あなたの愛はもう要りません。

たろ

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84話

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 ミリル殿下の容姿は悔しいけど、とても綺麗な人だと認める。

 フェリックス様に寄りかかり彼に肩を抱かれ守られている二人の姿は……とても美しい。

 そしてしゃがんで立ちあがろうとしたのに、そのまま立ち上がることも忘れ床にしゃがみ込んで二人を見上げている私はとても惨めな姿。

 フェリックス様は、反対の手でミリル殿下の頭を優しく撫でながら「医務室へ行こう」と声をかけていた。

「あ、あの……申し訳ありませんでした」

 恐る恐るもう一度謝罪した。

「いいのよ、驚いて転びそうになっただけなの。貴女こそ大丈夫かしら?早く立たないと、ね?」

 さっきまで睨んでいたあの怖い顔は完全に消えて、瞳を潤ませ痛さに耐えて相手を心配する優しい顔をこちらに向けた。

 思わず背筋がゾクっとした。

 すぐに切り替えられる態度、巧みな立ち回り方は、彼女が打算的で計算高い、とても頭の回転が良い女性なのだろうと思う。

 ダイガットの幼馴染のフランソア様とは全く違う人種だ。さすが王女様だと感心した。

 だけど、それはとても怖くて、私には敵わない。

 明日は静かにこの学校を去ろう。

 二人の姿が目の前から消えてやっと我に返った。

「ビアンカ?大丈夫?」

 友人達が申し訳なさそうに声をかけてきた。

 この国で王族の次に力を持つ公爵家のフェリックス様。そしてオリソン国に惜しみない援助をしてくれたガルカッタ王国の王女様の二人を前にしては、誰も平気な顔をして私に手を差し伸べることは出来なかった。

「ごめんなさい、スプーンを落としただけなのにこんなことになって」

 無理して笑ったのがわかっている友人達は悔しさと申し訳なさなのか、私の謝罪に対して何度も首を横に振り「ビアンカ」と私の名前を何度も呼ぶ。

 友人達との最後の学校でのランチだったのに空気を壊してしまい、私の方が謝るしかない。

 そんな時ミーシャが「ね?最後だからみんなでうちに来て美味しいスイーツでも食べようよ」と言い出した。

「オリエ様にご迷惑では?」

「大丈夫。今日はメルーさんが美味しいお菓子をいろいろ作ってくれているの。ぜひビアンカを招待してと頼まれていたの」

「本当はサプライズで連れて行くつもりで、オリエ様が侯爵家にも許可をもらっているの」と笑いながら話してくれた。

 メルーさんはオリエ様がこの国に来てずっとお世話になっていた家の人。
 この国の王兄なのになぜか地位は平民のカイさんの奥様で、私もよくお呼ばれして美味しいお菓子や料理をご馳走になっている。

 母のような存在の人。そしてその娘さんで、カイさんにとっては義理の娘であるマーラさんは姉のような頼れる存在だった。

 この国に来てミーシャやオリエ様、イアン様のおかげで心優しいたくさんの人たちと知り合うことができた。

 オリエ様を慕う一つ年下のギルとも仲良くなった。彼は美味しい食べ物を嗅ぎつけるのが得意で、どこにでも顔を出す。

 今もこの食堂の少し離れた場所でフェリックス様達の背中を睨みつけて呪っているかのように何かぶつぶつと言っている姿が見えた。

 私はギルのその姿に思わず目を離せなかった。すると、ギルは私の視線に気がつきニヤッと笑い手を振ってきた。

 ミーシャとギルはちなみに従姉弟で、仲がいい。

「後で俺も行くからな!お菓子取っといてくれよ!」

 私達がこれから何をするのかすぐ察知して大きな声で手を振るギル。

 ミーシャは呆れながら「ギルのことなんて無視していこう」と私の腕を組んだ。

 その後、みんなでオリエ様のお家へ行き、美味しいお菓子やお茶をごちそうになり夕方まで賑やかに過ごした。

 みんながいてくれたから学校生活最後の思い出は最高の時間を過ごすことができた。

 さあ、明日は卒業式。そして新たな旅立ち。




 



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