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舞踏会④
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ハンクスとアリスティア様のことはどうなったのかはわからない。
だけどあの様子ならなんとかなるのではないかしら?お互い愛し合ってるようだし、わたし達がいない方が上手く話がいくような気がするわ。
会場ではグレイ様がそばから離れようとしない。セリナ様は「わたしも夫とダンスでも踊ってくるわ」とさっさと離れて行った。
フランソア夫人も苦笑しながらグレイ様と二、三言葉を交わして他の方のところへ行ってしまった。二人はやはり顔見知りだったらしい。
わたしは知らない人ばかりだけどグレイ様はたくさんの知人がいるのよね。ここにいるとわたしの世界があまりにも小さすぎることに気がついた。
「ティア、ここは魑魅魍魎がたくさんいる場所なんだ。俺から離れてはいけないよ」
ーーうーん、だけど、素敵な人もたくさんいると思うんだけど。それに………
「あなたがわたしを置いて他の方達とばかり話していたんじゃなかったかしら?」
「…………すまない。話に夢中になってしまった……もう離さないから」
わたしの手を握りしめているグレイ様、なんだかノエル君を思い出してしまう。ノエル君は可愛くて仕方がないけど、グレイ様に関してはなんとも思っていなかったはずなのに毎日好きだ愛してると言われ続けて、かなりグレイ様に絆されている気がする。
グレイ様のそばにいると周りの物凄く冷たい視線が背中に感じる。振り返るとやはりわたしの噂話をしていた令嬢達だ。
こちらを見て睨みつけている。
グレイ様とわたしの関係が冷め切っているとか上手くいっていないとか、うわさが飛び交っているから、令嬢達はわたし達が離縁すると思っているのだろう。
なのに仲良くいるから気に入らないのかしら?
わたしとしてはノエル君の母でいたいので、離縁予定はない。グレイ様に対して思うところはあるのだけど、今はノエル君のことも父親として頑張ろうと思ってくれているし、わたしのこともきちんと大切にしてくれているのがわかるので……なんとか頑張っていきたい。
だからみんなの期待には添えない。
わたしはグレイ様の手がわたしの手を握りしめていることをアピールしつつ、みんなに向けて笑みを浮かべてみせた。
「どうした?」
わたしが振り返っているのを不思議に思ったようでグレイ様がわたしの顔に自分の顔を近づけてきて聞いてきた。
「きゃっ」「やだっ」「なんで?」
うるさい声が耳に入ってくる。
ーーもお!近すぎ!
わたしの方が「やだっ!」ってさけびそうになった。グレイ様は周囲に態と見せつけている。クスッと嘲笑う顔が怖い。
グレイ様もセリナ様も大人なのかそれとも高位貴族の方達は対処するのが上手なのか、わたしには出来ない。大人の対応?わたしなんて子供のように手を握っているのをアピールすることくらいしか出来ないのに、グレイ様は大人の色気で迫ってきてみんなを牽制してる。
野次馬がいなくなりわたしはデザートに目を向けた。
やはり王宮のデザートは格別だわ。国内だけではなく他国の珍しいスイーツや果物が並べられている。
貴族令嬢たる者、はしたないことはしない。人の前でパクパク食べるなんてみっともないことはしない。
ましてや結婚をした夫人がお皿を持って食べるなんてあり得ない。タバサがいなくてよかった。
絶対注意されていたわ。
わたしは遠慮なく美味しいデザートをいただくことにした。グレイ様がそばにいてくれればもう誰も嫌味は言ってこないだろう。
「行儀が悪いぞ」
わたしの背中に向かって声をかけてきたのは、久しぶりの声だった。
「クリフォード?久しぶりね?」
目の前にいるクリフォードはわたしが知っているクリフォードより大人になっていた。
だけどやっぱりいつもの調子で思わず声が弾んでしまった。
初恋の人。今は……思い出になりつつある人。
「本当にティアなんだ……あの頃のティアが戻ってきてくれたんだね?」
わたしを見るクリフォードは目を細めて懐かしそうに微笑んでいた。
「うん。わたしにとってはこれがいつものわたしよ?」
「俺にとっては懐かしいティアだ、こんな笑顔をまた見れるなんて嬉しいよ」
「あら?これからはずっと見れるわよ?」
「……ティア……君は記憶をなくしたと聞いた……今の俺のことは……」
クリフォードはどう言おうか戸惑いながら話し始めた。
「全て聞いたわ………」
わたしもクリフォードと会って話をしたいと思っていた。
「ティア…」
グレイ様がわたしの肩に手を置くと自分の方へと引き寄せた。
「グレイ様?」
ーーどうしたのかしら?
