【完結】母になります。

たろ

文字の大きさ
21 / 35

ノエルの母として。

しおりを挟む
 グレイ様との話はとりあえずここで終わった。

「ノエル君のところへ行かなきゃ!」

 話がかなり長くなった。タバサとメイドのミサに頼んでノエル君をみてもらっているとはいえ気になって仕方がない。

 ショックを受けて項垂れているグレイ様を横目にみながら「あなたはどうされるのですか?」と冷たく言った。

「どうするとは……?」

「ノエル君に会おうとは思わないのですか?あんなに苦しんでいる我が子に愛情すらないのですか?嫌われているのは仕方がないし、勝手に傷ついていればいいと思います。だけどノエル君は……あ……父親は求めていないみたいだけど…………うーん、確かに……『パパ』とは呼んでいないわ。
『ママ』と求めてはいたけど………」

「そ、そうか…やはり、そうだよな………」

「で、でも、やはり会いに行ってあげて欲しいです。アンミリカさんに虐げられて今度は熱を出してとても心細くてとても弱っていると思うんです。今必要なのは愛情です、あなたにもノエル君への愛情はあるのでしょう?」

「ある!しかし………嫌われているし怖がられているんだ……さらに体調が悪くなったらどうするんだ……」

「たしかに!そのムスッとした怖い顔は嫌われますよね?わたしでも怖いんだもの………少しは笑顔なんて作れませんよね?」

「こうか?」

 そう言って口角を少しだけあげて笑おうとするのだが……
 ーー怖すぎ………

 わたしの顔が引き攣っているのをみて「そんなに怖いか?」と聞かれたので正直に答えた。

「笑った顔が怖い人なんて初めてみました。グレイ様って顔立ちは綺麗なのに表情筋が死滅しているんですね?
 同じ顔でもノエル君の笑顔は可愛らしくて天使のようで、もうウリウリしたくなるくらい可愛くて、思わず抱きしめてしまいますが、グレイ様にはそんな感情なんて湧かないですもの」

「ウリウリ?なんだそれは?」

「わたしの頬をノエル君の頬に頬擦りすることです。もうギュッと抱きしめてついでにキスもしたくなります!あの可愛さは罪ですよ!あんな可愛らしく産んだわたしは天才ですよ!!そう思いませんか?」

「産んだ記憶があるのか?」

「………いえ……全く……でも、わたしが産んだのでしょう?グレイ様の愛人かアンミリカさんだと思っていたけど、わたしが産んだのなら納得です!だからあんな可愛らしい天使が生まれたんですよね?ふふっ、わたし『ママ』なんですね」

「君は受け入れたのか?受け入れられたのか?」

「……あなたの妻としては…よくわかりませんがノエル君のママなら受け入れられます!……まだ兄様のことは………………受け入れたくありませんが……」

 ーー兄様の死なんて受けいれられない。信じたくないの。








「ノエル君?」
 ノックをせずに部屋に入るとタバサ達はベッドから離れて二人とも椅子に座り刺繍をしたり縫い物をしていた。

「あ……ティア様…………」
 タバサは口に人差し指を当て静かにするようにと、入ってきたわたしに向かって小さな声で言ったので、わたしも慌てて口を手で塞いだ。

 ベッドに近寄るとスースーと寝息が聞こえてきた。まだ顔は真っ赤で熱がある。

 小さな可愛らしい手をそっと握るとほんの少し手を握り返してきた。その手はまだ熱かった。

 額に乗せていたぬるくなった濡れたタオルをそっと取って水桶の中に入れて冷たくして絞り、また熱い額にそっと乗せた。


 タバサがベッドに近づいてきた。

「ティア様……お話を聞いたのですね?」

 わたしはコクンと頷いた。

 ノエル君をみてずっと愛おしい、可愛いと思っていたのはわたしが母親だったからだ。

 記憶を失う前のわたしはこんな可愛らしいノエル君を放置していた。なんて酷い母親だったのだろう。
 虐げられ傷だらけだったノエル君。もし助け出されなかったら今もこんな小さな体で耐えていなければいけなかった。

