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グレイの初恋。
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「君は俺を覚えていないと思う」
「……?いつのこと?」
「俺が12歳の時、君がお茶会に来ていた。君は明るくて人見知りもなく誰とでも仲良く遊んでいたんだ」
「お茶会………わたしの髪飾り……なくした時?」
「そう、金細工の髪飾りだった……」
「あの時一緒に探してくれた騎士見習いのお兄さん?」
「すまない、それは俺じゃない……」
「じゃあどうして知っているの?」
「俺はお茶会なんて嫌いで一人離れて木陰で本を読んでいたんだ。そしたら「『何してるの、お兄ちゃん?』と言って話しかけてきたのが君だ」
「わたし?」
「俺が無視すると君は勝手に隣に座って来て………」
『お兄ちゃん、その本は面白い?わたしはね、いつも魔法使いの本を読んでいるの。魔法使いはね、みんなから怖がられているけど死んだ人を生き返らせることができるんだって!わたし、お母様と会いたいの』
「返事もせずに無視していたんだが」
『お母様が亡くなる前に買ってくれた髪飾り、綺麗でしょう?』
「髪から外して俺に見せてくれたんだ」
『お母様が生きていたら、美味しいいちごのパイを作ってくれたのに。
それから雨の降る夜はお母様のベッドに潜り込んで眠るの。お父様のベッドに潜り込んでもゴツゴツしてふんわりとしていないんだもの。それにね、時々内緒でピーマンを食べてくれるの。お父様は「好き嫌いはダメ」って仰るけどピーマンだけは食べられないわ、あ、ついでにセロリと人参も苦手なの。
お兄さんは嫌いなものある?』
「君は返事をしない俺のことなんか無視して一人でずっと楽しそうに話しかけてきた。流石にあまりにも無視し過ぎたと思って何か話そうと返事をしたら君はとても驚いたんだ」
『俺はマッシュルームが苦手だ』
『お兄さんって声が出たんだ!わたしお兄さんは声が出ないんだと思って私が話さなきゃといっぱいお話ししたんだよ?』
『話せる。ただ本を読んでいたから……すまない』
『ううん、よかったわ。病気で話せないのかと思ったの。お母様がお亡くなりになる前、ほとんど声が出なくなってたから』
「そういうと俺の顔をまじまじと見てクスッと笑ったんだ」
『ふふっ、どこも体調が悪そうではないわ。わたしの名前はティア、お兄さんは?』
『グレイ……』
『お兄さんはどうしてここにいるの?今はお茶会の時間でしょう?』
『それなら君はどうして?』
『だって……退屈だったんだもの。じっと座ってお菓子食べて、みんなとドレスが可愛いとか、◯◯ちゃんのお家はお金持ちなのとか、わたしピアノを習っていて褒められたとか、自慢話しかしないんだもの………だからこっそりお散歩していたの。そしたらお兄さんがムスッとして本を読んでいるから気になったの』
『ムスッと?……名前を聞いたくせにまだ「お兄さん」なんだ』
『名前?あっ、グレ…ンだったかしら?お兄さんでいいじゃない。お兄さん、綺麗なお顔をしているのにそんな無愛想だとみんな逃げてしまうわ。せっかくカッコいいんだからほら笑って!』
「君はそう言って俺の顔を両手で触り口角をあげて『あ、笑った顔も怖い!』とゲラゲラ笑い出したんだ。あまりにも平気で俺に話しかけて好き勝手にする君に唖然としながらも、俺に平気で接する君が面白くて、そのまま君といたんだ」
「わ、わたし、なんとなく覚えているわ。髪飾りを失くしたショックでその前のことはあまり覚えていないけど……あの時のムスッとしたお兄さんがグレイ様?わたし多分あのお兄さんにかなり恥ずかしいことを話した気がする。黙って聞いてくれるからつい調子に乗って……」
「そうだな、面白かった」