キョトンと彼を見上げた。
「クリフォード、あんまり親しく話しかけないでくれ。ティアは俺の妻なんだ。話すなら俺を介して話せ」
「えっ?そんな手間のかかることなんて出来ないわ。クリフォードには実家のことを聞きたいだけなの。従兄弟で幼馴染なのよ?お父様のことを聞きたいの、ダメなの?」
「ティアがフォード侯爵にそんな口をきくなんて……驚いたよ」
クリフォードの声は驚きを隠せない。
「そう?いつもこんな感じよ?」
「俺はティアとなんでも言い合える関係を築きたいんだ」
「ティアが幸せそうに笑っているので安心しました。ティアの父上も安心されていると思うよ。君のことを心配していたからね、君が離縁することになったら助けてやって欲しいと頼まれていたんだ」
「離縁なんてあり得ない。俺はティアを一生守り抜くつもりだ」
「大切な幼馴染です、もうティアを苦しめないでください」
クリフォードはグレイ様に頭を下げた。
「わかってる、シャイナー前伯爵にも挨拶に行ってきた。もう二度とティアを悲しませはしないと誓ってきた」
「クリフォード、お父様のことを聞かせて欲しいの」
グレイ様と一緒に後日会って話を聞くことになった。
だけどあの様子ならなんとかなるのではないかしら?お互い愛し合ってるようだし、わたし達がいない方が上手く話がいくような気がするわ。
会場ではグレイ様がそばから離れようとしない。セリナ様は「わたしも夫とダンスでも踊ってくるわ」とさっさと離れて行った。
フランソア夫人も苦笑しながらグレイ様と二、三言葉を交わして他の方のところへ行ってしまった。二人はやはり顔見知りだったらしい。
わたしは知らない人ばかりだけどグレイ様はたくさんの知人がいるのよね。ここにいるとわたしの世界があまりにも小さすぎることに気がついた。
「ティア、ここは魑魅魍魎がたくさんいる場所なんだ。俺から離れてはいけないよ」
ーーうーん、だけど、素敵な人もたくさんいると思うんだけど。それに………
「あなたがわたしを置いて他の方達とばかり話していたんじゃなかったかしら?」
「…………すまない。話に夢中になってしまった……もう離さないから」
わたしの手を握りしめているグレイ様、なんだかノエル君を思い出してしまう。ノエル君は可愛くて仕方がないけど、グレイ様に関してはなんとも思っていなかったはずなのに毎日好きだ愛してると言われ続けて、かなりグレイ様に絆されている気がする。
グレイ様のそばにいると周りの物凄く冷たい視線が背中に感じる。振り返るとやはりわたしの噂話をしていた令嬢達だ。
こちらを見て睨みつけている。
グレイ様とわたしの関係が冷め切っているとか上手くいっていないとか、うわさが飛び交っているから、令嬢達はわたし達が離縁すると思っているのだろう。
なのに仲良くいるから気に入らないのかしら?
