【完結】母になります。

たろ

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ごめんね。

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「ノエル君!」
 わたしが慌てて走っていくと、「ノエル!」と言って噴水に入ろうとしたアリスちゃんの腕を掴む。

「ダメ、大人しくここに居て」

 すぐに噴水に入りノエル君を助け出した。

 ここの噴水は思ったより深くノエル君の背では足がつかなかった。

「げほっげほっ……」

 水を飲んでしまってむせているノエル君。

 苦しいよね?ごめんなさい。そばにいたのに、ちゃんと見てあげていなくて。

 使用人を遠ざけてしまっていたからわたししか大人はいなかったのに。

 ノエル君を抱えて急ぎ屋敷へ戻ろうとしたら途中でグレイ様と側近の人たちに出会った。

「どうしたんだ?びしょ濡れで?」

 グレイ様がわたしをジロッと見た。
 ドレスはびしょ濡れで体に張り付いていた。


 全身が濡れていてとても人に会える格好ではなかった。
 だけどノエル君は意識はあるけど少しぐったりとしていたし、隣についてきてくれているアリスちゃんは泣き続けているし、もうどうでもいい。

「ノエル君が噴水に落ちました。お水を飲んでしまったようです、とにかく屋敷に連れて帰ります」

「他の使用人は?誰かいないのか?」

「ノエル君は大人を怖がります」
 きっぱりとそう言うとグレイ様は「かせ!」と言ってノエル君をわたしから奪った。

「あっ、ダメです!ノエル君が怖がります!」

「……やっ!ティア!うっ……う、わあーん!!」

 思った通りノエル君が嫌がって暴れて泣き出した。

 なのにグレイ様は「ティアに運ばれていたら遅くなる!俺が運んだほうが早い!うるさい!静かに!」と言った。

 ノエル君に怒っているわけではないけど男の人の低い声がノエル君にはさらに怖かったようで大声で泣き出してしまった。

「やはりわたしが抱っこします」

「君は走るのも遅いだろう?力もなさそうだし、泣いていても無視すればいい。とにかく急いで屋敷に連れて行く」

 そう言うとグレイ様は走り出した。

 確かにわたしの体力ではあんなに早く走ることはできない。

 だけど……あんなに泣いているのに無視できるなんて……

「アリスちゃん、とりあえず屋敷へ帰ろう?」

 わたしはアリスちゃんの手を引いてトボトボと屋敷へ向かった。

 すると中からタバサがタオルを持って駆け出してきた。

「ティア様!まあまあずぶ濡れになってしまって」

 タオルを体に掛けてくれてとりあえず湯浴みをするように言われた。

「でも……ノエル君が心配なの」

「大丈夫です、泣いてはいましたが元気そうでした。ノエル様も今湯浴みして体を温めております。ティア様も温めてください。風邪を引いてしまいますよ?」

「わかったわ……アリスちゃん、わたしがお部屋に行くまでタバサと居てくれるかしら?」

「……うん」
 少し不安そうなアリスちゃんに「すぐに会いに行くからね」と優しく笑いかけた。








 ◆ ◆ ◆

 …………一方グレイは……



「ティアは?」

 ノエルを運んですぐに湯浴みするようにメイドに伝えた。
 ノエルはグレイに抱っこされて怖がり泣き続けた。メイドにノエルを預けるもやはり「ティア!ティア!」と泣き続けた。

 あんなに元気に泣くなら噴水に落ちたとはいえ大丈夫だろう。そう思いながらも一応医者を呼ぶように使用人に伝えた。

「ティア様はもうすぐ屋敷にお戻りになると思います」

「ああ、俺は走って戻ってきたんだったな」

 ーーまさか屋敷の外の敷地であんなずぶ濡れのティアと会うとは思わなかった。

 できるだけティアとは会わないように避けて過ごしてきた。
 俺の顔を見れば嫌な記憶を思い出しまたあの暗い日々を過ごすことになるかもしれない。

 そう思うと怖くてティアに向き合えないでいた。

 ティアにとって記憶をなくしたまま一生過ごすほうが幸せなのかもしれない。

 だが……ティアの顔を見るとどうにも胸が苦しくなる。5年間嫌われ続け互いに顔を合わせることも少なくなって過ごした日々。
 それなのに記憶を失くしたティアは毎日楽しそうに過ごしている。

 執務室から庭園が見える。

 そこでティアはタバサと二人よく散歩をしている姿を見た。最近は子供たちと過ごすため見かけることがなかったが。

 それなのに久しぶりに会ったティアは子供を必死で抱きかかえ、屋敷に戻ろうとしていた。

 あんなか細い腕で。

 もっと優しく声をかければ良かった。

 そう反省してしまうのに本人を目の前にすると優しい言葉も笑顔も出てこない。つい緊張しすぎて顔を強張らせてしまう。

「ティアが風邪を引いたら困る、医者にティアの診察も頼んでおいてくれ」

「わかりました………ところでノエル様たちはいつ離れに移されますか?」

「ティアとは離した方がいいんだが……まさかあんなに懐いているとは思わなかった……どうするべきか…」




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