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豊穣祭。③
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男は金欲しさに思わず頷いて了承してしまった。
でも……どうやって目を抉るなんて……
ゴクッと生唾を飲んだ。
カレンはまだ薬のせいで目覚めていない。
いっそ今……
男の目にも狂気が。
✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎
「カレン、どこに行ったんだ?」
キリアンはまさかまた逸れてしまうと思わなかった。
だってほんの少しの距離しか離れていなかったし、カレンは後ろからついてきていたはずだ。
必死で探しているとさっき追いかけた女の人がキリアンのところへやってきた。
「カレンちゃん、いなくなったの?」
女性は顔色が変わっていた。全く関係ないはずなのにとても心配そうにしていた。
「はい、後ろにいたのに……」
キリアンもこの女性がカレンの兄であることをなぜ知っているのか、どうしてこんなに心配しているのか、その時は疑問にすら思わなかった。カレンがいなくなったことに動揺してしまい話すよりも早くカレンを探したくて「すみません、カレンを探したいので」と言って女性を振り払うように駆け出した。
女性はキリアンの後ろ姿をじっと見つめていた。
「あなたたちも探して」
近くにいた護衛の男たちが数人「はい」と返事をするとすぐに探し始めた。
「……アイシャ」
女性は小さな声で呟いた。
✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎
眠るアイシャのそばに男は行くと、先の尖ったハサミを握りしめて震える手を振り上げた。
一気にやればいいんだ。
金さえもらえれば病気の娘を医者に診てもらえる。
振り上げた手をカレンに向けて振り下ろすだけ……なのに、カレンと変わらない娘のベッドに横たわる姿が目に浮かんでしまった。
手は固まって動こうとしない。
それは自分が過ちを犯そうとしていることに自身が止めようとしているのか、それとも何かわからないものが自分を止めているのか………
「さっさとしなさい!なんのために高いお金を払っていると思っているの?ほんっと、使えない男ね!こんな小娘、目が見えなくなったからって困るわけじゃない!どうせなら殺してやりたいくらいよ!アイシャが死んで幸せになれると思ったのに、いまだにアイシャの存在がチラつくなんて……許せないわ」
ローゼは王妃として王宮から出してもらえずに仕事ばかりさせられていた。
そんな中、偶然アイシャの生まれ変わりがいることを知った。
それも憎っくきエマの子供として。
夫であるエリックが誰にも言わずその子に会いに行ったと聞いた時、憎悪で顔が歪んだ。
その全ての話は第二妃であるバーバラが仕事中に訪ねてきて知らされたのだった。
自分は机から離れる時間もなく必死で働いているというのにバーバラは王子の子育てが忙しいという理由で仕事はしなくてもいいと言われ、毎日優雅に暮らしていた。
そして仕事の邪魔をしにきてソファでくつろぎながら目の前でお茶を楽しんでいる。
ペンを持つ手は苛立ちと憎悪で折れそうなほど力が入っていた。
「わたくしはあなたと違って能力が高いから大切な仕事を陛下に任されているの、さっさとそのお茶を飲んで帰ってちょうだい」
「王妃様……わたくし少しお話しをしたくて………陛下には初恋の人がいたことをご存知?その初恋は悲しい別れで終わったらしいの……でも生まれ変わって今は幸せに暮らしているらしいの……」
「は?」
ローゼは意味がわからなかった。だってアレは死んだはず。火事で火傷を負って助からず。だからこそ今自分は愛する人の妻となりこの国で一番上に立つ王妃としているのだから。
ローゼは一言も言葉が出なかった。頭の中ではいろんなことを考えていた。
これはバーバラの嫌がらせで作り話なのでは?
自分が子供を産むことしかできない役立たずだから、自分に嫉妬しているだけでこんな話をしているのか?
