【完結】母になります。

たろ

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再会。

 子供達の服を買いに行った時のことを食事の時にグレイ様に話した。
 とても可愛いドレスと服を選べて仕上がってくるのが楽しみだということ。
 でも子供達にとって服を選ぶだけで疲れてしまい、それに合わせて靴や帽子などの小物まで手が回らなかったこと。

 アリアの友人のお店で食事をしたら子供達用に可愛いランチを出してもらい二人が喜んで食べたこと。

 公園へ行って遊具で初めて遊んだことが二人にとってはとても楽しかったらしくグレイ様に詳しく説明をしていた。

「きしさんと、かいだんのぼって、スーーってすべるの。そしたらまたかいだんのぼるの。たのしいよ」

「うん、ノエルはずっとそればっかりしてたわ。わたしはシーソーがたのしかった。あとブランコも!」

 グレイ様は二人が身振り手振りで必死で話してくれる姿が可愛かったのか、普段無愛想なのにいつもより顔つきが優しい。

 ーーあんな顔できるのならずっとそうしていれば子供達に怖がられないのに。


 それから数日後、グレイ様が突然わたしの部屋に来て「今日アリス商団の代表が屋敷に来るから話をしてくれ」と言い出した。

「どういうことですか?」
 ーーなに、突然?

「あっ……二人の靴や帽子がまだだと言っていただろう?そこなら言えば全て取り寄せてくれる……それからついでに我が家の敷地はまだまだ………広い」

「ええ、確かにここの屋敷はとても広いと思います。わたしの実家の屋敷よりも」

 ーー何が言いたいのかしら?

「………子供達は公園で遊ぶのが楽しかったのだろう?だから……」

「だから?」

「公園があったら毎日遊べるかと思って……」

「思って………?えっ⁉︎もしかして……公園を作るつもりですか?」

「うん、ノエルが喜んでくれるのなら」

「………馬鹿ですか?」

「ば、馬鹿?違う!あんなに目をキラキラさせて俺に話してくれたのは初めてなんだ!いつも俺の顔を見るとビクビクしていた二人が楽しそうに話してくれたんだ!
 だから……その……あの笑顔がまた見たいんだ」

「で、公園を作ってしまおうと?」

「ああ、ついでに家族の絵も描いてもらえたらと……あと、ティアのドレスも頼んであるし、ティアの部屋も改装してティアの今好きな家具を買い直したいと思っているんだ。そこは何でも屋だから言ったことはなんでも叶えてくれる」

「………公園はいらないけど庭園の端っこに少しだけ遊具を設置してくれたら子供達は喜ぶと思います。わたしは何も要りません。今の部屋で気に入っております。ドレスは……そうですね、いずれ夜会やお茶会に呼ばれた時のために今のわたしの好みのものを数着買っていただければ嬉しいです」

「……わかった……では今日の昼間ハンクスが来るからわたしも一緒に打ち合わせをしよう」

「ハンクス?」

「商団の代表なんだ、最近仕事で取引をしている相手だ」

 ーーあのホテルの家具や内装のことかしら?

 街で見た立派なホテルをふと思い出した。
 この屋敷にいると当たり前で特に何も感じることなく過ごしていた。だけど街に行くとグレイ様がどんなにお金持ちで凄い人なのかということをありありと感じてしまった。

 何軒も並ぶ立派なホテル。いくつもの高級なドレス専門の店。その隣にあった宝石店。

 アリアが教えてくれた。全て侯爵家が経営しているのだと。騎士としても優秀なのにさらに領地運営から商売までしているなんて、わたしの前でダメダメなグレイ様とは全く違う。

「ティア、黙ってしまってどうした?俺は君に喜んでもらいたいんだ」

「……あ、ありがとうございます」

 ーー記憶を失くしてからのわたしはこれからどうしたいのだろう。何度も何度も考えるけどどうすればいいのかわからない。

 ただノエル君の母親でいたい。だったらこのままグレイ様の妻でいることを求められる。

 最近は彼がわたしを本当に大切に想ってくれていることをきちんと感じている。彼の不器用な優しさに接すると温かい気持ちになる。
 そして真っ直ぐにわたしの目を見て「愛している」と言われると気恥ずかしくてつい目を逸らしてしまう。

 自分でもわからない感情がそこにある。





「ティア様、旦那様がお呼びです」
 メイドに呼ばれ客室へと向かうとそこにはグレイ様より少し年上の男性と数人の使用人が立っていた。

「奥様、初めまして。アリス商団の代表のハンクス・パーズと申します。本日はよろしくお願いいたします」

 グレイ様とは真逆の人。

 作り笑いではなく本当の笑顔で挨拶をしてきたハンクス。人当たりが良く話しやすい。
 なんだか懐かしさを感じる、誰とでもすぐに仲良くなれる人なのだろう。

 わたしの好みや考えを聞いてくれる。そしてきちんと的確にアドバイスをしてくれた。

 子供達の遊具に関しても公園を作ることに否定的だったわたしの気持ちを真っ先に理解してくれて、子供のためにいくつかの遊具だけを設置することで話がまとまった。

 ドレスや子供達の靴などは彼の目利きで取り寄せてくれることになった。

 と言っても、グレイ様の経営するお店から見繕ってくるらしい。

 たくさんのドレスからわたしが選ぶのは大変なので彼がわたしの好みを聞き持ってきてくれるらしい。

 子育て中のわたしには有難い話。街に出るのは楽しいけどたくさんのお店の中から選ぶとなると子供達との時間がなくなるので今はできるだけ避けたい。

「ティア様は昔と変わらないですね」

 ハンクスがにこりと笑いそう言った。

 ーーえっ?

 ずっと話していて気になっていた。なぜこんなに話しやすいのだろうかと。

「わたし………会ったことありますよね?でも……」

「髪飾りをなくしたんだ、あなたが幼い頃。僕は泣いている君を見ていられなくて一緒に探したんだけど覚えていない?」

「あの騎士見習いのお兄さん?」

「そう、そう。結局見つけてあげられなくてすみませんでした。先輩に見つかって引っ張られて連れ戻されたんです」

「そうだったんですね……あの後、屋敷に髪飾りが届けられたんです」

「そうか、よかった……亡くなったお母さんの形見だと言って泣いていたから忘れられなかったんです」

「まさかこんなところでお会いするなんて思いませんでした」

「僕もです。でもあまり顔が変わっていないのですぐにわかりました」

「うっ……精神年齢が幼いからですかね?」

「そんなことはありませんよ。子供達の立派な母親をされているではありませんか」

「ティア……あの髪飾りを探してくれたと言っていたのがハンクスなのか?」

 黙っていたグレイ様が話に慌てて入ってきた。

「そうみたい、あっ!ハンクスさんお礼を言い損ねてました」

 驚きすぎて完全に忘れてた!

「あの時は一緒に探してくださってありがとうございました」

「ティア、もうハンクスとは喋らなくていい。お礼は言ったんだ。もうハンクス、帰れ!」

「グレイ、そんなに邪魔者扱いするな。僕にヤキモチ妬いてどうするんだ?ただの昔話だろう?」

「ティア、ハンクスにはずっと好きな女性がいるんだ。こいつを好きになっても無駄だからやめておいたほうがいい」

「はああ?グレイ様、どうしてそんな話になるんですか?」

「だって俺はあの時ティアを好きになったんだ。だからティアがハンクスを好きになってもおかしくないだろう?」

「わたしの初恋は幼馴染のクリフォードです!」

「だ、誰だ!その男!タバサ!答えろ!」
 グレイ様がまたまた焦ってる。

「クリフォード様はご近所に住んでいた子爵家のご子息でティア様の2歳年上であります。優秀な方で今は王城で文官をされております」

「えっ?文官になったの?昔っから夢だって言ってたもの。よかったわ」

 ーークリフォードが今どうしているのか気になっていたのに、この屋敷での毎日があまりにも忙しくて忘れていたわ。
 あんなに大好きだったのに。



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