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豊穣祭。②
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「父さんたちもカレンを探してるんだ。早く合流しよう」
カレンと手を繋ぎ大広場の方へと向かった。
30分後、見つかっても見つからなくてもそこで待っているようにと約束していた。
「兄様……カレンね、すっごく怖かったの」
「うん、ごめんね。僕が手を離してしまったから」
「違う……カレンがキョロキョロしてたから……こんなに人がいっぱいなんて思わなかった……村にはこんなに人がいないもの」
「カレンは村からあまり出たことがないからね、怖かったよね?」
「でも助けてもらったから……」
「優しい人がいてよかった」
「うん……でもあの女の人………」
カレンが何か言いかけた時、頭上で大きな音がパンパンと聞こえてきた。
「に、兄様……」
「あれは花火の音だ」
カレンは花火は夜に上がると思っていたが、今は昼間。
「昼間の花火は音だけなんだ。今からパレードがあるっていうお知らせなんだ」
「パレード?」
生まれて初めてのお祭りのカレンには聞くもの見るもの全てが驚きで、キリアンの話に目をパチパチさせながら聞いていた。
迷子になって怖かったことはすぐに忘れてしまうくらいいろんなことに好奇心をかき立てられた。
キリアンから説明され、「見てみたい!」と大きな声で言った。
「みたい?僕もみてみたい。でもまずは父さんたちと合流しなきゃ」
「もうすぐくるかな?」
約束までまだ15分以上ある。今頃両親も必死でカレンを探していることだろう。
カレンはキョロキョロしているとさっき助けてくれた女の人を見かけた。
「兄様!あの人、さっき助けてくれた人!」
「どこ?」
「あっち!」
たくさん人が行き交う道とは反対の祭りの屋台がない路地の方に歩く女性を指差した。
「あっちは民家……家に帰るのかな?」
「わかんない」
「カレン、お礼だけは言わなくっちゃ。行こう」
カレンの手を引いて慌ててキリアンは駆け出した。
大広場からあまり離れたくはない。だからできるだけ急いで女の人のところへ行きたかった。
「待って!すみません!」
キリアンは大きな声を出した。
何度も大きな声で叫んだ。
女の人の姿が見えなくなりそうになり「待ってください!」とカレンの手を離して駆け出した。
カレンはキリアンの後ろを必死でついて行った。
そして……
カレンの小さな口を大きな手が塞いだ。知らない男の人がカレンの体を抱き抱えると走って連れ去った。
カレンは口を塞がれ大きな声が出ない。
「うっ……うううっ…」
ーー兄様!!
声を出そうとしたが、男の人は「黙れ!騒ぐと殺すぞ」とカレンに低い声で言った。
カレンは恐怖と男の人の生温かい腕の中が気持ち悪くて声が出なかった。
やっと会えたキリアンからまた遠ざかっていく。
自分が連れ去られたことは幼いながらに理解していた。
ただ、どこに連れて行かれるのかこれからどうなるのか……
ーー精霊様……
心の中で森の中でいつも助けてくれる精霊を呼んだ。ここは森から離れていて声は届かない。
でも今自分が助けを求められるのは精霊……
両親は今も迷子になったカレンを探して祭りの人混みにいる。
カレンはハンカチで薬品を嗅がされていた。
まるで眠ってしまっている子供を父親が抱っこしているようにしか見えない。
男はそのままカレンを抱っこしてこの町一番の高級なホテルに連れて行かれた。
部屋の中に入ると「遅かったわね」とカレンの姿を見ながら男を叱った。
「すみません、騒がれると困るので薬で眠らせたので少し手間取りました」
男は自分より上の身分、雇い主に低姿勢で謝罪した。
「ふん!この子がカレンね。アイシャの生まれ変わり………顔は似ていないわね……でも薄紫色の瞳が同じだとか言ってたわね……ったく、こんな時に寝てしまって。瞳の色を見たかったのに!」
女はカレンを床に寝かせるように言った。
「ベッドにこんな汚い子を寝かせたら汚れてしまうわ」
男は戸惑いながらも床のカーペットの上にそっと置いた。
「後でこの子の瞳を抉り取らなきゃ。アイシャと同じ瞳で見られるなんて気持ち悪いわ、だいたい死んだはずなのに亡霊のようにまた現れるなんて!幸せに暮らしているなんて許せるはずがないわ。死ぬまで不幸な目に遭えばいいのよ」
女は冷たい目でカレンを見下ろしていた。
男は驚きながら『瞳を抉る?』と呟き、あまりの恐怖に手で体を摩った。
それはもしかして……
俺がしないといけないのか?