「ふふっ、信じられないという顔をしているわね?辺境伯領に住んでいるエマさんを探してみてはいかがかしら?」
クスクス笑いながら半分だけ飲んだお茶のティーカップをテーブルに置いた。
「わたくし、このお茶のお味、合わないみたい」
そう言ってティーカップの縁を指で触った。
「では毎日お忙しく働かれている王妃様のお邪魔になるようだから帰りますね、そろそろ息子のお昼寝が終わる頃だから」
ローゼは眉根を寄せた。
態と息子の話をローゼの前でするのはいつものこと。エリックはローゼと一度も閨を共にしたことがない。だから子供ができることはない。
どんなに誘っても応じてもらえなかった。なのにバーバラは……王子を産み、今もお腹に二人目の子供を宿していた。
「失礼致しますわ」
バーバラは結婚して数年経ってもいまだに少女のような可愛らしさを持っている。
エリックに大切にされ幸せな日々を送っている。
一方の自分は仕事ばかりして……王妃としての地位は与えられても全く幸せだと感じることができない。でも、この地位にしがみつくしか自分には生きる術がない。
そして、調べた結果……
ローゼはエリックが外交で城を空けている間にこの辺境地へとやってきた。
生まれ変わったアイシャを見るために。そして………殺すか何か手を加えるか……決めるために。
でも……どうやって目を抉るなんて……
ゴクッと生唾を飲んだ。
カレンはまだ薬のせいで目覚めていない。
いっそ今……
男の目にも狂気が。
✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎
「カレン、どこに行ったんだ?」
キリアンはまさかまた逸れてしまうと思わなかった。
だってほんの少しの距離しか離れていなかったし、カレンは後ろからついてきていたはずだ。
必死で探しているとさっき追いかけた女の人がキリアンのところへやってきた。
「カレンちゃん、いなくなったの?」
女性は顔色が変わっていた。全く関係ないはずなのにとても心配そうにしていた。
「はい、後ろにいたのに……」
キリアンもこの女性がカレンの兄であることをなぜ知っているのか、どうしてこんなに心配しているのか、その時は疑問にすら思わなかった。カレンがいなくなったことに動揺してしまい話すよりも早くカレンを探したくて「すみません、カレンを探したいので」と言って女性を振り払うように駆け出した。
女性はキリアンの後ろ姿をじっと見つめていた。
「あなたたちも探して」
近くにいた護衛の男たちが数人「はい」と返事をするとすぐに探し始めた。
「……アイシャ」
女性は小さな声で呟いた。
✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎
眠るアイシャのそばに男は行くと、先の尖ったハサミを握りしめて震える手を振り上げた。
一気にやればいいんだ。
金さえもらえれば病気の娘を医者に診てもらえる。
振り上げた手をカレンに向けて振り下ろすだけ……なのに、カレンと変わらない娘のベッドに横たわる姿が目に浮かんでしまった。
手は固まって動こうとしない。
それは自分が過ちを犯そうとしていることに自身が止めようとしているのか、それとも何かわからないものが自分を止めているのか………
「さっさとしなさい!なんのために高いお金を払っていると思っているの?ほんっと、使えない男ね!こんな小娘、目が見えなくなったからって困るわけじゃない!どうせなら殺してやりたいくらいよ!アイシャが死んで幸せになれると思ったのに、いまだにアイシャの存在がチラつくなんて……許せないわ」
ローゼは王妃として王宮から出してもらえずに仕事ばかりさせられていた。
そんな中、偶然アイシャの生まれ変わりがいることを知った。
それも憎っくきエマの子供として。
夫であるエリックが誰にも言わずその子に会いに行ったと聞いた時、憎悪で顔が歪んだ。
その全ての話は第二妃であるバーバラが仕事中に訪ねてきて知らされたのだった。
自分は机から離れる時間もなく必死で働いているというのにバーバラは王子の子育てが忙しいという理由で仕事はしなくてもいいと言われ、毎日優雅に暮らしていた。
そして仕事の邪魔をしにきてソファでくつろぎながら目の前でお茶を楽しんでいる。
ペンを持つ手は苛立ちと憎悪で折れそうなほど力が入っていた。
「わたくしはあなたと違って能力が高いから大切な仕事を陛下に任されているの、さっさとそのお茶を飲んで帰ってちょうだい」
「王妃様……わたくし少しお話しをしたくて………陛下には初恋の人がいたことをご存知?その初恋は悲しい別れで終わったらしいの……でも生まれ変わって今は幸せに暮らしているらしいの……」
「は?」
ローゼは意味がわからなかった。だってアレは死んだはず。火事で火傷を負って助からず。だからこそ今自分は愛する人の妻となりこの国で一番上に立つ王妃としているのだから。
ローゼは一言も言葉が出なかった。頭の中ではいろんなことを考えていた。
これはバーバラの嫌がらせで作り話なのでは?
自分が子供を産むことしかできない役立たずだから、自分に嫉妬しているだけでこんな話をしているのか?
「ふふっ、信じられないという顔をしているわね?辺境伯領に住んでいるエマさんを探してみてはいかがかしら?」
クスクス笑いながら半分だけ飲んだお茶のティーカップをテーブルに置いた。
「わたくし、このお茶のお味、合わないみたい」
そう言ってティーカップの縁を指で触った。
「では毎日お忙しく働かれている王妃様のお邪魔になるようだから帰りますね、そろそろ息子のお昼寝が終わる頃だから」
ローゼは眉根を寄せた。
態と息子の話をローゼの前でするのはいつものこと。エリックはローゼと一度も閨を共にしたことがない。だから子供ができることはない。
どんなに誘っても応じてもらえなかった。なのにバーバラは……王子を産み、今もお腹に二人目の子供を宿していた。
「失礼致しますわ」
バーバラは結婚して数年経ってもいまだに少女のような可愛らしさを持っている。
エリックに大切にされ幸せな日々を送っている。
一方の自分は仕事ばかりして……王妃としての地位は与えられても全く幸せだと感じることができない。でも、この地位にしがみつくしか自分には生きる術がない。
そして、調べた結果……
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