスティーナ様が使ってくれている、お気に入りでいてくれた髪飾り。

「ヴィルが悩んでいたからわたしが選んだんです。とてもお似合いですね」

 そう言って微笑むリーゼに対して近くにいて少しだけ違和感を感じた。
 
 「あっ、ありがとうございます。とても気に入っています」

 顔色が変わっている気がする。何か気に入らなかったのか。

 俺は誤魔化すように「リーゼ、バラすなよ」とリーゼを横で小突いていた。

 クリスティーナ様の様子がおかしいことに気がついたパトリックは「姉上、そろそろ行きましょうか?」と声を掛けた。

「そうね、まだ回らないといけないところがあるものね」

 「クリスティーナ様、僕もお供いたしましょうか?」
 俺は席を立とうとしたがリーゼがそれを遮るように言った。

「ヴィル、今日は一日わたしと付き合う約束よ?」
 
「だがクリスティーナ様は今日初めての外出なんだ」

「今日のヴィルはお休みなのよ?いくら目の前にお嬢様がいるからと言ってもそこまでするのはおかしいわよ」

「ヴィー大丈夫よ。パトリックが街を案内してくれているし、サムが護衛に付いてくれているから安心して過ごせているの」

「………大丈夫…ですか……わかりました、それでも気をつけてくださいね。迷子にならないようにくれぐれもーー「もうヴィルったらクリスティーナ様は子供ではないのよ。立派なレディなんだから!」

「ヴィー、わたし行くわね?ではリーゼ様失礼致します」

 俺はクリスティーナ様の後ろ姿を見えなくなるまでじっと見つめていた。

「ヴィルって案外過保護なのね?もうクリスティーナ様は大人なのよ?貴方の仕事はもう終わったの。そろそろ解放されていいと思うわ」 

「俺は別にクリスティーナ様に無理矢理束縛されていたわけではない。俺に取って守るべき存在だったんだ」

 ーーそう守るべき存在だとずっと思っていた。そこに愛情はあった。妹のように慈しむ気持ちが……なのに今の俺は……フラれた男のような気持ちだった。

 避けられて笑ってももらえず、俺を見ると目を逸らす。
 俺はどうすればいいのかわからなかった。


 
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