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11話
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慌てた執事が「こちらへ」と言って正面玄関を案内された。
「…………あ、あの……」
「これからはこちらから出入りをされてください」
ハンカチで汗を拭きながら丁寧に送り出されそうになるのを、必死で止めた。
「あの、私……」
「どうぞ行ってらっしゃいませ」
「いえ、私、まだ朝食を食べていないんです!」
冗談じゃない!お腹が空いたまま学校へ行くなんて絶対嫌!
「あっ、ああ、申し訳ありません。すぐに用意いたします」
「用意?いつでも使用人達の食堂に行けば好きな時に食べられるわ、気にしないで」
何をこの人は言ってるのかしら?
知っているくせに!
義母に呼ばれて時間が押しているとはいえ馬車で送ってもらえるならしっかり食事をする時間はあるもの。
「お待ちください!これからは使用人達のところではなく、きちんと食事の用意をしますので、ご主人様達とお食事をなさってください」
今更?
メイド長が執事の後ろであたふたとして困った顔をしていた。
メイド長達が悪いわけではない。執事から命令をされれば従わざるを得ない。
それに孤独なこの1年間、優しい使用人達に囲まれて幸せに過ごしてきた。
それを今更変えるなんて………
絶対嫌!
「この1年間、見て見ぬ振りをしてくださったのだから、このままでよろしいのでは?」
にこりと執事に微笑んだ。
「奥様が知ってしまいましたからそれは出来かねます。ビアンカ様、私が勘違いしておりました。冷遇するようにと申しつけられたと勝手に思い込んでおりました。どうかお許しください」
私を空気とみなして無視していたあの冷たい態度しか取らなかった執事が何度も情けないくらい頭を下げ続けた。
ここで意地を張って拒み続けるのも、なんだかなぁと思い、仕方なく「わかったわ、用意をお願いね」と大人の対応をすることにした。
彼も仕事なんだもの。私に対して悪意があったわけではないはず……あった気もするけど。
初めて足を踏み入れた侯爵家の者にだけ許された食堂は、伯爵家の実家よりも豪華な家具が置かれていた。なのに上品で落ち着いた雰囲気で思わず見入ってしまった。
座る場所に戸惑っていると義母が「ここに座りなさい」と指示した。
そこはダイガットの目の前の席だった。
ダイガットは私が部屋に入ってきた瞬間から驚いた顔をしていた。
「なぜ君がここに?」
眉根をグッと寄せ私を睨むダイガットを無視して席に座り、黙々と食事を始めた。
いつもの料理長が作ってくれる熱々の具沢山スープが恋しい。
食べやすいように適温の上品な味のスープも色とりどりの料理もとても美味しいはずなのに、美味しく感じない。
結局少しだけいただいてすぐに席をたった。
「ご馳走様でした。お先に失礼致します」
「ほとんど食べていないじゃないの」
義母がまさかそんなことを言うと思わなかった。もちろん心配してくださったわけではないだろう。
「…………私の口には贅沢すぎるようです。出来ればいつもの食べなれた朝食をいつもの場所で食べた方が私にはあっていると思います」
義母の目を見ることはできなかった。
もちろん私の発言は失礼極まりないとわかっていた。
でも、これが毎日続くと考えると気が重くて死にそうだった。
せめて美味しいものをお腹いっぱい食べる権利くらい欲しいとわがままなことを考えてしまった。
「わかったわ、メイド長。ビアンカがいつも食べているものを彼女には出してあげてちょうだい」
ち、違うの!私はここで食べるのが、とても辛くて……喉が通らないんです!
「…………あ、あの……」
「これからはこちらから出入りをされてください」
ハンカチで汗を拭きながら丁寧に送り出されそうになるのを、必死で止めた。
「あの、私……」
「どうぞ行ってらっしゃいませ」
「いえ、私、まだ朝食を食べていないんです!」
冗談じゃない!お腹が空いたまま学校へ行くなんて絶対嫌!
「あっ、ああ、申し訳ありません。すぐに用意いたします」
「用意?いつでも使用人達の食堂に行けば好きな時に食べられるわ、気にしないで」
何をこの人は言ってるのかしら?
知っているくせに!
義母に呼ばれて時間が押しているとはいえ馬車で送ってもらえるならしっかり食事をする時間はあるもの。
「お待ちください!これからは使用人達のところではなく、きちんと食事の用意をしますので、ご主人様達とお食事をなさってください」
今更?
メイド長が執事の後ろであたふたとして困った顔をしていた。
メイド長達が悪いわけではない。執事から命令をされれば従わざるを得ない。
それに孤独なこの1年間、優しい使用人達に囲まれて幸せに過ごしてきた。
それを今更変えるなんて………
絶対嫌!
「この1年間、見て見ぬ振りをしてくださったのだから、このままでよろしいのでは?」
にこりと執事に微笑んだ。
「奥様が知ってしまいましたからそれは出来かねます。ビアンカ様、私が勘違いしておりました。冷遇するようにと申しつけられたと勝手に思い込んでおりました。どうかお許しください」
私を空気とみなして無視していたあの冷たい態度しか取らなかった執事が何度も情けないくらい頭を下げ続けた。
ここで意地を張って拒み続けるのも、なんだかなぁと思い、仕方なく「わかったわ、用意をお願いね」と大人の対応をすることにした。
彼も仕事なんだもの。私に対して悪意があったわけではないはず……あった気もするけど。
初めて足を踏み入れた侯爵家の者にだけ許された食堂は、伯爵家の実家よりも豪華な家具が置かれていた。なのに上品で落ち着いた雰囲気で思わず見入ってしまった。
座る場所に戸惑っていると義母が「ここに座りなさい」と指示した。
そこはダイガットの目の前の席だった。
ダイガットは私が部屋に入ってきた瞬間から驚いた顔をしていた。
「なぜ君がここに?」
眉根をグッと寄せ私を睨むダイガットを無視して席に座り、黙々と食事を始めた。
いつもの料理長が作ってくれる熱々の具沢山スープが恋しい。
食べやすいように適温の上品な味のスープも色とりどりの料理もとても美味しいはずなのに、美味しく感じない。
結局少しだけいただいてすぐに席をたった。
「ご馳走様でした。お先に失礼致します」
「ほとんど食べていないじゃないの」
義母がまさかそんなことを言うと思わなかった。もちろん心配してくださったわけではないだろう。
「…………私の口には贅沢すぎるようです。出来ればいつもの食べなれた朝食をいつもの場所で食べた方が私にはあっていると思います」
義母の目を見ることはできなかった。
もちろん私の発言は失礼極まりないとわかっていた。
でも、これが毎日続くと考えると気が重くて死にそうだった。
せめて美味しいものをお腹いっぱい食べる権利くらい欲しいとわがままなことを考えてしまった。
「わかったわ、メイド長。ビアンカがいつも食べているものを彼女には出してあげてちょうだい」
ち、違うの!私はここで食べるのが、とても辛くて……喉が通らないんです!
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