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15話
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院長先生からの問いにどう答えたらいいのか迷っていた。
逃げ続けたら最期は平民として生きるしかない。
そこまで考えていなかった。
とにかくあの屋敷から逃げたかっただけ。
自分の浅はかさに、何も答えられず固まってしまった。
「とりあえず暫くはうちの孤児院でみんなと一緒に過ごしましょう。ここで過ごす間は誰にも、例え貴女の父親にも邪魔されずに暮らせるように手は打ってあげる。その代わりさっきも言ったように、何も贔屓はしないから水汲みや掃除、なんでもみんなと同じことをして貰うわ」
「ありがとうございます」
わたしは院長先生の部屋を後にした。
そして四人部屋へ向かった。
「リゼ、遅かったわね」
8歳のミリアに声をかけられた。
ミリアはこの部屋で最年長で、世話好きらしくわたしに色々教えてくれる。
「うん、今までの事を色々聞かれてたの」
「そっかあ、みんな色々あるからね。0歳のマイラみたいに最初からだと、なんにもないからそっちの方が幸せかもしれない。ヘタに記憶がある方がずっと辛い子もいるからね」
「……うん」
わたしは自分が殺されて不幸だと思っていたけど、ここにいる子達はみんなそれぞれが事情があり、わたしなんかより辛い思いをしていた子もいることに気がついた。
わたしは自分のことで精一杯だった。
16歳のわたしが子どもに諭されるなんて……何故かみんなの顔が見れなくてすぐにベッドに入り、布団を被って寝たふりをした。
みんなはわたしが辛くて黙って寝てしまったと思ったのかそっとしてくれた。
ここの子達も、いつも行っていた孤児院の子達も、みんな良い子ばかり。
わたしはこんなに沢山の人の優しさや温かさに触れたのは、十六年間で初めての経験で、今のこの感情をどう受け止めたらいいのかわからなかった。
朝目が覚めると
「リゼ、おはよう。水汲みの仕事があるけど、行ける?」
「うん、大丈夫!」
孤児院にやってきて3日目。
昨日も水汲みを朝と昼と2回したので、要領は覚えた。
孤児院の建物の外にある井戸からバケツで水汲みをして貯水槽に貯める。ひたすらこれの繰り返しだ。
これを飲食用に使ったり皿を洗ったりする。
洗濯は井戸の近くの洗い場でする。
お風呂は週に一回しか入れない。
お風呂にお水を貯めて、薪でお風呂を沸かす。
この時の水汲みが一番大変らしい。
沢山の人数がお風呂に入るので、お風呂を沸かすのは週に2回で、半分ずつに別れて、週に1回入ることになっている。
屋敷では毎日お風呂に入っていたので、驚いた。
貴族の屋敷では、水道があって蛇口からお水が出るけど、まだ市井では全ての家にはないらしい。
特に孤児院は予算的に水道の工事代が足りなくて未だに井戸水を汲んでいる。
とにかく予算が厳しいと、先生達がため息をついていた。
わたしの金貨を使えばいいのにと思ったけど、贅沢は駄目なんだと言われた。
これから孤児院を出た時にもっとつらい事があるから、少しでも大変に慣れていないといけないと言われて、さらに驚いた。
食事は一日3食あるが、おやつなどは滅多にないらしい。
慰問などでお金持ちの人が持ってきてくれた時は食べられると言っていた。
水汲み、掃除、洗濯、料理に小さい子の世話などする事はいっぱいある。
もちろん子どもなので間で、遊ぶ時間もあるし、少しだけど勉強をする時間もある。
だけど全員が字が書けるわけでも算数が出来るわけでもない。
興味がある子だけが少し勉強しているだけみたいだ。
わたしは、3歳の頃の先生が教えてくれたやり方を思い出して、カードを作った。
カードで遊びながら、数字を覚えていく方法だ。
そして簡単な足し算と引き算を全員が出来る様になれば、就職する時に少しでも楽になる。
文字のカードも作り遊び感覚で覚えていけば、読むことが出来る様になる。
そうすれば人に騙されることが減る。
これは前回の孤児院で、通っている時に聞いた話なので、10年前の今も同じだと思った。
そしてわたしはみんなと過ごすようになった。
孤児院に住み始めて、気がつけば4か月が過ぎていた。
わたし……殿下の婚約者にならなくて済んでいるみたい!
