【完結】母になります。

たろ

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なんだか賑やかだわ。

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 舞踏会から1週間経ったある日、侯爵家の屋敷の庭園にはたくさんの人が集まった。

 セリナ様とフランソア夫人、侍女であるアリスティア様、それからクリフォード、友人のヴィヴィアンとは舞踏会では会えなかったので手紙を出して招待した。

 ノエル君とアリスちゃんはたくさんの人に少し興奮しながらもみんなに上手に挨拶をして、クリフォードを捕まえて遊具で遊び始めた。

 わたし達はみんなでのんびりとお茶をしながらお喋りに花を咲かせていた。

 グレイ様も女性ばかりの席にいるのは居た堪れずクリフォードと一緒に子供達と遊び始めた。

「あの、フォード侯爵が子供と遊んでいるなんて信じられないわ」
 ヴィヴィアンがグレイ様の姿に驚いていた。

「ふふっ、確かにフォード侯爵は常に冷静であまり表情を変えなかったものね」
 セリナ様も王宮で騎士をしている姿を思い出しながら笑っていた。

「わたしもまさか自分がグレイ様と結婚しているなんて思わなかったわ。今はなんとか受け入れているけど、初めは『何このおじさん?』って気分だったもの」

「おじさんって………まさか本人には言っていないわよね?」

 ヴィヴィアンの質問にわたしは目を逸らした。

「えっ?本人に言ったの?」

「だって、16歳のわたしが突然結婚していて目の前にはおじさんがいるんだよ?驚くでしょう?そ、それも子供までいたし……この5年間の記憶を失くして、あまりにもいろんなことがあり過ぎていて受け入れるのが難しかったわ」

「そうね、それは……そうだよね?」

「ティア様は今は受け入れられているの?」
 フランソア夫人が心配そうに聞いてきたので……わたしは少し考えながら答えた。

「すぐに全て受け入れられているわけではありません……だけどノエル君の母親になりたい。その気持ちだけは確かなんです。
 あの子のことを想うと胸がギュって切なくなって抱きしめてあげたい、寝顔を見ているだけで幸せで……笑っている顔をみるとわたしまで笑顔になるんです。あの子が悲しんでいたらわたしまで悲しくなります。
 ……それはアリスちゃんに対しても同じなんです。アリスちゃんは執事のカルロ夫婦が養子として育ててくれることになりました。
 夜、アリスちゃんがいないだけでとても寂しいのですが、あの子が幸せそうにしてくれているから……今は良かったと思っています……
 愚かなわたしの行動が二人を不幸にしてしまいました。今はあの子達が幸せに暮らしてくれることがわたしの喜びなんです……」

「前を向いて生きているのね?」

「はい、父や兄のことを想うとまだまだ泣いてしまいますが、わたしが幸せに暮らしていることが二人も喜んでくれていると思うのです」

「そうね、貴女の今の笑顔を見たら安心していると思うわ」

「はい……」

 わたしは自分が今幸せなんだと笑って言える。
 アリスティア様はそんなわたし達の会話を静かに微笑みながら聞いていた。

 わたしが口出すことではない。でも、ハンクスとの関係は……ついアリスティア様の様子を気にしていたわたしに気がついたフランソア夫人はにこりと微笑んで、アリスティア様の方へ視線を向けた。

「アリスティア、貴女も一言あるんじゃないの?」

「………はい……ティア様……舞踏会の時に気を遣わせてしまい申し訳ございませんでした……ハンクスと久しぶりに顔を合わせ話すことができました」

「あっ、じゃあ……二人は……「いえ、ハンクスとは話しただけです」

「どうしてですか?お二人はお互い愛し合っているのでしょう?」

 隠すことなく思わずそのままの言葉。口にだして訊いていた。

「……わたしは……彼には相応しくないのです……彼を苦しめた元凶の一人なんですから……」

「違うわ!ハンクスは言っていたもの。アリスティア様がそばに居てくれたから頑張れたんだって!アリス商団を大きくしたのもアリスティア様に帰ってきて欲しいからだって言ってたわ。今の幸せがあるのは全てアリスティア様のおかげだって!どうして?もう幸せになってもいいと思うの。
 貴女の家族は最低だと思う。だけど貴女は違う、そんな人たちと貴女を一緒にしてはいけないわ、貴女が幸せになることを諦めないで欲しい、幸せになってそんな家族のことなんて忘れてしまえばいいと思う、ハンクスと幸せになるべきなの!」



「ありがとうございます」

 突然後ろから男の人の声が聞こえた。

「ハンクス………」
 アリスティア様が口に手を当てて困った顔をしていた。

「ハンクス、遅過ぎよ!」
 わたしはハンクスに文句を言った。このお茶会にハンクスも呼んでいたのに顔を出さないから欠席なのかと内心思っていた。

 ーーうまくいかなかったのかも。

 そう思い込んでいた。

「遅くなってすみません、これでも急ぎの仕事をバタバタ終わらせて駆けつけたんですよ?
 アリスティア……俺は諦めないから……君に何度でも会いに行くよ。俺の愛する人は君だけなんだ」

「うわっ、目の前で愛の告白なんて、羨ましいわ」
 セリナ様が目をキラキラさせてる。

「アリスティア、ねぇ、素直になることも必要よ?こんないい男なかなかいないわよ。ハンクスはティアの憧れの騎士様よね?」
 セリナ様はハンクスを気に入ったようだ。

「うん、ハンクスはわたしにとって優しい騎士様だったわ」

「その話聞きたいわ」
 フランソア夫人がなぜか食いついてきた。

 わたしの子供この頃の話をすると、「まぁじゃあティア様の初恋はハンクス?」と言われた。

「わたしの初恋はクリフォードですよ?」

「そうなの?」

「はい」
 ーーだってずっと好きだったんだもの。

「フォード侯爵の初恋は、ティア様なのね?」

「そうみたいです……グレイ様のことあんまり覚えていなかったんだけど……かなり失礼な態度だったのに……それが彼にはとても印象的だったらしいです」

「不思議なご縁ね。ティア様……今の貴女ならもし記憶が戻っても以前のように嘆き悲しむことはないと思うわ……貴女も幸せになりなさい、ご両親とお兄様もそれを望んでいると思うわ」

「はい、わたし……ノエル君の母親でいたいです……」





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