あなたの愛はもう要りません。

たろ

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85話

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 卒業式の代表の挨拶は、最も成績優秀であるフェリックス様だった。

 壇上に上がり挨拶をする姿は皆が見惚れるくらい堂々としてかっこよかった。

 もともと綺麗な顔立ちで背も高く、元王族だけあって、品格があり他の者とは発せられるオーラが違う。

 人を惹きつける。

 だからミリル殿下もフェリックス様に惹かれたのだろう。

 わたしも彼に惹かれたからこそわかる。

 目を閉じて静かに彼の声を聞いていた。

 もう彼の声を聞くことはないだろう。

 話が終わり目を開けた。

 彼となぜか視線が重なった。

 どうして?偶然?

 貴方は明るい壇上の上。私はこの暗い式場で大勢いる中の一人。
 そこから私を見つけ出してしまうの?

 目が離せなかった。

 だって彼の瞳に『私』が映っているのだもの。

 あんなに愛していた人なのに。何も伝えてもらえず捨てられた。

 捨てたはずの恋心。
 まだ欠片だけでも残っていたのかもしれない。

 胸が苦しくて泣きそうになった。

 言い訳でもいいから一言、言って欲しかった。

『お前のことが嫌いになった』
『ミリルを愛してしまった』

 そう言ってくれれば……苦しくても諦めるのは簡単だったのに。

 彼が先に私から目を逸らした。

 彼が壇上から降りていく姿をもう見ることは出来なかった。

 周囲のことなど気にすることも忘れ涙が溢れた。

 そのあと、卒業式は終わり、一旦帰宅する。

 急いでメイクをし、髪を結ってもらい、ドレスに着替える。

 アッシュはそんな私の仕上がりに「おっ!綺麗になったな」と言ってくれた。

 馬車に乗り込み二人で卒業パーティーを行う学校の大きな会場へと向かった。

 綺麗に飾り付けされた会場には、美しく着飾った卒業生と正装をしてかしこまった姿の来賓たちで賑わっていた。

 婚約者と共に参加する生徒や恋人と参加する生徒もいて、いろんな年頃の人がいた。

 私はアッシュの腕に手を絡ませ、ゆっくりと会場に足を踏み入れた。

「緊張してる?」

「うん、少しだけ」

 卒業生の中には見知った人もいるけど飛び級での卒業なので友人はいない。

 ただ、パートナーとして参加している人の中には同級生もいるので少しホッとした。

 アッシュというとても強い味方が側にいてくれるので、かなり心強い。

 賑やかな楽しい会話、素敵な演奏、そして豪華な料理。

 舞踏会よりも格式が低く、年齢層も低いため、みんな緊張せず楽しんでいる。

 笑い合い、再会を誓い合い、未来への希望を話す。

 私も顔見知りとジュースで乾杯しながら楽しく会話が弾んだ。

「ビアンカ、踊ろう」

「うん」

 アッシュとのダンスは、練習に何度も付き合ってもらっていたので、息が合う。

 ふと背後から視線を感じた。

 アッシュは踊りながら私の耳元で囁いた。

「後ろを振り向くな。アイツらだ」

「うん、わかった」

 フェリックス様は自分から話しかけてはこない。でも、ミリル殿下はやたらと絡んでくる。

 もうあと少しでそんなこともされなくなる。

 この卒業パーティーさえやりすごせば終わる。

 アッシュは自然な形で彼らから遠ざかるようにステップを踏む。

 私はアッシュの踊りについて行く。

 音楽が終わり、「フー」っと息をつく。

「アイツらなんなんだ。こっちに何度も近寄ろうとして!ぶつかって難癖でもつけるつもりかよ!」

「そうかも」

 思わずうなずいてしまう。

 だってミリル殿下は私に対して今までそんな行動しか取ってこなかったもの。

「アッシュ、お腹が空いたわ。すぐにここを発つからしっかり食べておきたいの」

「そうだな、せっかくのタダ飯だし何か食うか?」

「次期侯爵閣下がタダ飯って……」

 呆れながら苦笑した。

「卒業パーティーの料理は王宮料理人がわざわざ出張してきて作るから美味しいんだ。食べなきゃ損だ」

 アッシュは私を一人にさせず、彼らに絡まれるのを心配して一緒に料理を取りに行こうと言った。

 料理を食べながら今から暮らす領地の話をしていると、やはり彼女は放ってはおいてくれなかった。

「まぁアッシュじゃないの?貴方がまさか卒業パーティーに参加しているなんて!」

 いや、さっき見ていたから知っているでしょう?






 
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