殿下のことなんか忘れていたわ。
いや、頭から離して、考える事を辞めていた。
逃げ続けたら最期は平民として生きるしかない。
そこまで考えていなかった。
とにかくあの屋敷から逃げたかっただけ。
自分の浅はかさに、何も答えられず固まってしまった。
「とりあえず暫くはうちの孤児院でみんなと一緒に過ごしましょう。ここで過ごす間は誰にも、例え貴女の父親にも邪魔されずに暮らせるように手は打ってあげる。その代わりさっきも言ったように、何も贔屓はしないから水汲みや掃除、なんでもみんなと同じことをして貰うわ」
「ありがとうございます」
わたしは院長先生の部屋を後にした。
そして四人部屋へ向かった。
「リゼ、遅かったわね」
8歳のミリアに声をかけられた。
ミリアはこの部屋で最年長で、世話好きらしくわたしに色々教えてくれる。
「うん、今までの事を色々聞かれてたの」
「そっかあ、みんな色々あるからね。0歳のマイラみたいに最初からだと、なんにもないからそっちの方が幸せかもしれない。ヘタに記憶がある方がずっと辛い子もいるからね」
「……うん」
わたしは自分が殺されて不幸だと思っていたけど、ここにいる子達はみんなそれぞれが事情があり、わたしなんかより辛い思いをしていた子もいることに気がついた。
わたしは自分のことで精一杯だった。
16歳のわたしが子どもに諭されるなんて……何故かみんなの顔が見れなくてすぐにベッドに入り、布団を被って寝たふりをした。
みんなはわたしが辛くて黙って寝てしまったと思ったのかそっとしてくれた。
ここの子達も、いつも行っていた孤児院の子達も、みんな良い子ばかり。
わたしはこんなに沢山の人の優しさや温かさに触れたのは、十六年間で初めての経験で、今のこの感情をどう受け止めたらいいのかわからなかった。
朝目が覚めると
「リゼ、おはよう。水汲みの仕事があるけど、行ける?」
「うん、大丈夫!」
孤児院にやってきて3日目。
昨日も水汲みを朝と昼と2回したので、要領は覚えた。
孤児院の建物の外にある井戸からバケツで水汲みをして貯水槽に貯める。ひたすらこれの繰り返しだ。
これを飲食用に使ったり皿を洗ったりする。
洗濯は井戸の近くの洗い場でする。
お風呂は週に一回しか入れない。
お風呂にお水を貯めて、薪でお風呂を沸かす。
この時の水汲みが一番大変らしい。
沢山の人数がお風呂に入るので、お風呂を沸かすのは週に2回で、半分ずつに別れて、週に1回入ることになっている。
屋敷では毎日お風呂に入っていたので、驚いた。
貴族の屋敷では、水道があって蛇口からお水が出るけど、まだ市井では全ての家にはないらしい。
特に孤児院は予算的に水道の工事代が足りなくて未だに井戸水を汲んでいる。
とにかく予算が厳しいと、先生達がため息をついていた。
わたしの金貨を使えばいいのにと思ったけど、贅沢は駄目なんだと言われた。
これから孤児院を出た時にもっとつらい事があるから、少しでも大変に慣れていないといけないと言われて、さらに驚いた。
食事は一日3食あるが、おやつなどは滅多にないらしい。
慰問などでお金持ちの人が持ってきてくれた時は食べられると言っていた。
水汲み、掃除、洗濯、料理に小さい子の世話などする事はいっぱいある。
もちろん子どもなので間で、遊ぶ時間もあるし、少しだけど勉強をする時間もある。
だけど全員が字が書けるわけでも算数が出来るわけでもない。
興味がある子だけが少し勉強しているだけみたいだ。
わたしは、3歳の頃の先生が教えてくれたやり方を思い出して、カードを作った。
カードで遊びながら、数字を覚えていく方法だ。
そして簡単な足し算と引き算を全員が出来る様になれば、就職する時に少しでも楽になる。
文字のカードも作り遊び感覚で覚えていけば、読むことが出来る様になる。
そうすれば人に騙されることが減る。
これは前回の孤児院で、通っている時に聞いた話なので、10年前の今も同じだと思った。
そしてわたしはみんなと過ごすようになった。
孤児院に住み始めて、気がつけば4か月が過ぎていた。
わたし……殿下の婚約者にならなくて済んでいるみたい!
殿下のことなんか忘れていたわ。
いや、頭から離して、考える事を辞めていた。
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