34 / 35
なんだか賑やかだわ。
しおりを挟む
舞踏会から1週間経ったある日、侯爵家の屋敷の庭園にはたくさんの人が集まった。
セリナ様とフランソア夫人、侍女であるアリスティア様、それからクリフォード、友人のヴィヴィアンとは舞踏会では会えなかったので手紙を出して招待した。
ノエル君とアリスちゃんはたくさんの人に少し興奮しながらもみんなに上手に挨拶をして、クリフォードを捕まえて遊具で遊び始めた。
わたし達はみんなでのんびりとお茶をしながらお喋りに花を咲かせていた。
グレイ様も女性ばかりの席にいるのは居た堪れずクリフォードと一緒に子供達と遊び始めた。
「あの、フォード侯爵が子供と遊んでいるなんて信じられないわ」
ヴィヴィアンがグレイ様の姿に驚いていた。
「ふふっ、確かにフォード侯爵は常に冷静であまり表情を変えなかったものね」
セリナ様も王宮で騎士をしている姿を思い出しながら笑っていた。
「わたしもまさか自分がグレイ様と結婚しているなんて思わなかったわ。今はなんとか受け入れているけど、初めは『何このおじさん?』って気分だったもの」
「おじさんって………まさか本人には言っていないわよね?」
ヴィヴィアンの質問にわたしは目を逸らした。
「えっ?本人に言ったの?」
「だって、16歳のわたしが突然結婚していて目の前にはおじさんがいるんだよ?驚くでしょう?そ、それも子供までいたし……この5年間の記憶を失くして、あまりにもいろんなことがあり過ぎていて受け入れるのが難しかったわ」
「そうね、それは……そうだよね?」
「ティア様は今は受け入れられているの?」
フランソア夫人が心配そうに聞いてきたので……わたしは少し考えながら答えた。
「すぐに全て受け入れられているわけではありません……だけどノエル君の母親になりたい。その気持ちだけは確かなんです。
あの子のことを想うと胸がギュって切なくなって抱きしめてあげたい、寝顔を見ているだけで幸せで……笑っている顔をみるとわたしまで笑顔になるんです。あの子が悲しんでいたらわたしまで悲しくなります。
……それはアリスちゃんに対しても同じなんです。アリスちゃんは執事のカルロ夫婦が養子として育ててくれることになりました。
夜、アリスちゃんがいないだけでとても寂しいのですが、あの子が幸せそうにしてくれているから……今は良かったと思っています……
愚かなわたしの行動が二人を不幸にしてしまいました。今はあの子達が幸せに暮らしてくれることがわたしの喜びなんです……」
「前を向いて生きているのね?」
「はい、父や兄のことを想うとまだまだ泣いてしまいますが、わたしが幸せに暮らしていることが二人も喜んでくれていると思うのです」
「そうね、貴女の今の笑顔を見たら安心していると思うわ」
「はい……」
わたしは自分が今幸せなんだと笑って言える。
アリスティア様はそんなわたし達の会話を静かに微笑みながら聞いていた。
わたしが口出すことではない。でも、ハンクスとの関係は……ついアリスティア様の様子を気にしていたわたしに気がついたフランソア夫人はにこりと微笑んで、アリスティア様の方へ視線を向けた。
「アリスティア、貴女も一言あるんじゃないの?」
「………はい……ティア様……舞踏会の時に気を遣わせてしまい申し訳ございませんでした……ハンクスと久しぶりに顔を合わせ話すことができました」
「あっ、じゃあ……二人は……「いえ、ハンクスとは話しただけです」
「どうしてですか?お二人はお互い愛し合っているのでしょう?」
隠すことなく思わずそのままの言葉。口にだして訊いていた。
「……わたしは……彼には相応しくないのです……彼を苦しめた元凶の一人なんですから……」
「違うわ!ハンクスは言っていたもの。アリスティア様がそばに居てくれたから頑張れたんだって!アリス商団を大きくしたのもアリスティア様に帰ってきて欲しいからだって言ってたわ。今の幸せがあるのは全てアリスティア様のおかげだって!どうして?もう幸せになってもいいと思うの。
貴女の家族は最低だと思う。だけど貴女は違う、そんな人たちと貴女を一緒にしてはいけないわ、貴女が幸せになることを諦めないで欲しい、幸せになってそんな家族のことなんて忘れてしまえばいいと思う、ハンクスと幸せになるべきなの!」
「ありがとうございます」
突然後ろから男の人の声が聞こえた。
「ハンクス………」
アリスティア様が口に手を当てて困った顔をしていた。
「ハンクス、遅過ぎよ!」
わたしはハンクスに文句を言った。このお茶会にハンクスも呼んでいたのに顔を出さないから欠席なのかと内心思っていた。
ーーうまくいかなかったのかも。
そう思い込んでいた。
「遅くなってすみません、これでも急ぎの仕事をバタバタ終わらせて駆けつけたんですよ?