わたしとしてはノエル君の母でいたいので、離縁予定はない。グレイ様に対して思うところはあるのだけど、今はノエル君のことも父親として頑張ろうと思ってくれているし、わたしのこともきちんと大切にしてくれているのがわかるので……なんとか頑張っていきたい。
だからみんなの期待には添えない。
わたしはグレイ様の手がわたしの手を握りしめていることをアピールしつつ、みんなに向けて笑みを浮かべてみせた。
「どうした?」
わたしが振り返っているのを不思議に思ったようでグレイ様がわたしの顔に自分の顔を近づけてきて聞いてきた。
「きゃっ」「やだっ」「なんで?」
うるさい声が耳に入ってくる。
ーーもお!近すぎ!
わたしの方が「やだっ!」ってさけびそうになった。グレイ様は周囲に態と見せつけている。クスッと嘲笑う顔が怖い。
グレイ様もセリナ様も大人なのかそれとも高位貴族の方達は対処するのが上手なのか、わたしには出来ない。大人の対応?わたしなんて子供のように手を握っているのをアピールすることくらいしか出来ないのに、グレイ様は大人の色気で迫ってきてみんなを牽制してる。
野次馬がいなくなりわたしはデザートに目を向けた。
やはり王宮のデザートは格別だわ。国内だけではなく他国の珍しいスイーツや果物が並べられている。
貴族令嬢たる者、はしたないことはしない。人の前でパクパク食べるなんてみっともないことはしない。
ましてや結婚をした夫人がお皿を持って食べるなんてあり得ない。タバサがいなくてよかった。
絶対注意されていたわ。
わたしは遠慮なく美味しいデザートをいただくことにした。グレイ様がそばにいてくれればもう誰も嫌味は言ってこないだろう。
「行儀が悪いぞ」
わたしの背中に向かって声をかけてきたのは、久しぶりの声だった。
「クリフォード?久しぶりね?」
目の前にいるクリフォードはわたしが知っているクリフォードより大人になっていた。
だけどやっぱりいつもの調子で思わず声が弾んでしまった。
初恋の人。今は……思い出になりつつある人。
「本当にティアなんだ……あの頃のティアが戻ってきてくれたんだね?」
わたしを見るクリフォードは目を細めて懐かしそうに微笑んでいた。
「うん。わたしにとってはこれがいつものわたしよ?」
「俺にとっては懐かしいティアだ、こんな笑顔をまた見れるなんて嬉しいよ」
「あら?これからはずっと見れるわよ?」
「……ティア……君は記憶をなくしたと聞いた……今の俺のことは……」
クリフォードはどう言おうか戸惑いながら話し始めた。
「全て聞いたわ………」
わたしもクリフォードと会って話をしたいと思っていた。
「ティア…」
グレイ様がわたしの肩に手を置くと自分の方へと引き寄せた。
「グレイ様?」
ーーどうしたのかしら?
キョトンと彼を見上げた。
「クリフォード、あんまり親しく話しかけないでくれ。ティアは俺の妻なんだ。話すなら俺を介して話せ」
「えっ?そんな手間のかかることなんて出来ないわ。クリフォードには実家のことを聞きたいだけなの。従兄弟で幼馴染なのよ?お父様のことを聞きたいの、ダメなの?」
「ティアがフォード侯爵にそんな口をきくなんて……驚いたよ」
クリフォードの声は驚きを隠せない。
「そう?いつもこんな感じよ?」
「俺はティアとなんでも言い合える関係を築きたいんだ」
「ティアが幸せそうに笑っているので安心しました。ティアの父上も安心されていると思うよ。君のことを心配していたからね、君が離縁することになったら助けてやって欲しいと頼まれていたんだ」
「離縁なんてあり得ない。俺はティアを一生守り抜くつもりだ」
「大切な幼馴染です、もうティアを苦しめないでください」
クリフォードはグレイ様に頭を下げた。
「わかってる、シャイナー前伯爵にも挨拶に行ってきた。もう二度とティアを悲しませはしないと誓ってきた」
「クリフォード、お父様のことを聞かせて欲しいの」
グレイ様と一緒に後日会って話を聞くことになった。
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