74 / 77
74話
しおりを挟む
「大奥様がビアンカ様にお話があるそうです」
学校が終わり屋敷に帰るとお祖母様が部屋に来るようにと執事が言ってきた。
「わかったわ、着替えてから行くと伝えてちょうだい」
お祖母様の話は多分フェリックス様のことだろう。
もうすでにわたしも彼らのことは耳にしている。
二人の結婚は卒業してから。
ガルカッタ王国はオリソン国が内乱で荒れていた頃、一番手助けをしてくれた恩のある国らしい。
食糧の援助や医師の派遣、建物の再建のための資材など、かなりの支援をしてくれたと聞いている。
ガルカッタ王国の支援があったからこそ、早い再建が可能だった。
そんな恩のある国の王女殿下のミリル様の初恋がフェリックス様だった。
この国で公爵となることが決まっているフェリックス様が、オリソン国の王からの王命でミリル様との結婚を仰せつかった。
断ることはできない。
服をゆっくりと着替えてからお祖母様の部屋へと向かった。
部屋をノックしたらすぐに「入ってちょうだい」と返事が返ってきた。
「失礼致します」
「ビアンカ、そこに座ってちょうだい」
お祖母様の正面のソファに腰を下ろした。
すぐにメイドが温かい紅茶を淹れてくれた。
お祖母様も話し出すこともなくカップを取って、ゆっくりと紅茶を飲み始めた。
わたしもお祖母様に合わせて紅茶をいただくことにした。
「あ……美味しい」
思わず声が出た。
「ふふふ。美味しいでしょう?領地の茶畑から送られてきたばかりの新茶なの。今年の出来はとても良いのよ」
「では毎日の楽しみが増えますね」
「ええ、そうね」
二人で顔を見合わせて微笑みあった。
「………結婚が決まったようよ」
「はい」
「そう……知っていたのね?」
「学校に行けば嫌でも耳に入りますわ」
「そう……会ったのかしら?」
「会うことはありませんが、お二人を見かけることはあります」
「王命なの」
「存知ております」
「舞踏会のドレスはどんなデザインにしようかしら?」
お祖母様がふっと笑う。
「そうですね……パートナーはアッシュなので彼の瞳の色に合わせてグリーンで良いと思います」
アッシュは私の従兄弟。
伯父様の息子で侯爵家を継ぐ彼は婚約者がまだいない。
以前はいたらしい。でも最近は恋愛結婚が増え始め、幼い頃から決められた政略結婚は解消されることが増えた。
彼の婚約者もまた愛する人ができて、婚約解消に至ったらしい。
お互いに友情はあったけど、愛情が育つことはなかったらしい。
私とフェリックスは、恋愛からの結婚とはいかず、彼は王命で政略結婚をすることになった。
美味しい紅茶を飲み干してお祖母様の部屋を後にした。
私の心は凍ってしまって今は悲しみすらなかった。
ただ、早く二人が卒業して目の前から消えて欲しかった。
周囲からの憐れみの目で見られるのも、たまたま遭遇して気を遣われるのもうんざりだった。
学校が終わり屋敷に帰るとお祖母様が部屋に来るようにと執事が言ってきた。
「わかったわ、着替えてから行くと伝えてちょうだい」
お祖母様の話は多分フェリックス様のことだろう。
もうすでにわたしも彼らのことは耳にしている。
二人の結婚は卒業してから。
ガルカッタ王国はオリソン国が内乱で荒れていた頃、一番手助けをしてくれた恩のある国らしい。
食糧の援助や医師の派遣、建物の再建のための資材など、かなりの支援をしてくれたと聞いている。
ガルカッタ王国の支援があったからこそ、早い再建が可能だった。
そんな恩のある国の王女殿下のミリル様の初恋がフェリックス様だった。
この国で公爵となることが決まっているフェリックス様が、オリソン国の王からの王命でミリル様との結婚を仰せつかった。
断ることはできない。
服をゆっくりと着替えてからお祖母様の部屋へと向かった。
部屋をノックしたらすぐに「入ってちょうだい」と返事が返ってきた。
「失礼致します」
「ビアンカ、そこに座ってちょうだい」
お祖母様の正面のソファに腰を下ろした。
すぐにメイドが温かい紅茶を淹れてくれた。
お祖母様も話し出すこともなくカップを取って、ゆっくりと紅茶を飲み始めた。
わたしもお祖母様に合わせて紅茶をいただくことにした。
「あ……美味しい」
思わず声が出た。
「ふふふ。美味しいでしょう?領地の茶畑から送られてきたばかりの新茶なの。今年の出来はとても良いのよ」
「では毎日の楽しみが増えますね」
「ええ、そうね」
二人で顔を見合わせて微笑みあった。
「………結婚が決まったようよ」
「はい」
「そう……知っていたのね?」
「学校に行けば嫌でも耳に入りますわ」
