あなたの愛はもう要りません。

たろ

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83話

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 卒業式の前日、学校は午前で終わる。
 半年ほどしか通わなかった学校だけど、とても思い出に残る日々だった。

 継母の事件の記憶もまだ記憶から消えずにいた。

 フェリックス様と手を繋ぎ歩いた廊下や共に過ごした昼休みの時間、ここにはわずかな日々だったけど思い出だけはたくさん残されている。

 遠くからミリル殿下とフェリックス様の姿を見つめ、どれだけ胸が苦しくなったか。

 あの溺れた池には近づくことはなかったけど、最後にもう一度池へと向かった。

 もちろん池のすぐそばには行かず少し離れたところから景色を見た。

 あえて辛い思い出の場所に来たのは自分の心を整理するため。

 明日から新しい生活が始まる。

 卒業パーティーが終わったらそのまま馬車に乗り込み、領地へ向かう。

 そしてもう王都へは戻って来ない。

 だからここにフェリックス様へまだ残っている全ての感情を捨ててしまう。

 しばらく立ち尽くしてふと空を見上げた。

 ああ、私……空を見上げるのが好きだった。
 寂しい時、辛い時、こうして空を見上げて心を穏やかにしていた。

 辛かった思い出だけをこの場に捨ててミーシャ達と過ごした楽しい思い出だけを残して池から去った。

 この後、友人達と最後の学校でのランチの約束をしている。




 ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎

「お待たせしてごめんなさい」

 学校の食堂には最後だからと、卒業生達がたくさん座っていた。

 ミーシャ達が前もって席を取っていてくれていたので、席を確保できていた。

「席を取っていてくれてありがとう」

「あら?料理も注文済みよ?リズの彼氏が料理を運んでくれるからビアンカは座っていてちょうだい」

「ビアンカの好きなAランチにしたけどいい?」

「うん!ありがとう!」

 ミーシャ達と雑談しているとリズと彼氏がトレーを両手に抱えてテーブルに置いてくれた。

「ビアンカ、君の好きなビーフシチューも頼んだよ」

 たくさんの料理が並び「ありがとう、でも食べきれないわ」と目を白黒させていると「みんなで分け合って食べよう」とミーシャが提案した。

 男女関係なく私達は仲が良い。
 席には女子が4人、男子が3人座り、大笑いをしながらたくさんの料理を食べた。

「ビアンカ一人が抜けてしまって、これから寂しくなるわ」

「そうよ!黙って卒業試験を受けて!」

「ビアンカが優秀だから仕方ないよ。明日の卒業パーティーは参加するんだろう?大丈夫か?」

 なんとなく私の話題が中心になってしまう。

「明日は従兄弟にパートナーになってもらうから大丈夫だよ。彼は誰が来ても追い払ってくれるくらい心が強い人だから、そこは安心かな」

 安易にあの二人がそばに寄ってきても王族とか公爵家とか関係なく、私の従兄なら追い払うから心配しないで、と伝えた。

「ああ、確かに。アッシュ様は……うん、そうかも」

 皆が知るアッシュはいつも堂々としていて、変に人のご機嫌を窺ったり卑屈に媚を売る人ではない。

 かと言って誰にでも傲慢な態度をとるわけではない。

 自分が正しいと思ったらそれを簡単に曲げず、最後まで貫き通せる人だ。

 話に夢中になっていて、テーブルに置いてあったスプーンを思わず落としてしまった。

 スプーンを取ろうとしゃがんで、立ちあがろうとした。

「きゃっ」
「ガタッ」
「ガッシャーン」
 大きな声が頭の上で聞こえた。

 しゃがんで立ちあがろうとした私に驚き、誰かが隣のテーブルにぶつかった音がした。
 そして食器が床に落ちる音がした。

 慌てて顔をあげて「すみません!」と大きな声で謝罪した。

 そこにいたのはテーブルの角に腰を強く打ち付けて、腰をさすりながら私を睨むミリル殿下だった。

 隣の様子を見るとテーブルの料理が皿から落ちてジュースが溢れ、生徒達が慌てて布巾でテーブルを拭き始めた。

 私は確かにしゃがんだ。でもテーブルとテーブルの間は人が十分に通れるスペースはあった。

 私はそんな巨体ではなくテーブルのすぐ下に落ちたスプーンを拾ったのだから端に寄ってしゃがんだし、邪魔にはならないし驚かれることはないと思う。

「大丈夫か?ミリル?」

 フェリックス様が後ろからミリル殿下のそばへと駆け寄った。

 そしてミリル殿下は私を睨みつけていたはずなのに突然弱々しく言った。

「フェリックス……痛いっ。突然わたくしの行く手を遮って驚かせて……腰を打ったの……」

 目にはしっかり涙を潤ませてフェリックス様の胸に顔を埋めた。

 うわぁ、気持ち悪っ!

 下手な演劇を見せられてる!






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