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89話
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南の領地で過ごした日々はわたしにはとても新鮮だった。
初めての長い旅はいろいろな街の景色を見れたし毎日が楽しかった。
特に海が近いので海鮮が美味しくて、とても幸せな時間だった。
ユシリス様にお会い出来て良かった。
彼女は自分の過去の行いをとても後悔していた。
でもその過去は彼女自身であるが、今の彼女ではない。
ユシリス様を見てそう思った。
わたしは、殿下やお父様を恨んだ。
特に二人に対してとても恨んだのは二人に愛して欲しかったからだと今は思う。
マリーナ様やユシリス様に対してもちろん恨みはあるけど、殿下とお父様への恨みとは違う。
二人を許せなかったのはわたしが二人を愛していたから……それなのに見捨てられたことへの悲しみや恨みが、どうしても許せなくて頑なになったのだと思う。
そう、彼らも今回は違うのだ。
わたしは、二人と無理矢理、普通に接することはできないけど、頑なに拒むことだけはやめようと思う。
まあ、と言ってもクロード殿下に二度と関わらないと言われたので、それはそれでいいのかと思うことにした。
今の人生をとりあえず生きられるところまで生きていこう。
その間にまたクロード殿下と再開することもあるかもしれない。
その時は拒むのではなく自然に任せて接する事ができるかもしれない。
「エリーゼ様、体調が悪いのですか?」
ブラッドが心配そうに聞いてきた。
「大丈夫よ、長旅で疲れただけ……もうすぐ王都に着くのよね?ひと月離れているととても懐かしく感じるわ」
わたしはやっと帰ってきたのだと嬉しく感じた。
駅には心配そうにお父様が立って待っていた。
わたしはやはりいつものように、
「お父様、帰りました」
と、冷たく一言だけ言って頭を下げるとそれ以上話すことはなかった。
お父様と普通の会話をしなくっちゃ!
意識するとさらに何を話していいのかわからなくて頭の中がぐるぐる回って真っ白になって、態度が冷たくなってしまう。
わたしは心の中で溜息を吐きながら、お父様の背中を眺めながら歩いた。
お父様の後ろ姿が小さく感じた。
以前は大きくてとても良い遠い存在だったのに、今は手を伸ばせば届いてしまうほど近くに感じる。
なのにその手を伸ばして触れることが出来ない。
屋敷に戻り、わたしは自分の部屋に行き、ベッドに倒れ込み、そのまま眠りについていた。
お父様がこっそりわたしの様子を見にきて、わたしにそっと毛布をかけてくれたことをわたしは知らなかった。
「おやすみエリーゼ……」
夏休み明けの週末、わたしはお世話になった孤児院へ新しい記憶になって初めて訪れた。
ヴィクトリア様に会う心の準備がなかなか出来なかった。
わたしには記憶がないのに、先生には二人の子供がいるのだ。
お兄様と同じ歳のウィリアン様と2歳年下のナタリーアさま。
わたしはナタリーア様にとても懐いていたらしい。
会ってもどうしていいのかわからない。
わたしは今の記憶はないのだから……
それでも今の人生でお世話になった大事な人たち。
避け続けることはできない。
孤児院は前と同じ場所にあり、入るとわたしの前の記憶と同じみんながいた。
知らないのはやはり院長先生家族だけだった。
そして、久しぶりの再会は……
初めての長い旅はいろいろな街の景色を見れたし毎日が楽しかった。
特に海が近いので海鮮が美味しくて、とても幸せな時間だった。
ユシリス様にお会い出来て良かった。
彼女は自分の過去の行いをとても後悔していた。
でもその過去は彼女自身であるが、今の彼女ではない。
ユシリス様を見てそう思った。
わたしは、殿下やお父様を恨んだ。
特に二人に対してとても恨んだのは二人に愛して欲しかったからだと今は思う。
マリーナ様やユシリス様に対してもちろん恨みはあるけど、殿下とお父様への恨みとは違う。
二人を許せなかったのはわたしが二人を愛していたから……それなのに見捨てられたことへの悲しみや恨みが、どうしても許せなくて頑なになったのだと思う。
そう、彼らも今回は違うのだ。
わたしは、二人と無理矢理、普通に接することはできないけど、頑なに拒むことだけはやめようと思う。
まあ、と言ってもクロード殿下に二度と関わらないと言われたので、それはそれでいいのかと思うことにした。
今の人生をとりあえず生きられるところまで生きていこう。
その間にまたクロード殿下と再開することもあるかもしれない。
その時は拒むのではなく自然に任せて接する事ができるかもしれない。
「エリーゼ様、体調が悪いのですか?」
ブラッドが心配そうに聞いてきた。
「大丈夫よ、長旅で疲れただけ……もうすぐ王都に着くのよね?ひと月離れているととても懐かしく感じるわ」
わたしはやっと帰ってきたのだと嬉しく感じた。
駅には心配そうにお父様が立って待っていた。
わたしはやはりいつものように、
「お父様、帰りました」
と、冷たく一言だけ言って頭を下げるとそれ以上話すことはなかった。
お父様と普通の会話をしなくっちゃ!
意識するとさらに何を話していいのかわからなくて頭の中がぐるぐる回って真っ白になって、態度が冷たくなってしまう。
わたしは心の中で溜息を吐きながら、お父様の背中を眺めながら歩いた。
お父様の後ろ姿が小さく感じた。
以前は大きくてとても良い遠い存在だったのに、今は手を伸ばせば届いてしまうほど近くに感じる。
なのにその手を伸ばして触れることが出来ない。
屋敷に戻り、わたしは自分の部屋に行き、ベッドに倒れ込み、そのまま眠りについていた。
お父様がこっそりわたしの様子を見にきて、わたしにそっと毛布をかけてくれたことをわたしは知らなかった。
「おやすみエリーゼ……」
夏休み明けの週末、わたしはお世話になった孤児院へ新しい記憶になって初めて訪れた。
ヴィクトリア様に会う心の準備がなかなか出来なかった。
わたしには記憶がないのに、先生には二人の子供がいるのだ。
お兄様と同じ歳のウィリアン様と2歳年下のナタリーアさま。
わたしはナタリーア様にとても懐いていたらしい。
会ってもどうしていいのかわからない。
わたしは今の記憶はないのだから……
それでも今の人生でお世話になった大事な人たち。
避け続けることはできない。
孤児院は前と同じ場所にあり、入るとわたしの前の記憶と同じみんながいた。
知らないのはやはり院長先生家族だけだった。
そして、久しぶりの再会は……
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