 あの女……やはり絶対許せない!!アンミリカさんのことを思い出すと一発、いや十発くらい殴っておけばよかった。
 殺意が芽生えそう。
 ノエル君がされたことをアンミリカさんにもしてやりたい!ううん、わたしが、同じことをされないと……

 アンミリカさんはカルロの前では絶対にバレないようにしていたらしい。子供達にも脅して恐怖心を与え絶対泣いたり助けを求めたりしないように言いつけていたらしい。

 子供にとって大人は大きくて逆らうことができない。従うしかなかったのだろう。

 アリスちゃんは別の部屋でお昼中らしい。アリスちゃんも大人の犠牲者だ。無理やり孤児院から引き取られノエル君の友達にさせられ虐待されていたのだから。
 あんな小さな体で必死でお姉ちゃんだからとノエル君を庇っていたらしい。

 二人とも服を脱げば痣だらけだった。

 食事も減らされ痩せ細っているし……

 わたしは以前の自分の甘えに叱咤してしまいそう。

 ーー甘えるな!!!

 自分だけがこの世の中で不幸だなんて思っていたのだろうと思うと、自分に腹が立って仕方がない。

 なんて馬鹿なことをしたんだろう。こんな可愛い子供達に辛い思いをさせて……グレイ様に色々言ったけど……こども達のこの不幸な出来事はわたしが発端なんだから責められない。

 ノエル君………こんなわたしだけど……

 あなたの母になってもいいかな……

 いつかあなたに全てを話して許してもらえなくても……わたしはあなたの母になりたいです。







しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

月夜に散る白百合は、君を想う

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢であるアメリアは、王太子殿下の護衛騎士を務める若き公爵、レオンハルトとの政略結婚により、幸せな結婚生活を送っていた。 彼は無口で家を空けることも多かったが、共に過ごす時間はアメリアにとってかけがえのないものだった。 しかし、ある日突然、夫に愛人がいるという噂が彼女の耳に入る。偶然街で目にした、夫と親しげに寄り添う女性の姿に、アメリアは絶望する。信じていた愛が偽りだったと思い込み、彼女は家を飛び出すことを決意する。 一方、レオンハルトには、アメリアに言えない秘密があった。彼の不自然な行動には、王国の未来を左右する重大な使命が関わっていたのだ。妻を守るため、愛する者を危険に晒さないため、彼は自らの心を偽り、冷徹な仮面を被り続けていた。 家出したアメリアは、身分を隠してとある街の孤児院で働き始める。そこでの新たな出会いと生活は、彼女の心を少しずつ癒していく。 しかし、運命は二人を再び引き合わせる。アメリアを探し、奔走するレオンハルト。誤解とすれ違いの中で、二人の愛の真実が試される。 偽りの愛人、王宮の陰謀、そして明かされる公爵の秘密。果たして二人は再び心を通わせ、真実の愛を取り戻すことができるのだろうか。

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる

kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。 いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。 実はこれは二回目の人生だ。 回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。 彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。 そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。 その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯ そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。 ※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。 ※ 設定ゆるゆるです。

完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。

音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。 王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。 貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。 だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……

ヒスババアと呼ばれた私が異世界に行きました

陽花紫
恋愛
夫にヒスババアと呼ばれた瞬間に異世界に召喚されたリカが、乳母のメアリー、従者のウィルとともに幼い王子を立派に育て上げる話。 小説家になろうにも掲載中です。

【完結】この地獄のような楽園に祝福を

おもち。
恋愛
いらないわたしは、決して物語に出てくるようなお姫様にはなれない。 だって知っているから。わたしは生まれるべき存在ではなかったのだと…… 「必ず迎えに来るよ」 そんなわたしに、唯一親切にしてくれた彼が紡いだ……たった一つの幸せな嘘。 でもその幸せな夢さえあれば、どんな辛い事にも耐えられると思ってた。 ねぇ、フィル……わたし貴方に会いたい。 フィル、貴方と共に生きたいの。 ※子どもに手を上げる大人が出てきます。読まれる際はご注意下さい、無理な方はブラウザバックでお願いします。 ※この作品は作者独自の設定が出てきますので何卒ご了承ください。 ※本編+おまけ数話。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さくら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

処理中です...