『お父様はお母様が亡くなってから毎日寂しそうにするの、だからこの前お父様の前でお化粧をしてお母様のドレスを着てあげたら、『うわっ、化け物かと思った』なんて言うのよ。わたし頑張って自分で化粧をしたのに。ちょっとアイメイクにたくさんいろんな色を塗って、真っ赤な口紅がお口からはみ出しただけなのに化け物なんて失礼しちゃうでしょう?その後すごいお説教されたの』
『化け物……見てみたかったな』
『いつか会えたら見せてあげるわ。でももうあんな失敗はしないわ。あれからもこっそりお化粧の練習しているから目の周りが紫になったりお口から口紅がはみ出したりしないようになったもの。頬紅だってたくさん塗らない方がいいってわかったし』
「俺は想像するだけでその顔が浮かんできて大笑いしたんだ。あんなに笑ったのは初めてだった」
「あーー、思い出したわ!失礼なくらい笑ったわ!グレイ様!わたしが普通に話していたのに、グレイ様はずっと笑って話を聞いていたわ」
「あれが俺の初恋だ」
「グレイ様ってあんなわたしが好きになったの?どうみても素敵な出会いとは思えないけど?趣味悪くないかしら?」
「失礼だな!自分のことだろう?髪飾りを忘れて君は『あっ、そろそろ戻らないと!』といなくなったんだ。俺はまたそのまま本を読んでいて髪飾りに気がついたのは君がお茶会から帰った後だった」
「わたしは髪飾りがなくなったことに気がついて必死で探したの。すれ違ったのかもしれないわ」
「ティアという名前しか知らなくて家名がわからないから参加者を茶会を開いた関係者に聞いて君がシャイナー伯爵の娘だとわかったんだ。そして届けさせた」
「届けてくれたのはグレイ様だったんだ」
「そうだ……あまりにも君が印象的でずっと忘れられなかった……シャイナー伯爵家が事業が失敗して借金を抱え自力では返せないと聞いて父上に頼んでお金を融通することにしたんだ」
「借金を抱えたことは記憶にはないの」
「わかってる………父上は俺が騎士団に入り仕事ばかりにのめり込んで誰とも婚約しないことを心配していたんだ。突然ティアの実家を助けたいと言い出した俺に『何故?』と聞かれて、昔出会った君の話をしたんだ……そしたら……
『その女の子と婚約するなら助けてもいい』と言い出したんだ」
「……?いつのこと?」
「俺が12歳の時、君がお茶会に来ていた。君は明るくて人見知りもなく誰とでも仲良く遊んでいたんだ」
「お茶会………わたしの髪飾り……なくした時?」
「そう、金細工の髪飾りだった……」
「あの時一緒に探してくれた騎士見習いのお兄さん?」
「すまない、それは俺じゃない……」
「じゃあどうして知っているの?」
「俺はお茶会なんて嫌いで一人離れて木陰で本を読んでいたんだ。そしたら「『何してるの、お兄ちゃん?』と言って話しかけてきたのが君だ」
「わたし?」
「俺が無視すると君は勝手に隣に座って来て………」
『お兄ちゃん、その本は面白い?わたしはね、いつも魔法使いの本を読んでいるの。魔法使いはね、みんなから怖がられているけど死んだ人を生き返らせることができるんだって!わたし、お母様と会いたいの』
「返事もせずに無視していたんだが」
『お母様が亡くなる前に買ってくれた髪飾り、綺麗でしょう?』
「髪から外して俺に見せてくれたんだ」
『お母様が生きていたら、美味しいいちごのパイを作ってくれたのに。
それから雨の降る夜はお母様のベッドに潜り込んで眠るの。お父様のベッドに潜り込んでもゴツゴツしてふんわりとしていないんだもの。それにね、時々内緒でピーマンを食べてくれるの。お父様は「好き嫌いはダメ」って仰るけどピーマンだけは食べられないわ、あ、ついでにセロリと人参も苦手なの。
お兄さんは嫌いなものある?』
「君は返事をしない俺のことなんか無視して一人でずっと楽しそうに話しかけてきた。流石にあまりにも無視し過ぎたと思って何か話そうと返事をしたら君はとても驚いたんだ」
『俺はマッシュルームが苦手だ』
『お兄さんって声が出たんだ!わたしお兄さんは声が出ないんだと思って私が話さなきゃといっぱいお話ししたんだよ?』
『話せる。ただ本を読んでいたから……すまない』
