あなたの愛はもう要りません。

たろ

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32話

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「ビアンカがこの花を欲しがって一本摘んで母上と君の母上に叱られたんだったな」

「………はい」
 あなたのせいでした。

「お前は幼い頃から要領が悪いし、すぐ泣くし、面倒みてやる俺も大変だったぞ」

「…………」

 いや、いや、あなたが無理やり『木に登れ』とか『泳げるようになれ』と池に突き落としたり、『プレゼント』と言って虫を渡そうとしたり、侍女さん達からおやつの時間でもないのにおやつを強請ってこいて言ったりしたわよね?

 ほんと付き合わさせるたびに大泣きした。

「なぁ、ビアンカ……ダイガットは単純なところがあって他人の言葉をすぐに信じるところがある……フランソアに振り回されているが根はいいやつだ」

「…………それは、私から彼に歩み寄れとおっしゃるのですか?」

「……まぁ…うん、そうだな」

 なんだかムカムカする。

 あの屋敷でダイガットに近寄らないようにしているのは、多分侯爵夫人の意見だと思う。私の部屋は彼と会えない場所だったし、2階には行くなと言われていたし、食事だって最近まで使用人達と食べていたもの。

 ダイガットだって、フランソア様に夢中で私に興味なかったし、会っても嫌味と文句しか言わない。

 それを私から歩み寄れ?
 根はいいやつ?

 背の高い殿下を下から睨み上げた。

 不敬だとはわかっているけど返事をするのも嫌。

 彼の横のを通り過ぎ部屋に帰ろうとした。

「ビアンカ、後で部屋に花を持って行かせる」

「結構です。私が勝手にここの花を摘んだなんて思われたくありませんから!」

 殿下の顔を見たくなかったので、振り返らず部屋へと戻った。

 疲れた。

 少しだけ昔を懐かしみ、殿下と話すのも、少しだけ……楽しい気分になっていたのに。

 疲れていつの間にか昼寝をしてしまっていた。

 目が覚めると青い薔薇がテーブルに飾られたていた。

 それも一本ではなくたくさんの青い薔薇が。

 え?貴重なところが青い薔薇をこんなに?

 唖然としながら薔薇をじっと見つめ固まっていた。


「失礼致します」

 いつもお世話をしてくれる侍女さんがにこりと笑った。

「青い薔薇は殿下からのプレゼントですよ」

「勝手に王妃様の庭園から取ったら叱られるのでは?」

 また私のせいにするの?

「この青い薔薇は殿下の王宮の庭園で自らが栽培されているのです。ですから殿下が許可した花ですので、この王城の敷地から出さなければ摘んでも大丈夫なんですよ」

「殿下が栽培……」

「はい、王妃様の許可を得て、殿下が少しずつ青い薔薇を自分の庭園に増やしていかれたのです。ビアンカ様なら殿下と幼馴染ですし、親戚でもあるので、殿下の庭園へ行く許可も下りると思いますよ?わたし達侍女では中に入ることは出来ませんので見ることができませんが、とても綺麗な薔薇園だと噂では聞いております」

「そうなんですね。でも私と殿下はそこまで仲良くないので……」
 無理だと思う……と言いたかったけど、侍女さんは私の返事に興味はないようで、ころころと話が変わり、ずっと殿下のことを話していた。

 とても優秀でお優しい殿下のことを。

 私の前では口も態度も悪いのだけど、そんな態度は誰にも見せていないようだ。

 話に満足したのか侍女さんが部屋を出て行った。

 窓から外を見ると、まだ空は青かった。



 次の日、シャルマ夫人が顔を出した。



「どうかなさいましたか?」

「………あなたを怪我させたミラー伯爵夫人は釈放されたの」

 悔しそうに唇を噛み「ごめんなさい」と言われた。

 シャルマ夫人が謝る必要なんてない。

 王妃様が助けてくださってここで療養させてくださった。その間シャルマ夫人は心を砕いてくださった。

 侯爵家に話を通してくれてゆっくりと療養できたのも二人のおかげだもの。

「ミラー伯爵夫人の実家はカルソン公爵家なのは知ってるわよね?
 彼女は今回たくさんの人の前であなたを怪我させた。だから捕まえて罪を問うはずだったのに横槍が入ったの。たくさんの人……皆平民で誰も貴族に、それも公爵家に逆らえないわ。王妃様が見たのも、御者を鞭打つ姿だった、あなたのことは、母としての教育、躾だったと言い張らてしまえばこちらは何も言えなくなったの」

「……お手数をおかけいたしました」

「悔しいけど王妃様の力では公爵家に強くは言えないの。あそこは力で圧してくるから、娘の躾と言われれば何も言えない」

 王族だから全てが思うままになるわけではない。臣下がいての王族。

 四つの公爵家はそれぞれ強大な力を持っていることは知っている。

 マリアナの実家、シャルマ夫人、そして継母の実家、それぞれの公爵家は力を持っている。

 だから継母は母が亡くなってすぐに父と再婚した。継母は昔から父を好きだったらしい。
 ただ、伯爵家は公爵家に比べて身分も低く、父である公爵様は首を縦に振らず、継母は諦めるしかなかった。

 一度は別の人と結婚したけど上手くいかず離縁していた。そして母が亡くなったと知ってすぐに再婚を申し入れ、父はそれを受けた。

 邪魔な母は亡くなった。でももう一人邪魔な私が目の前にうろちょろするのが鬱陶しかったのだろう。

 王宮での保護が終われば、継母はまた何かしてくるだろうか。

 牢に入れられ処罰されようとしたのだから私を恨んでいることは窺える。

 なんだか考えるのも面倒になってきた。

 だって継母に嫌われすぎてもう慣れてしまっているもの。

「ご心配をおかけしてばかりで申し訳ありません。そろそろ体調も落ち着いてきましたので帰ろうと思っておりました」

 静かににこりと微笑んで「ありがとうございました」と言った。

 私が帰る場所なんてない。

 でも、侯爵家にしか居場所がないのが現実だもの。

 私はダイガットの一応…妻なのだから。

 はああ………
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