あなたの愛はもう要りません。

たろ

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74話

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「大奥様がビアンカ様にお話があるそうです」

 学校が終わり屋敷に帰るとお祖母様が部屋に来るようにと執事が言ってきた。

「わかったわ、着替えてから行くと伝えてちょうだい」

 お祖母様の話は多分フェリックス様のことだろう。

 もうすでにわたしも彼らのことは耳にしている。

 二人の結婚は卒業してから。

 ガルカッタ王国はオリソン国が内乱で荒れていた頃、一番手助けをしてくれた恩のある国らしい。

 食糧の援助や医師の派遣、建物の再建のための資材など、かなりの支援をしてくれたと聞いている。

 ガルカッタ王国の支援があったからこそ、早い再建が可能だった。

 そんな恩のある国の王女殿下のミリル様の初恋がフェリックス様だった。

 この国で公爵となることが決まっているフェリックス様が、オリソン国の王からの王命でミリル様との結婚を仰せつかった。

 断ることはできない。

 服をゆっくりと着替えてからお祖母様の部屋へと向かった。


 部屋をノックしたらすぐに「入ってちょうだい」と返事が返ってきた。

「失礼致します」

「ビアンカ、そこに座ってちょうだい」

 お祖母様の正面のソファに腰を下ろした。

 すぐにメイドが温かい紅茶を淹れてくれた。

 お祖母様も話し出すこともなくカップを取って、ゆっくりと紅茶を飲み始めた。

 わたしもお祖母様に合わせて紅茶をいただくことにした。

「あ……美味しい」

 思わず声が出た。

「ふふふ。美味しいでしょう?領地の茶畑から送られてきたばかりの新茶なの。今年の出来はとても良いのよ」

「では毎日の楽しみが増えますね」

「ええ、そうね」

 二人で顔を見合わせて微笑みあった。



「………結婚が決まったようよ」

「はい」

「そう……知っていたのね?」

「学校に行けば嫌でも耳に入りますわ」

「そう……会ったのかしら?」

「会うことはありませんが、お二人を見かけることはあります」

「王命なの」

「存知ております」

「舞踏会のドレスはどんなデザインにしようかしら?」

 お祖母様がふっと笑う。

「そうですね……パートナーはアッシュなので彼の瞳の色に合わせてグリーンで良いと思います」

 アッシュは私の従兄弟。

 伯父様の息子で侯爵家を継ぐ彼は婚約者がまだいない。

 以前はいたらしい。でも最近は恋愛結婚が増え始め、幼い頃から決められた政略結婚は解消されることが増えた。

 彼の婚約者もまた愛する人ができて、婚約解消に至ったらしい。

 お互いに友情はあったけど、愛情が育つことはなかったらしい。

 私とフェリックスは、恋愛からの結婚とはいかず、彼は王命で政略結婚をすることになった。

 美味しい紅茶を飲み干してお祖母様の部屋を後にした。

 私の心は凍ってしまって今は悲しみすらなかった。
 ただ、早く二人が卒業して目の前から消えて欲しかった。

 周囲からの憐れみの目で見られるのも、たまたま遭遇して気を遣われるのもうんざりだった。




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