【完結】母になります。

なに、わけわかんない

　もう！このおじさん、わたしのこと記憶がないからってふざけたこと言わないでよ！

　………ノエル君が………わたしの………子供？


　ならどうしてあんな小さなお家に住んでいたの？

　いくら記憶を失くしても一緒に暮らしているものよね？
　いくら夫婦仲が悪くても……

　それに………この人、ノエル君の父親らしい態度なんて一度も見せていないわ！

「虐待されたノエル君に会いにも行かない、優しい態度も取らない、こんな人が父親？
　愛人がいるから我が子のことなんてどうでもいいのかと思ってたのに！」

「な、何を………」

「だっておかしいでしょう？わたしが嫌いなのは分かるわ！その態度を見ていればわたしと無理やり結婚させられて、嫌で嫌で仕方なくて、『お前のことなど愛すことはない！』なんて思ったのでしょう？
　でも、でもね、ノエル君には罪はないでしょう？どうしてノエル君にまで冷たい態度をとるんですか？
　第三者のわたし………うん？わたしが母だった……
　あーーー、まぁとにかくわたしが見てもノエル君への態度は父親らしくはないわ！まるで赤の他人としか思えない！
　『氷の騎士様』なんて言われてるからって本当に心まで冷たいのね？
　もう！イマドキのおじさんはなんでこんなに冷たいの！
　そういえば学校の先生もグレイ様みたいに淡々としたおじさんが多かったわ！
　ムスッとして、『早くやりなさい』とか『なんで復習してこなかったんだ！』とか、ほんとおじさんってやだ！普段ムスッとしているくせに口を開けば叱るか文句しか言わないんだもん！」

　ハアハア言いながらグレイ様へ文句を言ってやった。

　我に返ると「やばっ！」と思ってしまったけどわたしは中身は16歳だもの。おじさんは………かなり怖いけど……若さで突き通してやる！

「………ｵｼﾞｻﾝ……」

　うん？グレイ様が目を見開いたまま呟いていた。

　カルロはグレイ様の後ろで口元を手で押さえて笑いを堪えてる。

　ーーやっぱり……失礼なことを言ったかしら？

　あーー、それに、わたしがノエル君のママ？

　えっ？わたし……が産んだの？
　て言うことは………


　ぎゃー～～！！！！

　わたし、グレイ様と……やったの？

　えっ？わたし………の初めてを？

　おじさんに捧げたの？

　言いたいことを言って冷静になって……

「わ、わたし………ノエル君のママっ？グレイ様、わたしと……やだっ！酷い！わたしまだ16歳なのに！結婚もしていないのに………」

　やっぱり冷静になんてなれなかった。

「ティア様は21歳です。グレイ様と結婚されていますので、お子様がいることはおかしいことではございません」

　カルロが突っ込んできた。

「そんなことわかってるわ！」

　グレイ様は動揺していたのに冷静になってきたのか「ハアア」と大きく息を吐いた。

「ティア、わたしはそんなにノエルに冷たいだろうか？君は記憶を失くしているからこの５年のことを知らない。すぐに全てを思い出して欲しいとは思わない。それに思い出さない方がいいのかもしれない。
　ノエルは、アンミリカに任せておけば大丈夫だと思っていたのはわたしの間違いだった。しかしそれが最善だと思っていたんだ」

「わたしはこの5年間の記憶がありません。楽しみにしていたデビュタントもできずに結婚したことしか知りません。
　思い出さない方が幸せなほどここでの暮らしは酷いものだったんですか？やはりあなたには他に愛する人がいたのかしら？それだったらノエル君を連れて実家に帰ります！
　あ、もちろんアリスちゃんも一緒に！」

「タバサは実家のことは話していないのか？」

「………実家のこと？」
　キョトンとした顔をしたわたしにグレイ様は「しまった！」と言う顔をした。

　なんだかいっぱい知らないことがありすぎて頭の中がパニックなのに……

　なに、この胸の苦しさは……