【完結】母になります。

グレイとの結婚生活。

「父上は俺が結婚しようとしないことをずっと心配されていた。だから君となら結婚をするかもしれないと思い強行したんだ」

「じゃあグレイ様の意思ではなかったの？」

「………君のことは知っていた……もうすぐ社交界デビューすることも。べ、別に色々調べたわけではない……君はそれなりに有名だったんだ……明るくて学園で第ニ王女殿下のセリナ様のご友人でよく王宮にも顔を出していただろう？騎士団にいれば君の姿を何度も見かけることがあったから……あの気難しい我儘なセリナ様が君といる時はよく笑っていたからな。騎士団の間でも君は名を知られていたんだ」

「セリナ様……ほんと、今はどうなさっているの？もう！自分のことが精一杯で忘れていたわ！わたしデビュタントの時に会おうと約束してもう半年も会っていないわ」

「………セリナ様はご結婚されて今はウィルジア国のマルセーヌ公爵夫人になられている」

「あっ……婚約者だったジャスティ様のところへ嫁がれたのですね」

「ああ、3年前にな」

「……わたしの知らないことがたくさんあるのね」

「そしてティアは俺の妻になった……しかしティアは心を開いてくれない……俺もどう接していいのかわからず部屋に籠ったままのティアにどうすることもできずにいた……朝食だけは一緒に摂っていたのだが………なかなか上手く会話もできずにいたんだ。
　そんな時、俺の態度のせいでティアは使用人達に嫌がらせをされていると知った」

「嫌がらせ？」
　ーー今はそんな感じはないわ。ただ最初は確かに遠巻きでわたしとどう接したらいいのかわからないという空気だったけど今はノエル君のおかげでみんなとも話したりしているわ。

「ティアを侯爵夫人と認めていない使用人が食事を出さなかったり世話をしなかったりしていたらしい。もちろんその後その者達はみな解雇した」

「そう………」
　ーー覚えていないからなんと答えていいのかわからない。でもわたしも多分態度が悪かったんだと思うわ。

「俺はティアと話し合った」

『ティア、君には侯爵家の後継を産んでもらわなければならない』

『……………わたしはそのために嫁いだのですから……』

「俺は……そんな言い方しかできない馬鹿な男だった。本当は侯爵夫人としてこの屋敷でのんびりと暮らして欲しい、俺と共に温かい家庭を築きたい、そう言いたかったのに…出てきた言葉はそんな言葉だった。君に拒絶されるのが怖くて自分から冷たい態度を取ったんだ」

「はあ？それは今言われても絶対わたしのことを好きなんて思いませんね？」

「…………わかってる」

　グレイ様は項垂れた。
　ーーいやいや、いくら落ち込んでもその時のわたしはかなりショックだったと思うわ。だって借金のカタに嫁がされて、子供を産めとしか求められないなんて、完全にアウトでしょう？

「俺は……子供さえ産めば君がこの屋敷での地位も安泰になるし、我が子が可愛くて笑顔になってくれると思ったんだ」

「先にお互いの関係をもっと上手くいくようにしようとは思わなかったんですか？」

「………努力はした……君にドレスや宝石をたくさん贈ったし君のために庭園も綺麗に整備し直して温室も作った……だけど君はますます殻に閉じこもって俺と話すことも嫌がった……
　使用人達の嫌がらせを俺のせいだと思っていたみたいだ……君が心を開くのはこの屋敷ではタバサだけだった。タバサにもなんとかならないか相談したがタバサも俺に不信感を持っていてまともに取り合ってもらえなかった」

「ああ、うん、タバサはわたしの味方だもの。グレイ様の言うことを聞かないのは、まぁ仕方がないかなぁ……聞いてるだけでグレイ様ってダメダメですもの」

「ダ、ダメダメ？……俺は間違えていたのはわかってる……だが無理やり結婚した君とどう向き合えばいいのかわからなかった……あんな可愛かった笑顔が明るい君がいなくなってしまったのは俺のせいなんだ……」

「だったらはっきりそう言えばまだよかったんじゃないかしら？だったら5年間も拗れずに済んだはずなのに……そしたらノエル君も……ううん、ノエル君のことはわたしがいけないのよね。あなたのせいにするべきではないわ」

「君が悪いんじゃない……」

「そしてわたしはあなたの言われたとおりにノエル君を産んだのね？そして兄様が亡くなったりしてわたしの心はさらに病んでしまったのね？最悪だわ、それは」
　ーー他人事のように聞いてるけど、これは全てわたし自身のこと。
　聞いていて胸が何度となくズキズキと痛むのは忘れてしまった記憶のあった頃のわたしが何かしら反応しているのかもしれない。

　でも今のわたしは………

「お兄様に会いに行きたいわ……あなたの言っていることが本当なのか……確かめないと納得できない！
　それに、何故ノエル君に対して今も会おうとしないの？自分が悪いんだったら心配して会いにいくはずでしょう？ノエル君に愛情はないの？熱を出しているんだよ？絶対おかしいわ！あなたの態度は！」

「………わたしはノエルにも嫌われている。俺の顔を見ると怖がって泣くんだ……だから……全てカルロに任せて俺はノエルのことは……考えないようにしていたんだ……ティアのこともノエルのことも……嫌われてしまっているならいっそ二人のことは何も情報が入ってこない方がいいと目を逸らしていた」

「うわっ、最低！そんなだから嫌われるのよ！わたしにもノエル君にも！不器用だとか無愛想だとか無口だとか言い訳でしかないわ！」

「…………ﾜｶｯﾃﾙ………」