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61話  過去戻り編

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目覚めたら知らない場所にいた。

(ここは……?)

わたしは周囲を見回した。

わたしの手、わたしの体。

大きさは13歳のままだ。

死んで3回目の人生に巻き戻ったのかと思ったけど違っていた。

だってわたしの姿は鏡に映っていない。

幽霊?

ここはどこ?

わたしはあんな酷い怪我をして毒に侵されたのに、とても体が軽い。

知らない屋敷を歩いていても誰もわたしの存在に気が付かない。

メイド服を着た沢山の人。

執事の人、料理人、たぶん出入りの業者さんもいる。

でも誰もわたしの存在に気がつかない。

歩いて回るのに疲れない。

どれくらいあるいてまわったのだろう。

そんな時、遠くから泣く声が聞こえてきた。

「ごめんなさい、もうしません。これ以上叩かないで」
幼い子供の声だった。

ドアをすり抜けて覗いてみると、わたしの死ぬほど嫌いなニューベル公爵がいた。

(うん?でもすごく若い、気持ち悪いのは昔から変わらないんだ、やっぱり気持ち悪い)

ニューベル公爵は、8歳くらいの女の子を鞭で叩いていた。

とても楽しそうに、興奮していた。

「泣け!もっと泣け!」

女の子は壁に追いやられて震えて泣き続けていた。

痛みで抵抗出来ずにいるのを見て、わたしは何とかしなきゃと思った。

周りを見て何かないか、でもわたしが触ることが出来るのか……通り抜けてしまうのに……

なんとかしないと。

わたしは近くにあるものを片っ端から触ろうとした。

でも全てすり抜ける。

気持ち悪いけどニューベル公爵に体当たりした。

すり抜けるはずが、何故か反応があった。

突然体に何か物が当たった公爵は驚いて辺りを見回していた。

わたしは何度も何度もぶつかり、気持ち悪いけど股間を思いっきり蹴った。

蹲った公爵を見届けて、わたしは壁でぐったりした女の子の耳元で「立って!早く!」と声を掛けた。

女の子はわたしをじっと見た。

「見える?」

女の子はこくんと頷いた。

そしてわたしの手を握り、一緒に部屋から出た。

わたしと手を繋いだ女の子は、何故かわたしと同じで周りから見えていない。

「わたしはエリーゼ貴女の名前は?」

「わたしはユシリス!助けてくれてありがとう」

ユシリス?え?

「もしかしてあの気持ち悪いニューベル公爵の娘?」

「お父様を知っているの?」

ユシリス様は青い顔をして震えていた。

「うーん、知ってはいるけど知らないわ。どうしてあの人は貴女を叩いていたの?」

「お母様が亡くなってからお父様はわたしを叩くようになったの」

「どういうこと?」

「お父様がお母様が死んだのはわたしの所為だって」

「え?どうして?」

「お母様はわたしを産んで体を壊したの。それからは寝ていることが多くて……風邪を引いて肺炎を起こして返らぬ人になったの」

「ユシリス様の所為ではないわ」

「お父様はお母様が亡くなった日からわたしを部屋から出さなくなって今みたいに鞭で叩いたり殴ったりするようになったの」

「痛かったわね、怖かったでしょう?よく我慢したわ」

「………う、う……ん」

ユシリス様は涙をポロポロ流していた。

「泣かないで、他には何かされていない?」

「……うん、大丈夫…」

「変なことはされていない?」

「……?……」

どう聞いていいかわからなかった。

あの映像で聞いた、娘への性的虐待はまだ始まっていなかった。

「お母様はいつ亡くなったの?」

「10日前……」

「そうか、寂しいよね、わたしも小さい頃にお母様が亡くなったの、悲しかったわ」

「お姉ちゃんも?」

「え?お姉ちゃん?……そ、そうお姉ちゃんもなの」

今のわたしはユシリス様より年上だった。

「お姉ちゃん、どうしてわたしとお姉ちゃんが歩いているのに誰もこっちを見ないの?わたし、部屋から出してもらえなかったの、みんなも知っているはずなのに」

「お姉ちゃんにもわからないの、でもね、貴女を助ける為にわたしはここに飛ばされたんだと思うの」

「わたしを助ける?」

「うん、貴女はとても良い子なの。だからあの糞気持ち悪いニューベル公爵から貴女を守るのがわたしの仕事なの」

わたしは本当にそう思った。

だってニューベル公爵には体当たり出来たし、ユシリス様と手を握ればユシリス様もみんなから消えて見えなくなっている。

でも、これで助けたとはいえない。

どうすればいいの?




◆ ◆ ◆

あともう少し話が続きます。

ここからはユシリスの救済編です。

皆様からユシリスを!との言葉に…もう少しだけお付き合いください。


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