女は確かに金をたくさん持っている。でもその顔には狂気が浮かび、異常過ぎて逃げ出したくなった。
こんな可愛らしい女の子に何をしようというのだろう。高額な金に釣られ、連れ去っては来たもののまさか瞳を抉るなんて……
男は壁のそばに黙って立っていたが、金さえもらえばすぐにでも逃げようと準備していた。
女はカバンから金貨を数十枚取り出して男に言った。
「もっとたくさんお金をあげるわ、どう?金貨なんて滅多に見られないでしょう?」
男は思わずゴクっと唾を飲み込んだ。
カレンはまだ床で眠り続けていた。
カレンと手を繋ぎ大広場の方へと向かった。
30分後、見つかっても見つからなくてもそこで待っているようにと約束していた。
「兄様……カレンね、すっごく怖かったの」
「うん、ごめんね。僕が手を離してしまったから」
「違う……カレンがキョロキョロしてたから……こんなに人がいっぱいなんて思わなかった……村にはこんなに人がいないもの」
「カレンは村からあまり出たことがないからね、怖かったよね?」
「でも助けてもらったから……」
「優しい人がいてよかった」
「うん……でもあの女の人………」
カレンが何か言いかけた時、頭上で大きな音がパンパンと聞こえてきた。
「に、兄様……」
「あれは花火の音だ」
カレンは花火は夜に上がると思っていたが、今は昼間。
「昼間の花火は音だけなんだ。今からパレードがあるっていうお知らせなんだ」
「パレード?」
生まれて初めてのお祭りのカレンには聞くもの見るもの全てが驚きで、キリアンの話に目をパチパチさせながら聞いていた。
迷子になって怖かったことはすぐに忘れてしまうくらいいろんなことに好奇心をかき立てられた。
キリアンから説明され、「見てみたい!」と大きな声で言った。
「みたい?僕もみてみたい。でもまずは父さんたちと合流しなきゃ」
「もうすぐくるかな?」
約束までまだ15分以上ある。今頃両親も必死でカレンを探していることだろう。
カレンはキョロキョロしているとさっき助けてくれた女の人を見かけた。
「兄様!あの人、さっき助けてくれた人!」
「どこ?」
「あっち!」
たくさん人が行き交う道とは反対の祭りの屋台がない路地の方に歩く女性を指差した。
「あっちは民家……家に帰るのかな?」
「わかんない」
「カレン、お礼だけは言わなくっちゃ。行こう」
カレンの手を引いて慌ててキリアンは駆け出した。
大広場からあまり離れたくはない。だからできるだけ急いで女の人のところへ行きたかった。
「待って!すみません!」
キリアンは大きな声を出した。
何度も大きな声で叫んだ。
女の人の姿が見えなくなりそうになり「待ってください!」とカレンの手を離して駆け出した。
カレンはキリアンの後ろを必死でついて行った。
そして……
カレンの小さな口を大きな手が塞いだ。知らない男の人がカレンの体を抱き抱えると走って連れ去った。
カレンは口を塞がれ大きな声が出ない。
「うっ……うううっ…」
ーー兄様!!
声を出そうとしたが、男の人は「黙れ!騒ぐと殺すぞ」とカレンに低い声で言った。
カレンは恐怖と男の人の生温かい腕の中が気持ち悪くて声が出なかった。
やっと会えたキリアンからまた遠ざかっていく。
自分が連れ去られたことは幼いながらに理解していた。
ただ、どこに連れて行かれるのかこれからどうなるのか……
ーー精霊様……
心の中で森の中でいつも助けてくれる精霊を呼んだ。ここは森から離れていて声は届かない。
でも今自分が助けを求められるのは精霊……
両親は今も迷子になったカレンを探して祭りの人混みにいる。
カレンはハンカチで薬品を嗅がされていた。
まるで眠ってしまっている子供を父親が抱っこしているようにしか見えない。
男はそのままカレンを抱っこしてこの町一番の高級なホテルに連れて行かれた。
部屋の中に入ると「遅かったわね」とカレンの姿を見ながら男を叱った。
「すみません、騒がれると困るので薬で眠らせたので少し手間取りました」
男は自分より上の身分、雇い主に低姿勢で謝罪した。
「ふん!この子がカレンね。アイシャの生まれ変わり………顔は似ていないわね……でも薄紫色の瞳が同じだとか言ってたわね……ったく、こんな時に寝てしまって。瞳の色を見たかったのに!」
女はカレンを床に寝かせるように言った。
「ベッドにこんな汚い子を寝かせたら汚れてしまうわ」
男は戸惑いながらも床のカーペットの上にそっと置いた。
「後でこの子の瞳を抉り取らなきゃ。アイシャと同じ瞳で見られるなんて気持ち悪いわ、だいたい死んだはずなのに亡霊のようにまた現れるなんて!幸せに暮らしているなんて許せるはずがないわ。死ぬまで不幸な目に遭えばいいのよ」
女は冷たい目でカレンを見下ろしていた。
男は驚きながら『瞳を抉る?』と呟き、あまりの恐怖に手で体を摩った。
それはもしかして……
俺がしないといけないのか?
女は確かに金をたくさん持っている。でもその顔には狂気が浮かび、異常過ぎて逃げ出したくなった。
こんな可愛らしい女の子に何をしようというのだろう。高額な金に釣られ、連れ去っては来たもののまさか瞳を抉るなんて……
男は壁のそばに黙って立っていたが、金さえもらえばすぐにでも逃げようと準備していた。
女はカバンから金貨を数十枚取り出して男に言った。
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男は思わずゴクっと唾を飲み込んだ。
カレンはまだ床で眠り続けていた。
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