「そう……会ったのかしら?」
「会うことはありませんが、お二人を見かけることはあります」
「王命なの」
「存知ております」
「舞踏会のドレスはどんなデザインにしようかしら?」
お祖母様がふっと笑う。
「そうですね……パートナーはアッシュなので彼の瞳の色に合わせてグリーンで良いと思います」
アッシュは私の従兄弟。
伯父様の息子で侯爵家を継ぐ彼は婚約者がまだいない。
以前はいたらしい。でも最近は恋愛結婚が増え始め、幼い頃から決められた政略結婚は解消されることが増えた。
彼の婚約者もまた愛する人ができて、婚約解消に至ったらしい。
お互いに友情はあったけど、愛情が育つことはなかったらしい。
私とフェリックスは、恋愛からの結婚とはいかず、彼は王命で政略結婚をすることになった。
美味しい紅茶を飲み干してお祖母様の部屋を後にした。
私の心は凍ってしまって今は悲しみすらなかった。
ただ、早く二人が卒業して目の前から消えて欲しかった。
周囲からの憐れみの目で見られるのも、たまたま遭遇して気を遣われるのもうんざりだった。
2,203
あなたにおすすめの小説
【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」
そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。
彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・
産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。
----
初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。
終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。
お読みいただきありがとうございます。
彼が愛した王女はもういない
黒猫子猫
恋愛
シュリは子供の頃からずっと、年上のカイゼルに片想いをしてきた。彼はいつも優しく、まるで宝物のように大切にしてくれた。ただ、シュリの想いには応えてくれず、「もう少し大きくなったらな」と、はぐらかした。月日は流れ、シュリは大人になった。ようやく彼と結ばれる身体になれたと喜んだのも束の間、騎士になっていた彼は護衛を務めていた王女に恋をしていた。シュリは胸を痛めたが、彼の幸せを優先しようと、何も言わずに去る事に決めた。
どちらも叶わない恋をした――はずだった。
※関連作がありますが、これのみで読めます。
※全11話です。
嘘の誓いは、あなたの隣で
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢ミッシェルは、公爵カルバンと穏やかに愛を育んでいた。
けれど聖女アリアの来訪をきっかけに、彼の心が揺らぎ始める。
噂、沈黙、そして冷たい背中。
そんな折、父の命で見合いをさせられた皇太子ルシアンは、
一目で彼女に惹かれ、静かに手を差し伸べる。
――愛を信じたのは、誰だったのか。
カルバンが本当の想いに気づいた時には、
もうミッシェルは別の光のもとにいた。
完結 愛される自信を失ったのは私の罪
音爽(ネソウ)
恋愛
顔も知らないまま婚約した二人。貴族では当たり前の出会いだった。
それでも互いを尊重して歩み寄るのである。幸いにも両人とも一目で気に入ってしまう。
ところが「従妹」称する少女が現れて「私が婚約するはずだった返せ」と宣戦布告してきた。
好きな人と友人が付き合い始め、しかも嫌われたのですが
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ナターシャは以前から恋の相談をしていた友人が、自分の想い人ディーンと秘かに付き合うようになっていてショックを受ける。しかし諦めて二人の恋を応援しようと決める。だがディーンから「二度と僕達に話しかけないでくれ」とまで言われ、嫌われていたことにまたまたショック。どうしてこんなに嫌われてしまったのか?卒業パーティーのパートナーも決まっていないし、どうしたらいいの?
【完結】貴方の望み通りに・・・
kana
恋愛
どんなに貴方を望んでも
どんなに貴方を見つめても
どんなに貴方を思っても
だから、
もう貴方を望まない
もう貴方を見つめない
もう貴方のことは忘れる
さようなら
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる