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88話
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「御者がやられた」
アッシュの顔がこわばった。
私が窓から外を見ようとしたら「外を見るな!しゃがんでいろ」と怒鳴られた。
「うん」
何もできない私はみんなの邪魔にならないように静かにしゃがんでみんなの様子をうかがった。
「ビアンカ!いいか、さっき言ったように静かにここに居ろ。椅子の中に隠れた方がいいのかもしれないが、もし火でもつけられたら逆に逃げられなくなる。俺たちが顔を出すまで体を小さくしてじっとしてて」
私はコクンとうなずいた。本当はとても怖かった。だけど、アッシュはもちろん護衛の二人も屋敷で何度も顔を合わせている。
とても強い人たち。信じるしかない。
「本当は護衛を一人残すべきなのかもしれないが、敵の人数が多すぎる」
「大丈夫……みんな死なないでね」
「当たり前だろう。ビアンカ、泣くな。無事に帰ったらお前は新しい人生を歩むんだろう?」
「………うん」
気づかなかった……私……泣いてたんだ。
怖いのは当たり前。でもそれよりもみんなが怪我しないか不安で仕方がない。
震える体を自分で抱きしめてみんなが馬車から出た瞬間、言いつけ通りにすぐに中から鍵を閉めた。
両手で耳を塞ぎ、外の音を遮断した。
でもふと御者の怪我が気になった。
怪我をしているのに外でそのまま放置されている……大丈夫かしら?
外には出られない。だからそっと御者の座っている方へ近寄り、小さな小窓から御者の姿を覗いてみた。
血を流し、ぐったりしているのがわかった。
ほんの少し小窓を開けて「大丈夫ですか?」と小さな声で話しかけた。
「………うっ……」
かすかに苦しそうな声が聞こえた。
「動けますか?」
「馬車の中に移動できますか?」
馬車の中には何かあっては困るからと薬や包帯が常に用意されていた。私はその中から止血剤を探した。
「………僕のことは……放って…おいてください」
「でも……血を止めないと……」
小窓から手に握っていた止血剤を渡した。
そしてそばにあったタオルや包帯、水の入った水筒を渡すと受け取ってくれた。
「ありがとうございます……」
騎士は自分の怪我の治療もある程度医者を頼らずともできると、以前フェリックス様が教えてくれた。
命の危険にさらされることもあるので、多少の痛みにも耐えられる。そして何かあっても自分で対処できるように訓練されているらしい。
それでも痛いものは痛い。
アッシュ達のおかげでまだ馬車に敵は近付いていない。騎士は様子をうかがいながら止血をして、包帯を強めにしめてから私のいる小窓に声をかけてきた。
「ありがとうございます。これでビアンカ様をお護りすることができます」
まだ顔色は悪い。それでも……
「アッシュ様達の足手まといになりますので向こうへは加勢に行けませんが、ビアンカ様をお護りすることはできますので安心してください」
「…………ありがとう」
本当はそんなことしないで、と言いたかった。でも彼らは騎士だ。誇り高く信念を持っている。
また馬車の床にしゃがんでじっとしていた。私にできることは邪魔しないこと。
どれくらい時間が経ったのだろう。とても長く感じた。
でももしかしたらまだあまり時間は経っていないのかもしれない。
馬車の扉をガチャガチャと無理やり開けようとする。
数人の敵と御者が戦っているのが窓から見えた。
アッシュ達が劣勢なのかもしれない。
怪我はない?倒れていない?
心配でたまらない。
でも声を出さないように手で口を覆う。
扉を壊そうと蹴り始めた。
椅子の中に隠れることはしなかった。隠れたところで、馬車の中にいることは知られているもの。
死ぬ時はみんな一緒。
激しく壊そうとする扉の音がピタリと止んだ。
扉の方へそっと視線を向ける。
そこに見えるのは……
ダイガット?
え?なぜ?
「開けて!」
彼の声が聞こえる。
別に会いたいなんて思わないし、彼のことなんて悪いけど思い出すことすらない。
「ここから逃げよう。大丈夫だ、カイ殿も加勢にきてる」
カイさん?なぜ?ダイガットと?
反対の窓の方へ近づきそっと外を見た。
離れたところにたくさんの騎士達がいた。
敵は地面にねじ伏せられ転がっていた。
まだ闘っている人もいるけどあと少しで制圧されそうだ。
「開けて」
頷き扉を開ける。
「……よかった……怪我はないか?」
「うん、それよりアッシュ達は?御者は?」
ダイガットの問いかけは無視してみんなのことを訊く。
「ああ、まぁ多少は怪我しているけど命に別状はない。俺も少し怪我しているけどね」
ダイガットは自分の腕から流れる血をチラリと見るけど、その言葉は無視!
