【完結】母になります。

たろ

文字の大きさ
8 / 35

この子達は。

しおりを挟む
「カルロ!わたしが何をしたというの?それよりも早くお医者様を呼んでちょうだい!」

 わたしが知っているカルロは穏やかで優しい人。
 なのに……どうして?

「ぐっ………その子を渡してください、わたしが連れて行きます」

 カルロがわたしの代わりに男の子を抱いた。そしてそのまま屋敷へと向かった。

 わたしはそばにいた護衛に「あの白い家にいる女性を捕まえて!」と頼んだ。
 アリスちゃんの手を握って屋敷へと向かった。

 でもアリスちゃんもゼイゼイ言って苦しそうだったことに途中で気がついた。

「ごめんなさい、あなたもキツイわよね?」

 アリスちゃんを抱っこするとやはり思った以上に軽い。

 タバサは「わたしが抱っこします」と言ってくれたけど、体力的にわたしの方がある。

 他の使用人や護衛が抱っこしようと手を出したらわたしにギュッとつかまり、首を横に振る。

 大人が怖いのかもしれない。

 さっきの様子を思い出す。

 あの女性に叩かれそうになって怯えている様子。それでも男の子を助けようとわたしになんとか訴えかけた。

 気がついてあげてよかった。

 もしこのまま気がつかなかったらあの男の子は死んでいたかもしれない。




 屋敷に戻ると男の子がベッドに横になっていた。

「ノエル……」
 アリスちゃんが男の子のところへ行くと苦しそうな呼吸をしてぐったりしているのにアリスちゃんをみると安心した顔をした。

「あ……りす……」

 ホッとした男の子はアリスちゃんに手を握られて苦しいはずなのに笑顔を作る。

 なぜかその二人の姿に涙が止まらなかった。

 こんな幼い二人がお互いを求め合っているのがわかる。

 アリスちゃんはノエル君を守ってきたのだろう。こんな小さな体で。

 わたしはノエル君の体を濡らした温かいタオルで拭いてあげた。

 埃と汚れで汚くなっていた顔は汚れが取れると何箇所か傷があり叩かれたのだとわかる。

 とりあえずお医者様が来るまで傷薬を塗ってあげた。

 服も着替えさせてあげた。

 ノエル君もわたしには触らせてくれる。

 他の人が触れようとすると泣いて嫌がる。

 わたしとカルロにだけは泣かないで素直に触らせてくれた。

 カルロはさっきわたしに怒鳴ってしまったからか、何も言わずにわたしにノエル君の世話をさせてくれた。

 だけど脱いで裸になったノエル君の体は痣だらけで痩せ細っていた。
 お風呂にも何日も入れてもらっていないように見える。

 手当が終わって少し体力が回復したらお風呂に入れてあげよう。

 わたしはノエル君に優しく「もう大丈夫だよ。ここは怖くないから、安心してね」と伝えた。

 アリスちゃんが隣で「ノエル、このおねえちゃんならこわくないよ」と言ってくれたのでノエル君もコクンと頷いてくれた。



 お医者様が急いで部屋に来た。

「遅い!」
 わたしが叫ぶと、「早馬に乗せられて来たんですよ」とぐったりした顔をして言い訳をしたので「そんなことより早く診てあげて!」とノエル君に視線を向けた。

「ノエル様……」

 お医者様もノエル君のことを知っているみたい。カルロも含め『ノエル様』と呼んだ。

 アリスちゃんには目を遣らない。

 二人ともアリスちゃんのことは知らないようだ。二人は姉弟ではないのかな?

 よくわからない。

 タバサはわたしに何も伝えようとしない。

 わたしもタバサの様子を見て、なぜか聞いても答えてくれない気がした。

 診察の結果衰弱しているが薬を飲ませて安静にしていれば元気になるだろうと言われた。

 ついでにアリスちゃんも診察してもらった。

 やはり栄養失調と虐待されていることがわかった。

 許せない、あの女性。

 わたしは女性が捕えられた牢へと向かおうとした。


しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

月夜に散る白百合は、君を想う

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢であるアメリアは、王太子殿下の護衛騎士を務める若き公爵、レオンハルトとの政略結婚により、幸せな結婚生活を送っていた。 彼は無口で家を空けることも多かったが、共に過ごす時間はアメリアにとってかけがえのないものだった。 しかし、ある日突然、夫に愛人がいるという噂が彼女の耳に入る。偶然街で目にした、夫と親しげに寄り添う女性の姿に、アメリアは絶望する。信じていた愛が偽りだったと思い込み、彼女は家を飛び出すことを決意する。 一方、レオンハルトには、アメリアに言えない秘密があった。彼の不自然な行動には、王国の未来を左右する重大な使命が関わっていたのだ。妻を守るため、愛する者を危険に晒さないため、彼は自らの心を偽り、冷徹な仮面を被り続けていた。 家出したアメリアは、身分を隠してとある街の孤児院で働き始める。そこでの新たな出会いと生活は、彼女の心を少しずつ癒していく。 しかし、運命は二人を再び引き合わせる。アメリアを探し、奔走するレオンハルト。誤解とすれ違いの中で、二人の愛の真実が試される。 偽りの愛人、王宮の陰謀、そして明かされる公爵の秘密。果たして二人は再び心を通わせ、真実の愛を取り戻すことができるのだろうか。

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる

kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。 いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。 実はこれは二回目の人生だ。 回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。 彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。 そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。 その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯ そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。 ※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。 ※ 設定ゆるゆるです。

完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。

音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。 王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。 貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。 だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……

ヒスババアと呼ばれた私が異世界に行きました

陽花紫
恋愛
夫にヒスババアと呼ばれた瞬間に異世界に召喚されたリカが、乳母のメアリー、従者のウィルとともに幼い王子を立派に育て上げる話。 小説家になろうにも掲載中です。

【完結】この地獄のような楽園に祝福を

おもち。
恋愛
いらないわたしは、決して物語に出てくるようなお姫様にはなれない。 だって知っているから。わたしは生まれるべき存在ではなかったのだと…… 「必ず迎えに来るよ」 そんなわたしに、唯一親切にしてくれた彼が紡いだ……たった一つの幸せな嘘。 でもその幸せな夢さえあれば、どんな辛い事にも耐えられると思ってた。 ねぇ、フィル……わたし貴方に会いたい。 フィル、貴方と共に生きたいの。 ※子どもに手を上げる大人が出てきます。読まれる際はご注意下さい、無理な方はブラウザバックでお願いします。 ※この作品は作者独自の設定が出てきますので何卒ご了承ください。 ※本編+おまけ数話。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さくら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

処理中です...