【完結】[改稿版]内緒で死ぬことにしたーーいつか思い出してください…わたしがここにいた事を。

たろ

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助けて。

 ケホッケホッ。

 なんだか熱いだけではなく、咳が出てきた。

 息苦しさにカレンの足が止まる。

 そんな時はと目の前に小さなウサギが蹲っていた。

「うさぎさん?」

 カレンは薬草の入った袋を地面に置きウサギのそばにしゃがんで覗き込んだ。

「…あ、足……」

 よく見ると足に棘のある蔓草が絡まっていた。そしてそこから血が滲んでいるのが見えた。

「痛いよね?待ってて」

 ウサギは逃げようとしたが足に絡まった蔓のせいで動けずにいた。

 ウサギの瞳は真っ黒でカレンをじっと見つめた。

 そして俯いたと思ったらそのまま動かずにカレンに体を触らせた。

「少し痛いけど我慢してね」

 カレンは迫り来る炎を無視して必死で絡まった蔓草を外していた。

 血が出て痛いはずのウサギなのに暴れることもなく耐えていた。

 なんとか蔓を外し終わり、動けそうにないウサギと薬草の入った袋を抱きかかえまた森の出口を探す。

 火は近くまで来てはいるが火のないところはまだまだある。

「うさぎさん、助けてあげるからね」

 カレンは小さな震えるウサギに優しく話しかけながら自分自身にも「助かる、絶対大丈夫」と言い聞かせた。

 パチパチっという大きな音が耳の中に鳴り響く。

 それでも諦めずカレンは走り回った。

 このまま動かずにいたら火事に巻き込まれる。

 少しでも火のないところへ。

 うさぎの温かさがカレンの心を少しだけ癒してくれる。そして心を強くしてくれた。

 ーー絶対この子を助けたい!

 それに母様に薬草を届けなきゃ!

「あ……」

 足元に転がった折れた枝に足を取られ転びそうになった。

 カレンはうさぎを庇って肩から転んだ。

「痛っ!」

 思わず声が出てしまうくらいの強い痛み。

 そっと肩を見ると服は破れ肩から血が滲んでいた。

 それでもうさぎを下ろそうとは思わなかった。歩けないウサギを放ってしまえば火事に巻き込まれる。

 それだけは嫌だった。

 痛む肩に「い、痛くないもん、絶対大丈夫だもん、早くお家に帰ろう、母様も父様も待ってる」とウサギにまた話しかけた。

 瞳には涙がいっぱい。

 昨日からほんとに運が悪い。

 そう思いながらもカレンは(この森は私の大切な場所。精霊や動物、それに草木も守らないといけないのに……)と何もできずにこのまま焼け死んでしまうかもしれない自分にまた悔しくて涙が溢れる。

 でも諦めたくない。

 恐怖よりも怒りの方が強かった。

 大切な森を………

 でももう火の手がカレンを囲み始めた。逃げ道が塞がれていく。

 ーーどうしよう……

 ウサギを抱きしめる手が震える。焼けた匂いが、煙が、カレンの呼吸を苦しくさせた。

 立ち止まってはいけないのに……もうどこに逃げたらいいのかわからなくなっていた。

 すると………


 空が立ち上る煙と共に真っ暗になり始めた。

 ーーもうだめかも……

 弱気になり始めたカレンの上に突然雫が落ち始めた。

 雨?

 けたたましい鳥の鳴き声と共に鳥がどこからか水を運んできた。

 小さな森を鳥たちが多いつくし何度も水を運んできた。少しずつ熱かった空気が静かに冷めてくる。

 その間カレンはただ立ち尽くしていた。

 鳥たちは足に小さな袋を入れて落としていく。

 これは鳥たちが自分で?

 そんなことできるはずがない。では誰かが?


 鳥たちの鳴き声の合間に人の声が聞こえた気がした。

「………ン……!!」

「カレン!」

「どこにいるの?」

「父様……兄様………」

 ほんの少し離れていただけの父様と兄様の声がとても懐かしく感じた。

「ここだよ!」

 カレンの足はもう動かなかった。

 疲れと……実は転んだ時に靴が脱げて裸足になっていて、足は傷だらけだった。

 血が滲み、傷に泥が入り痛みで歩くのも辛かった。

 みんなが近づいてきた時、ウサギが突然カレンの手から離れ、自ら地面に降りた。

「うさぎさん?」

『カレン……ありがとう……魔道具で身動きできなかったの………守ると誓ったあなたを守れず、逆に守られてしまった……』

 ウサギは精霊の姿に戻った。

 カレンを見る瞳はとても悲しそうだった。

 カレンへの感謝の言葉を何度も伝えて、精霊は空へと向かった。

 いつのまにか鳥たちはどこかへ行き、煙は消え、優しい雨が森の中を包み込んだ。

 その光景をカレン、そして家族はじっと見つめた。

 森の精霊が森を守るため自分の命と引き換えに優しい雨を降らせた。

 その雨が焼けた木々から新芽を芽生えさせ、焼け野原からはまた新しいたくさんの緑の芽を芽吹かせた。

 もう一度森を再生させるために……

「精霊様………」

 カレンはお別れが近づいたことを悟った。声をかけても、もう何も返事はなかった。

 ずっとそばにいてくれた精霊とのお別れはあまりにも辛くて胸が締め付けられた。

 この火事の中、精霊様がいてくれたからなんとか耐えられた。

 なのに……

 カレンは大きな声で泣いた。

 そんなカレンをハンクスは優しく抱っこして何も言わずに頭を撫でるしかなかった。






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