あなたの愛はもう要りません。

たろ

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91話

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「怖くないからな」

 アッシュが横で心配そうに見ていた。

 まるで兄というより父親のようだ。
 横でそわそわして、はっきり言ってうっとうしい。

「アッシュ!邪魔だから部屋から出てて!」

 記憶を取り戻すための処置が始まった。

 魔法使いなんて、私が住んでいた国でもオリソン国でもあまり耳にしない。もちろん存在するのは知っていた。
 でも、一生のうちで会えることの方が少ないと言われている人達だ。

 もし魔法薬が手に入るとしても、かなりの高額なお金を積まなければならなくて、簡単に手は出せない。

 私の記憶をなくすための忘却薬だって、国王の指示がなければ手に入らないものだった。

 それが今、目の前に魔法使いがいる。

 この世の人とは思えない美しい顔。銀色の長い髪、瞳は黒いはずなのによく見ると赤みがかっていた。

 ベッドの上から見る魔法使いさんに思わず「きれい……」と呟いた。

「あっ?なんだ?」

 この人はかなりぶっきらぼうでアッシュの方がまだ言葉も態度も優しいかも。

「ごめんなさい、貴方があまりにも綺麗だから」

「ふんっ!人の顔をジロジロ見るな!鬱陶しい」

「すみません……でも目を開けておけと言ったのは貴方ですよ?」

「だからって人の顔を見るな!綺麗なんて男に言われて嬉しいと思うのか?」

 この人はこの美しすぎる顔で色々嫌なことがあったのかもしれない。

「私が男なら嬉しいかも」

 ボソッと呟いた。

「………なんでそう思う?」

「その顔ならこの世の美女を囲うこともできるのよ?それに毎日美しい顔を嫌というほど堪能できるなんて中々ないことだわ」

「はっ?なんだそれ」

 呆れられたみたい。

 でも、ないもの強請りってあると思う。
 私だってもう少し綺麗でお胸も大きければ、フランソア様やミリル殿下のように愛されたかもしれないじゃない。

「お前、子供の頃と変わらないな」

「うん?私と会ったことがあるの?」

「ああ、これから思い出すだろう」

「こんな綺麗な人を忘れていたなんて……なんてもったいないの!」

 記憶を取り戻すのも少し怖かったけど、少しは楽しみもあるかも。

 実はその頃の半年くらいの記憶がかなり消え去っていたことに気がついた。

 これは記憶を取り戻す前に事前に魔法使いやカイさん、アッシュ達と話してわかったことだった。

 幼い頃は幸せだったけどお母様が亡くなってからがあまりにも辛かったので、つい思い出すことを避けていたようで、記憶の曖昧さにあまりおかしいと感じていなかった。

 ミリル殿下に意地悪されたのは、納戸に閉じ込められたり山に置き去りにされただけではなかったらしい。

 他にもジュースを頭からかけられたり、歩いていて背中を押されるなんて当たり前だったとか。

 よくもまあ次から次へと私に意地悪ばかりしていたなと感心させられた。

 今だったらこっそりやり返すことも考えたかもしれないな。
 幼い頃は可愛らしくただ泣いていただけなんだろうな。

「お前、自分のこと幼い頃ミリルに意地悪されて辛かっただろうと思ってるみたいだが、違うぞ」

「え?どうしてわかったのですか?」

 私、声に出してた?
 出してないわよね?

「お前の記憶を戻すために薬ではなく、直接俺の魔力を流しているんだ。お前の思考、ダダ漏れだ。ついでにお前の記憶も俺にはダダ漏れなんだ」

「………」

 嘘!すっごく、恥ずかしいんだけど……

 自分の心が全てわかるなんて……

「うるさい声が聞こえるんだ!静かにしていればそんなに聞こえてこない!ごちゃごちゃうるさすぎるんだ!お前は!」

「………ハイ」

 思わず声が小さくなった。

「ほんと変わらないな。意地悪されてるのにニコニコ笑って、傷つきもせず、仕返しに虫を捕まえてミリルにプレゼントしたり、転んだフリをして水をぶっかけたり、お前も十分小さいながらに、仕返ししていたようだな」

 ――うん……かなり私ってお転婆だったみたい。

 記憶を取り戻すたびに……顔が赤くなってしまう。

 恥ずかしすぎる過去。ついでに無くしたのではなく、忘れていた過去やお母様が亡くなったショックで忘れてしまった過去も思い出してしまい、真っ赤な顔をしたり、悲しかった過去を思い出したりで、私は忙しく心の中が揺さぶられまくった。

 薬と違い、魔力による記憶回復なので、私の体には負担はかからない。

 とても優しい温かい魔力が自然と流れてくる感じだ。

 もし敵に捕まり無理やり強い薬を使われて記憶を戻されていたら、私は廃人になっていたかもしれないとカイさんに聞かされ、自分を自分でギュッと抱きしめてしまった。






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