アリスティア……俺は諦めないから……君に何度でも会いに行くよ。俺の愛する人は君だけなんだ」
「うわっ、目の前で愛の告白なんて、羨ましいわ」
セリナ様が目をキラキラさせてる。
「アリスティア、ねぇ、素直になることも必要よ?こんないい男なかなかいないわよ。ハンクスはティアの憧れの騎士様よね?」
セリナ様はハンクスを気に入ったようだ。
「うん、ハンクスはわたしにとって優しい騎士様だったわ」
「その話聞きたいわ」
フランソア夫人がなぜか食いついてきた。
わたしの子供この頃の話をすると、「まぁじゃあティア様の初恋はハンクス?」と言われた。
「わたしの初恋はクリフォードですよ?」
「そうなの?」
「はい」
ーーだってずっと好きだったんだもの。
「フォード侯爵の初恋は、ティア様なのね?」
「そうみたいです……グレイ様のことあんまり覚えていなかったんだけど……かなり失礼な態度だったのに……それが彼にはとても印象的だったらしいです」
「不思議なご縁ね。ティア様……今の貴女ならもし記憶が戻っても以前のように嘆き悲しむことはないと思うわ……貴女も幸せになりなさい、ご両親とお兄様もそれを望んでいると思うわ」
「はい、わたし……ノエル君の母親でいたいです……」
セリナ様とフランソア夫人、侍女であるアリスティア様、それからクリフォード、友人のヴィヴィアンとは舞踏会では会えなかったので手紙を出して招待した。
ノエル君とアリスちゃんはたくさんの人に少し興奮しながらもみんなに上手に挨拶をして、クリフォードを捕まえて遊具で遊び始めた。
わたし達はみんなでのんびりとお茶をしながらお喋りに花を咲かせていた。
グレイ様も女性ばかりの席にいるのは居た堪れずクリフォードと一緒に子供達と遊び始めた。
「あの、フォード侯爵が子供と遊んでいるなんて信じられないわ」
ヴィヴィアンがグレイ様の姿に驚いていた。
「ふふっ、確かにフォード侯爵は常に冷静であまり表情を変えなかったものね」
セリナ様も王宮で騎士をしている姿を思い出しながら笑っていた。
「わたしもまさか自分がグレイ様と結婚しているなんて思わなかったわ。今はなんとか受け入れているけど、初めは『何このおじさん?』って気分だったもの」
「おじさんって………まさか本人には言っていないわよね?」
ヴィヴィアンの質問にわたしは目を逸らした。
「えっ?本人に言ったの?」
「だって、16歳のわたしが突然結婚していて目の前にはおじさんがいるんだよ?驚くでしょう?そ、それも子供までいたし……この5年間の記憶を失くして、あまりにもいろんなことがあり過ぎていて受け入れるのが難しかったわ」
「そうね、それは……そうだよね?」
「ティア様は今は受け入れられているの?」
フランソア夫人が心配そうに聞いてきたので……わたしは少し考えながら答えた。
「すぐに全て受け入れられているわけではありません……だけどノエル君の母親になりたい。その気持ちだけは確かなんです。
あの子のことを想うと胸がギュって切なくなって抱きしめてあげたい、寝顔を見ているだけで幸せで……笑っている顔をみるとわたしまで笑顔になるんです。あの子が悲しんでいたらわたしまで悲しくなります。
……それはアリスちゃんに対しても同じなんです。アリスちゃんは執事のカルロ夫婦が養子として育ててくれることになりました。
夜、アリスちゃんがいないだけでとても寂しいのですが、あの子が幸せそうにしてくれているから……今は良かったと思っています……
愚かなわたしの行動が二人を不幸にしてしまいました。今はあの子達が幸せに暮らしてくれることがわたしの喜びなんです……」
「前を向いて生きているのね?」
「はい、父や兄のことを想うとまだまだ泣いてしまいますが、わたしが幸せに暮らしていることが二人も喜んでくれていると思うのです」
「そうね、貴女の今の笑顔を見たら安心していると思うわ」
「はい……」
わたしは自分が今幸せなんだと笑って言える。
アリスティア様はそんなわたし達の会話を静かに微笑みながら聞いていた。
わたしが口出すことではない。でも、ハンクスとの関係は……ついアリスティア様の様子を気にしていたわたしに気がついたフランソア夫人はにこりと微笑んで、アリスティア様の方へ視線を向けた。
「アリスティア、貴女も一言あるんじゃないの?」
「………はい……ティア様……舞踏会の時に気を遣わせてしまい申し訳ございませんでした……ハンクスと久しぶりに顔を合わせ話すことができました」
「あっ、じゃあ……二人は……「いえ、ハンクスとは話しただけです」
「どうしてですか?お二人はお互い愛し合っているのでしょう?」
隠すことなく思わずそのままの言葉。口にだして訊いていた。
「……わたしは……彼には相応しくないのです……彼を苦しめた元凶の一人なんですから……」
「違うわ!ハンクスは言っていたもの。アリスティア様がそばに居てくれたから頑張れたんだって!アリス商団を大きくしたのもアリスティア様に帰ってきて欲しいからだって言ってたわ。今の幸せがあるのは全てアリスティア様のおかげだって!どうして?もう幸せになってもいいと思うの。
貴女の家族は最低だと思う。だけど貴女は違う、そんな人たちと貴女を一緒にしてはいけないわ、貴女が幸せになることを諦めないで欲しい、幸せになってそんな家族のことなんて忘れてしまえばいいと思う、ハンクスと幸せになるべきなの!」
「ありがとうございます」
突然後ろから男の人の声が聞こえた。
「ハンクス………」
アリスティア様が口に手を当てて困った顔をしていた。
「ハンクス、遅過ぎよ!」
わたしはハンクスに文句を言った。このお茶会にハンクスも呼んでいたのに顔を出さないから欠席なのかと内心思っていた。
ーーうまくいかなかったのかも。
そう思い込んでいた。
「遅くなってすみません、これでも急ぎの仕事をバタバタ終わらせて駆けつけたんですよ?