『ううん、よかったわ。病気で話せないのかと思ったの。お母様がお亡くなりになる前、ほとんど声が出なくなってたから』
「そういうと俺の顔をまじまじと見てクスッと笑ったんだ」
『ふふっ、どこも体調が悪そうではないわ。わたしの名前はティア、お兄さんは?』
『グレイ……』
『お兄さんはどうしてここにいるの?今はお茶会の時間でしょう?』
『それなら君はどうして?』
『だって……退屈だったんだもの。じっと座ってお菓子食べて、みんなとドレスが可愛いとか、◯◯ちゃんのお家はお金持ちなのとか、わたしピアノを習っていて褒められたとか、自慢話しかしないんだもの………だからこっそりお散歩していたの。そしたらお兄さんがムスッとして本を読んでいるから気になったの』
『ムスッと?……名前を聞いたくせにまだ「お兄さん」なんだ』
『名前?あっ、グレ…ンだったかしら?お兄さんでいいじゃない。お兄さん、綺麗なお顔をしているのにそんな無愛想だとみんな逃げてしまうわ。せっかくカッコいいんだからほら笑って!』
「君はそう言って俺の顔を両手で触り口角をあげて『あ、笑った顔も怖い!』とゲラゲラ笑い出したんだ。あまりにも平気で俺に話しかけて好き勝手にする君に唖然としながらも、俺に平気で接する君が面白くて、そのまま君といたんだ」
「わ、わたし、なんとなく覚えているわ。髪飾りを失くしたショックでその前のことはあまり覚えていないけど……あの時のムスッとしたお兄さんがグレイ様?わたし多分あのお兄さんにかなり恥ずかしいことを話した気がする。黙って聞いてくれるからつい調子に乗って……」
「そうだな、面白かった」
『お父様はお母様が亡くなってから毎日寂しそうにするの、だからこの前お父様の前でお化粧をしてお母様のドレスを着てあげたら、『うわっ、化け物かと思った』なんて言うのよ。わたし頑張って自分で化粧をしたのに。ちょっとアイメイクにたくさんいろんな色を塗って、真っ赤な口紅がお口からはみ出しただけなのに化け物なんて失礼しちゃうでしょう?その後すごいお説教されたの』
『化け物……見てみたかったな』
『いつか会えたら見せてあげるわ。でももうあんな失敗はしないわ。あれからもこっそりお化粧の練習しているから目の周りが紫になったりお口から口紅がはみ出したりしないようになったもの。頬紅だってたくさん塗らない方がいいってわかったし』
「俺は想像するだけでその顔が浮かんできて大笑いしたんだ。あんなに笑ったのは初めてだった」
「あーー、思い出したわ!失礼なくらい笑ったわ!グレイ様!わたしが普通に話していたのに、グレイ様はずっと笑って話を聞いていたわ」
「あれが俺の初恋だ」
「グレイ様ってあんなわたしが好きになったの?どうみても素敵な出会いとは思えないけど?趣味悪くないかしら?」
「失礼だな!自分のことだろう?髪飾りを忘れて君は『あっ、そろそろ戻らないと!』といなくなったんだ。俺はまたそのまま本を読んでいて髪飾りに気がついたのは君がお茶会から帰った後だった」
「わたしは髪飾りがなくなったことに気がついて必死で探したの。すれ違ったのかもしれないわ」
「ティアという名前しか知らなくて家名がわからないから参加者を茶会を開いた関係者に聞いて君がシャイナー伯爵の娘だとわかったんだ。そして届けさせた」
「届けてくれたのはグレイ様だったんだ」
「そうだ……あまりにも君が印象的でずっと忘れられなかった……シャイナー伯爵家が事業が失敗して借金を抱え自力では返せないと聞いて父上に頼んでお金を融通することにしたんだ」
「借金を抱えたことは記憶にはないの」
「わかってる………父上は俺が騎士団に入り仕事ばかりにのめり込んで誰とも婚約しないことを心配していたんだ。突然ティアの実家を助けたいと言い出した俺に『何故?』と聞かれて、昔出会った君の話をしたんだ……そしたら……
『その女の子と婚約するなら助けてもいい』と言い出したんだ」
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