「アッシュ殿に頼まれたんだ。今俺が一番自由に動けるから、ビアンカを安全な場所に移してほしいと。だから、あっちへ行こう」
ダイガットが言うあっちとは騎士が待機している場所だった。
「わかったわ」
アッシュ達の邪魔はしたくない。
移動の間、アッシュや護衛をしてくれた騎士たちを探した。
みんなボロボロになりながらも命だけは大丈夫だ。
まだ戦っているのはアッシュ。
彼なら大丈夫。そばにはカイさんもいる。
「ビアンカ様!」
私を護衛してくれていた女騎士さんも足を怪我していて治療中だった。
「大丈夫ですか?」
「これくらい大したことありません。怖かったでしょう?」
自分のことより私を心配してくれる彼女に「ううん、守ってくれてありがとう」と思わず泣き出してしまった。
アッシュの顔がこわばった。
私が窓から外を見ようとしたら「外を見るな!しゃがんでいろ」と怒鳴られた。
「うん」
何もできない私はみんなの邪魔にならないように静かにしゃがんでみんなの様子をうかがった。
「ビアンカ!いいか、さっき言ったように静かにここに居ろ。椅子の中に隠れた方がいいのかもしれないが、もし火でもつけられたら逆に逃げられなくなる。俺たちが顔を出すまで体を小さくしてじっとしてて」
私はコクンとうなずいた。本当はとても怖かった。だけど、アッシュはもちろん護衛の二人も屋敷で何度も顔を合わせている。
とても強い人たち。信じるしかない。
「本当は護衛を一人残すべきなのかもしれないが、敵の人数が多すぎる」
「大丈夫……みんな死なないでね」
「当たり前だろう。ビアンカ、泣くな。無事に帰ったらお前は新しい人生を歩むんだろう?」
「………うん」
気づかなかった……私……泣いてたんだ。
怖いのは当たり前。でもそれよりもみんなが怪我しないか不安で仕方がない。
震える体を自分で抱きしめてみんなが馬車から出た瞬間、言いつけ通りにすぐに中から鍵を閉めた。
両手で耳を塞ぎ、外の音を遮断した。
でもふと御者の怪我が気になった。
怪我をしているのに外でそのまま放置されている……大丈夫かしら?
外には出られない。だからそっと御者の座っている方へ近寄り、小さな小窓から御者の姿を覗いてみた。
血を流し、ぐったりしているのがわかった。
ほんの少し小窓を開けて「大丈夫ですか?」と小さな声で話しかけた。
「………うっ……」
かすかに苦しそうな声が聞こえた。
「動けますか?」
「馬車の中に移動できますか?」
馬車の中には何かあっては困るからと薬や包帯が常に用意されていた。私はその中から止血剤を探した。
「………僕のことは……放って…おいてください」
「でも……血を止めないと……」
小窓から手に握っていた止血剤を渡した。
そしてそばにあったタオルや包帯、水の入った水筒を渡すと受け取ってくれた。
「ありがとうございます……」
騎士は自分の怪我の治療もある程度医者を頼らずともできると、以前フェリックス様が教えてくれた。
命の危険にさらされることもあるので、多少の痛みにも耐えられる。そして何かあっても自分で対処できるように訓練されているらしい。
それでも痛いものは痛い。
アッシュ達のおかげでまだ馬車に敵は近付いていない。騎士は様子をうかがいながら止血をして、包帯を強めにしめてから私のいる小窓に声をかけてきた。
「ありがとうございます。これでビアンカ様をお護りすることができます」
まだ顔色は悪い。それでも……
「アッシュ様達の足手まといになりますので向こうへは加勢に行けませんが、ビアンカ様をお護りすることはできますので安心してください」
「…………ありがとう」
本当はそんなことしないで、と言いたかった。でも彼らは騎士だ。誇り高く信念を持っている。
また馬車の床にしゃがんでじっとしていた。私にできることは邪魔しないこと。
どれくらい時間が経ったのだろう。とても長く感じた。
でももしかしたらまだあまり時間は経っていないのかもしれない。
馬車の扉をガチャガチャと無理やり開けようとする。
数人の敵と御者が戦っているのが窓から見えた。
アッシュ達が劣勢なのかもしれない。
怪我はない?倒れていない?
心配でたまらない。
でも声を出さないように手で口を覆う。
扉を壊そうと蹴り始めた。
椅子の中に隠れることはしなかった。隠れたところで、馬車の中にいることは知られているもの。
死ぬ時はみんな一緒。
激しく壊そうとする扉の音がピタリと止んだ。
扉の方へそっと視線を向ける。
そこに見えるのは……
ダイガット?
え?なぜ?
「開けて!」
彼の声が聞こえる。
別に会いたいなんて思わないし、彼のことなんて悪いけど思い出すことすらない。
「ここから逃げよう。大丈夫だ、カイ殿も加勢にきてる」
カイさん?なぜ?ダイガットと?
反対の窓の方へ近づきそっと外を見た。
離れたところにたくさんの騎士達がいた。
敵は地面にねじ伏せられ転がっていた。
まだ闘っている人もいるけどあと少しで制圧されそうだ。
「開けて」
頷き扉を開ける。
「……よかった……怪我はないか?」
「うん、それよりアッシュ達は?御者は?」
ダイガットの問いかけは無視してみんなのことを訊く。
「ああ、まぁ多少は怪我しているけど命に別状はない。俺も少し怪我しているけどね」
ダイガットは自分の腕から流れる血をチラリと見るけど、その言葉は無視!
「アッシュ殿に頼まれたんだ。今俺が一番自由に動けるから、ビアンカを安全な場所に移してほしいと。だから、あっちへ行こう」
ダイガットが言うあっちとは騎士が待機している場所だった。
「わかったわ」
アッシュ達の邪魔はしたくない。
移動の間、アッシュや護衛をしてくれた騎士たちを探した。
みんなボロボロになりながらも命だけは大丈夫だ。
まだ戦っているのはアッシュ。
彼なら大丈夫。そばにはカイさんもいる。
「ビアンカ様!」
私を護衛してくれていた女騎士さんも足を怪我していて治療中だった。
「大丈夫ですか?」
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自分のことより私を心配してくれる彼女に「ううん、守ってくれてありがとう」と思わず泣き出してしまった。
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