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86話
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「ご卒業おめでとうございます。貴女の輝かしい未来に幸多からんことをお祈りいたします」
アッシュが突然恭しく頭を下げた。
そしてそのまま頭を上げようとしない。
「アッシュ、久しぶりね」
クスクスと笑い出したミリル殿下はしばらく頭を下げたままのアッシュを見つめていた。
その瞳は悪戯しているかのように輝かせ、とても楽しそう。
アッシュのそばにいる私は目を白黒させて二人を交互にキョロキョロと視線を動かして見ていた。
フェリックス様は特に驚く様子もなくミリル殿下の楽しそうな顔を平然と見つめていた。
「いい加減、頭を上げなさいと言え!」
アッシュは頭を下げたまま少し怒り気味にミリル殿下に言った。
「あら?ずっとそうしているつもりだったの?自分で勝手に頭を下げたんだから勝手に頭を上げたらいいじゃない?」
「久しぶりに『姫様』らしく扱ってやったんだ。お前も久しぶりに姫様らしくしろ」
「わかったわ」
笑うのをやめた。
「アッシュ卿、頭を上げなさい」
アッシュが頭を上げると「で、俺に何か用があるのか?」と、どう見ても姫様に声をかけるようには見えない態度で聞いた。
「あら?用事がなければ声をかけてはダメなのかしら?貴方とわたくしは幼馴染でしょう?」
「だから敬意を払ってやっただろう?」
「ふふふっ。それならもう一つお祝いの言葉はないのかしら?」
「なんの祝いだ?」
「もちろん」
フェリックス様の腕に手を絡ませ、彼の体に大きなお胸を思いっきりすり寄せた。
「わたくしとフェリックスの婚約祝いよ」
「へえええ?まだ正式な婚約発表はされていないだろう?」
「今夜ここで発表するわ。アッシュ、そして……」
ミリル殿下が私へと視線を移した。
「ビアンカ様ももちろん、祝ってくださるわよね?」
アッシュはそっと私の肩に手を置き抱き寄せた。
「もちろんさ。お似合いのお二人で、愛と笑顔あふれる家庭を築いてください。永遠に愛を貫くことを祈っております」
アッシュはそう言うと「じゃあな」と私を連れ去るようにその場から離れた。
背後から二人の視線が刺さっているように感じるのは私だけなのかしら?
会場の反対側へと向かったところで足を止めた。
「アッシュ、ねぇ?アッシュ?」
私の顔を見るとイライラしているのがわかった。
「ったく、胸くそ悪い。ミリルのやつ、ほんと、昔っから性格悪い。わがままだし……ハァー」
大きな溜息をついて言いにくそうに私に謝り始めた。
「お前がまだ小さい頃、オリソン国に叔母上と遊びに来たことがあっただろう?」
「ああ、うん。何度かこの国にお母様と訪れたことがあったわ」
「その時、ミリルとも会ったことがあるんだ」
「私が?」
「小さかったから覚えていないだろうな。でもかなりお前は酷い目に遭ったんだ」
「酷い目?」
「………俺はお前のことを妹のように可愛がっていただろう?それが気に入らなくて、アイツ、お前のこと侯爵家の屋敷の納戸に一晩閉じ込めたことがあったんだ」
「………ああ、あの時?私たしか子猫と一緒にいたから怖くなかったわ」
思い出した!あの意地悪な女の子がミリル殿下だったんだ!
今はお化粧されているから顔が……うん、かなり違うけど、言われてみれば髪の毛の色も、なんとなく顔も面影があるかも?
アッシュの後ろにくっついて歩く私に「退きなさい!」「邪魔よ!」「アッシュはわたくしのものよ!」と何度も怒られた。
その度にアッシュが「気にするな」「お前は俺のそばにいろ」と言って、アッシュから離れようとすると止められた。
ミリル殿下はたまたま一人で庭で遊んでいた私に声をかけてきた。そして納戸に連れて行って「ここでしばらく子猫の面倒を見てあげてちょうだい」と頼まれた。
扉が閉まり、中から開かなくて、泣きそうになったけど、子猫がずっとそばに居てくれたから泣かずにすんだ。
「あの意地悪したのがミリル殿下だったのね」
あの私を見る意地悪な瞳の理由がわかって納得した。
「アイツは……まぁ、一度俺に婚約の申し入れをしてきたことがあったんだ……その時はまだ俺にも婚約者がいたし、アイツの性格も知ってるから断ったんだ」
「ミリル殿下ってアッシュが好きだったの?」
そして今度はフェリックス様?
「別に俺が好きだったからとは限らない。アイツは王女とはいえ、性格に難があるからなかなか婚約者が見つからなかったんだ。それで他国の者だし、幼馴染で俺に懐いていたのもあって話がきたんだと思う」
「もしかして、私って恨まれているとか?」
「ミリル殿下がお前を敵視しているのは確かだが、だからフェリックスを奪ったかはわからない。ただ、フェリックスに一目惚れして我儘を言って無理やり婚約しようとしているのかもしれない」
アッシュは従兄で、妹としか思われていない私を恨む?
「ミリル殿下はフェリックス様のことを好きなんだと思う。たまたま私の……恋人だっただけだと思う」
「俺もはっきりとは言えないが、また絡んできそうだからわざとあんな態度をとって、あいつの機嫌を良くしておこうと思ったんだ。俺にだけ絡んでくればいいと思って」
わかりにくいアッシュの優しさに私は苦笑した。
「アッシュ、そろそろ帰りましょう。私も服を着替えて急いで屋敷を出るわ」
なんだか嫌な予感がする。
少しでも早く王都から出ていかなければ。
隣町のホテルを予約してあるのでそこへ急いで行こう。
アッシュが突然恭しく頭を下げた。
そしてそのまま頭を上げようとしない。
「アッシュ、久しぶりね」
クスクスと笑い出したミリル殿下はしばらく頭を下げたままのアッシュを見つめていた。
その瞳は悪戯しているかのように輝かせ、とても楽しそう。
アッシュのそばにいる私は目を白黒させて二人を交互にキョロキョロと視線を動かして見ていた。
フェリックス様は特に驚く様子もなくミリル殿下の楽しそうな顔を平然と見つめていた。
「いい加減、頭を上げなさいと言え!」
アッシュは頭を下げたまま少し怒り気味にミリル殿下に言った。
「あら?ずっとそうしているつもりだったの?自分で勝手に頭を下げたんだから勝手に頭を上げたらいいじゃない?」
「久しぶりに『姫様』らしく扱ってやったんだ。お前も久しぶりに姫様らしくしろ」
「わかったわ」
笑うのをやめた。
「アッシュ卿、頭を上げなさい」
アッシュが頭を上げると「で、俺に何か用があるのか?」と、どう見ても姫様に声をかけるようには見えない態度で聞いた。
「あら?用事がなければ声をかけてはダメなのかしら?貴方とわたくしは幼馴染でしょう?」
「だから敬意を払ってやっただろう?」
「ふふふっ。それならもう一つお祝いの言葉はないのかしら?」
「なんの祝いだ?」
「もちろん」
フェリックス様の腕に手を絡ませ、彼の体に大きなお胸を思いっきりすり寄せた。
「わたくしとフェリックスの婚約祝いよ」
「へえええ?まだ正式な婚約発表はされていないだろう?」
「今夜ここで発表するわ。アッシュ、そして……」
ミリル殿下が私へと視線を移した。
「ビアンカ様ももちろん、祝ってくださるわよね?」
アッシュはそっと私の肩に手を置き抱き寄せた。
「もちろんさ。お似合いのお二人で、愛と笑顔あふれる家庭を築いてください。永遠に愛を貫くことを祈っております」
アッシュはそう言うと「じゃあな」と私を連れ去るようにその場から離れた。
背後から二人の視線が刺さっているように感じるのは私だけなのかしら?
会場の反対側へと向かったところで足を止めた。
「アッシュ、ねぇ?アッシュ?」
私の顔を見るとイライラしているのがわかった。
「ったく、胸くそ悪い。ミリルのやつ、ほんと、昔っから性格悪い。わがままだし……ハァー」
大きな溜息をついて言いにくそうに私に謝り始めた。
「お前がまだ小さい頃、オリソン国に叔母上と遊びに来たことがあっただろう?」
「ああ、うん。何度かこの国にお母様と訪れたことがあったわ」
「その時、ミリルとも会ったことがあるんだ」
「私が?」
「小さかったから覚えていないだろうな。でもかなりお前は酷い目に遭ったんだ」
「酷い目?」
「………俺はお前のことを妹のように可愛がっていただろう?それが気に入らなくて、アイツ、お前のこと侯爵家の屋敷の納戸に一晩閉じ込めたことがあったんだ」
「………ああ、あの時?私たしか子猫と一緒にいたから怖くなかったわ」
思い出した!あの意地悪な女の子がミリル殿下だったんだ!
今はお化粧されているから顔が……うん、かなり違うけど、言われてみれば髪の毛の色も、なんとなく顔も面影があるかも?
アッシュの後ろにくっついて歩く私に「退きなさい!」「邪魔よ!」「アッシュはわたくしのものよ!」と何度も怒られた。
その度にアッシュが「気にするな」「お前は俺のそばにいろ」と言って、アッシュから離れようとすると止められた。
ミリル殿下はたまたま一人で庭で遊んでいた私に声をかけてきた。そして納戸に連れて行って「ここでしばらく子猫の面倒を見てあげてちょうだい」と頼まれた。
扉が閉まり、中から開かなくて、泣きそうになったけど、子猫がずっとそばに居てくれたから泣かずにすんだ。
「あの意地悪したのがミリル殿下だったのね」
あの私を見る意地悪な瞳の理由がわかって納得した。
「アイツは……まぁ、一度俺に婚約の申し入れをしてきたことがあったんだ……その時はまだ俺にも婚約者がいたし、アイツの性格も知ってるから断ったんだ」
「ミリル殿下ってアッシュが好きだったの?」
そして今度はフェリックス様?
「別に俺が好きだったからとは限らない。アイツは王女とはいえ、性格に難があるからなかなか婚約者が見つからなかったんだ。それで他国の者だし、幼馴染で俺に懐いていたのもあって話がきたんだと思う」
「もしかして、私って恨まれているとか?」
「ミリル殿下がお前を敵視しているのは確かだが、だからフェリックスを奪ったかはわからない。ただ、フェリックスに一目惚れして我儘を言って無理やり婚約しようとしているのかもしれない」
アッシュは従兄で、妹としか思われていない私を恨む?
「ミリル殿下はフェリックス様のことを好きなんだと思う。たまたま私の……恋人だっただけだと思う」
「俺もはっきりとは言えないが、また絡んできそうだからわざとあんな態度をとって、あいつの機嫌を良くしておこうと思ったんだ。俺にだけ絡んでくればいいと思って」
わかりにくいアッシュの優しさに私は苦笑した。
「アッシュ、そろそろ帰りましょう。私も服を着替えて急いで屋敷を出るわ」
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