【完結】母になります。

たろ

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ふうん。

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「どこへ行かれるのですか?」

 タバサがわたしを止めた。

 そんなに顔に出ていたかしら?

「うん?アリサちゃんもノエル君もとりあえず落ち着いて寝てくれたので行ってみようかと……」

「ダメです、あの人とは関わらない方が宜しいかと……」

「どうして?わたしがあの家に行くのはダメだと言ったけどもしわたしがあそこに行かなければアリスちゃんもノエル君も大変なことになっていたわ?それにカルロはわたしを責めたわ?わたしがまるであの男の子………ノエル君に何かした……………」

 あっ、頭が痛い。

 なに?どうしたの?なんでこんなに頭が痛いの?

 クラっとしてそのまま倒れてしまった。

 ーーああ、わたしは……


 一瞬だけど頭の中に浮かんだのは……

 わたしが泣き叫ぶ姿だった。

 わたしってこんなに泣いたり怒ったりするの?

 自分なのに自分じゃない、その姿になんだかもやもやしながらも意識を手放した。









 ◆ ◆ ◆


「旦那様……ノエル様が屋敷に運ばれて来ました」

 執務室で仕事をしていたグレイのところへいつもならノックをしてから入ってくるはずのカルロが慌てて入って来た。

「運ばれてとは?」
 眉を顰めカルロに不機嫌に聞いた。

「俺にあの子のことをいちいち報告するなと言っていたはずだろう?」

「わかっております。アンミリカに任せていたはずなのですが、ノエル様が大怪我をして衰弱して連れてこられたのです……しかも連れて来たのがティア様なのです」

「ティアが?いや、しかし……ティアはノエルを嫌っていたはずだが?なんで……」

「ティア様は記憶を失くされております。旦那様と結婚されたことも覚えておりません」

「そうだったな………」

「アンミリカはノエル様に酷い虐待をしていたと思われます。偶然ティア様が見つけ助け出したようです……それなのにわたしは思わず……ティア様がしたのではないかと疑って怒鳴ってしまいました」

 カルロは深々と頭を下げた。

「仕方がないだろう。ティアは……」

 仕事の手をとめてグレイはしばらく考え込んでいた。

 その様子を黙ってカルロは見ていた。

「………ノエルの様子を見に行く」

「かしこまりました……それからアンミリカが施設から女の子を一人ノエル様のために引き取っていたのですが、その子も虐待されていたようです」

「ああ、アリスとか言っていたな。その子の治療は?」

「先ほど終えて二人は今眠っているようです」


 グレイは二人が眠る寝室へ顔を見に行った。

 痩せ細って青白い顔をしている二人をただ黙って見つめていた。

「アンミリカは今どこにいる?」

「牢へ入れています。こちらでの取り調べが終わったら警備隊に引き渡すつもりです」

「そうか………」




 グレイが子供達の部屋から出て自分の部屋に戻ろうと廊下を歩いていたらタバサがいた。
 ティアが突然倒れたと言われ、グレイは「どんな具合なんだ?」と聞いた。

 その顔は心配しているようにはタバサには見えなかった。

「お医者様は久しぶりに動いて回ったので体も心も疲れてしまったのだろうと言っておりました。しばらく安静に寝かせておけば大丈夫だろうとのことです」

「そうか、わかった」

「あ、あの、旦那様……ティア様は何も覚えておりません。ノエル様のことも実家の出来事もどうして旦那様と結婚したのかも……結婚のことは説明はしましたが、自分のことだとあまりピンと来ていないようです……ノエル様のことはどう説明していいのか……」

「覚えていないなら本当のことは話さなくていい。聞かれても適当に誤魔化しておいてくれ」

「旦那様、本当のことを知った方が宜しいのでは?」
 カルロはグレイに意見したが、「ダメだ」と頑なに拒否をした。

「ティア様は知らない方が幸せなのかもしれません……ですがいつかは全て知ってしまうと思います……その時に傷つかなければいいのですが……」

 タバサは愛する主人であるティアのことを思うと胸が痛かった。

 記憶を失くしたおかげで幸せそうに笑うティアにまた会えたことはとても嬉しい。でも本当のことを知ったら……そう思うと気が重たくなってしまう。

 部屋に戻りティアの寝ている姿を椅子に座りタバサは見つめた。

 この5年間、ティア様は心を閉ざしていた。

「ティア様………今だけでも笑って過ごしてください……」



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