アリスティア……俺は諦めないから……君に何度でも会いに行くよ。俺の愛する人は君だけなんだ」
「うわっ、目の前で愛の告白なんて、羨ましいわ」
セリナ様が目をキラキラさせてる。
「アリスティア、ねぇ、素直になることも必要よ?こんないい男なかなかいないわよ。ハンクスはティアの憧れの騎士様よね?」
セリナ様はハンクスを気に入ったようだ。
「うん、ハンクスはわたしにとって優しい騎士様だったわ」
「その話聞きたいわ」
フランソア夫人がなぜか食いついてきた。
わたしの子供この頃の話をすると、「まぁじゃあティア様の初恋はハンクス?」と言われた。
「わたしの初恋はクリフォードですよ?」
「そうなの?」
「はい」
ーーだってずっと好きだったんだもの。
「フォード侯爵の初恋は、ティア様なのね?」
「そうみたいです……グレイ様のことあんまり覚えていなかったんだけど……かなり失礼な態度だったのに……それが彼にはとても印象的だったらしいです」
「不思議なご縁ね。ティア様……今の貴女ならもし記憶が戻っても以前のように嘆き悲しむことはないと思うわ……貴女も幸せになりなさい、ご両親とお兄様もそれを望んでいると思うわ」
「はい、わたし……ノエル君の母親でいたいです……」
1,341
あなたにおすすめの小説
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
月夜に散る白百合は、君を想う
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢であるアメリアは、王太子殿下の護衛騎士を務める若き公爵、レオンハルトとの政略結婚により、幸せな結婚生活を送っていた。
彼は無口で家を空けることも多かったが、共に過ごす時間はアメリアにとってかけがえのないものだった。
しかし、ある日突然、夫に愛人がいるという噂が彼女の耳に入る。偶然街で目にした、夫と親しげに寄り添う女性の姿に、アメリアは絶望する。信じていた愛が偽りだったと思い込み、彼女は家を飛び出すことを決意する。
一方、レオンハルトには、アメリアに言えない秘密があった。彼の不自然な行動には、王国の未来を左右する重大な使命が関わっていたのだ。妻を守るため、愛する者を危険に晒さないため、彼は自らの心を偽り、冷徹な仮面を被り続けていた。
家出したアメリアは、身分を隠してとある街の孤児院で働き始める。そこでの新たな出会いと生活は、彼女の心を少しずつ癒していく。
しかし、運命は二人を再び引き合わせる。アメリアを探し、奔走するレオンハルト。誤解とすれ違いの中で、二人の愛の真実が試される。
偽りの愛人、王宮の陰謀、そして明かされる公爵の秘密。果たして二人は再び心を通わせ、真実の愛を取り戻すことができるのだろうか。
【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる
kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。
いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。
実はこれは二回目の人生だ。
回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。
彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。
そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。
その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯
そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。
※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。
※ 設定ゆるゆるです。
完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。
音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。
王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。
貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。
だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……
ヒスババアと呼ばれた私が異世界に行きました
陽花紫
恋愛
夫にヒスババアと呼ばれた瞬間に異世界に召喚されたリカが、乳母のメアリー、従者のウィルとともに幼い王子を立派に育て上げる話。
小説家になろうにも掲載中です。
【完結】この地獄のような楽園に祝福を
おもち。
恋愛
いらないわたしは、決して物語に出てくるようなお姫様にはなれない。
だって知っているから。わたしは生まれるべき存在ではなかったのだと……
「必ず迎えに来るよ」
そんなわたしに、唯一親切にしてくれた彼が紡いだ……たった一つの幸せな嘘。
でもその幸せな夢さえあれば、どんな辛い事にも耐えられると思ってた。
ねぇ、フィル……わたし貴方に会いたい。
フィル、貴方と共に生きたいの。
※子どもに手を上げる大人が出てきます。読まれる際はご注意下さい、無理な方はブラウザバックでお願いします。
※この作品は作者独自の設定が出てきますので何卒ご了承ください。
※本編+おまけ数話。
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さくら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる