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6話

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侯爵家を後にして、寮の部屋に戻った俺はベッドでボーっと寝転んでいた。

(エイミーが母親になる……)
結婚したんだからいずれは子どもが出来て当たり前。わかっていたのにやはりショックは隠しきれなかった。
アリシアにまで心配されて俺はなんとも言えない気分だった。

もう気持ちは整理できているはずなのに、偶にこんな気持ちになる。
完全に思い出になるのはもう少し時間がかかるのかもしれない。6年間の片思いは案外重たすぎた。



俺は気分を変えるために、外に出て一人木刀を振り、邪念を払っていた。

「アラン!お前なんでこんな時間に真面目に鍛錬してるんだ!」

同期のジャックが街に出かけた帰りなのか酔っ払って俺に話しかけてきた。

「ジャック、ここからでも酒の匂いがするぞ」

「だってさ、せっかくの休日なんだから飲まずにいられないだろう?いい女がいたんだが、相手にもしてもらえなくてさ、頭きたから酒でも飲まないとやっていられないよ」

「ここは神聖な騎士団の鍛錬の場だ。そんな酒臭い状態でここに居るのはやめてくれ!」

「ほん、っとおに、お前って真面目だよな。少しは女と遊ばないとお前干からびるぞ」

「俺は好きになった女だけでいい。誰かれ遊びたいとは思わない」

「お前っての本当の息子のくせに何言ってるんだ。女とみれば誰でも抱いていた男の息子だろう?
それなのに遊ばないなんておかしいだろ?」

俺は一番言われたくない親のことを持ち出されてイラッとしたが、ここでジャックの挑発にのって、喧嘩でもしたら俺が悪者になる。

俺は冷静に笑顔で
「ジャック、反面教師って言葉知ってる?」
と聞き返した。

「は?」
間抜けな返事が返ってきた。

「俺はあの人みたいに好き過ぎて拗らせて浮気するなんて無理だから。
ジャック、あの人のこと話すくらいだから一度会わせてあげるよ。君が思うほど酷い男ではないよ」

俺が笑ってジャックに言うと、青い顔をして必死に首を横に振った。

「アラン、ごめん。八つ当たりだ。
女の子に振られてお前はモテるのにと思うと、つい意地悪を言ってしまったんだ。
ベルアート公爵に会うなんてそんな恐ろしいことは出来ないよ。彼の剣の腕前はダン団長をも上回るって未だに言われている人だろう?
俺本気で殺られるよ」

ジャックは酔いが覚めたみたいだ。

シュンとなって「じゃあな、邪魔してごめん」と言って寮に帰っていった。

俺も酒でも飲んで寝るか……と思って練習場を後にした。

帰る途中、どこからか女性の声が聞こえてきた。

「やめてください!」

必死で誰かに訴えている切羽詰まった声に思わず当たりを見回した。

そして道から少し外れた木の陰に二人の姿を見つけた。
そっと近づくと、女性の服を無理矢理脱がそうとしている男性の姿を見て、
「何をしているんだ!」
と声をかけた。

「助けて!」

女性が必死で俺に助けを求めているのがわかったので、俺は男の体を女性から力一杯引き剥がした。

「い、痛い!何をするんだ!」

「女性に手荒なことをされていたので助けたまでです」

「お前、俺が誰かわかっているのか?」

顔をよく見るとその顔は社交界で女好きで有名な伯爵家の次男坊のクリストファ・スライドだった。

「スライド様ですね。貴方のような立派な方がなさる事ではありません。見なかったことに致しますのでどうぞこのままお帰りください」

「お前は、平民に成り下がったアランだな!」

「はい、成り下がった、ただのアランです」

「ふん、お前は馬鹿だろう。黙っていれば侯爵になれたのに見す見す逃してしまうなんて」

小馬鹿にしながら言われたが、俺は笑いながら

「そうですね、でもわたしは今のアランでいる事を誇りに思っています」

「どこが誇れるんだ?」

「自分だけの力で生きていることですね。自分で稼いで、そのお金だけで生きている。贅沢は出来ませんし、美味しいものばかり食べられる訳ではありません。でも充実しています」

「貧乏人の負け惜しみだな」

「そうかもしれません」

「貴族でいれば、女だって寄ってくる。立場の弱い女はすぐに擦り寄って抱いて欲しいと喜んで股を開く。この女もその一人だ」

さっきのジャックと言い、またそんな話かと呆れながらも俺は顔色を変えずにいた。

「わたしは好きになった女性にしか興味がありません。それに彼女は、青い顔をして震えています。
先程も助けて欲しいとお願いされました。どうぞ何も言わずにこのままお帰りください」

俺は静かに優しく、だがこれ以上の無体は許さないと圧をかけて話した。

スライド様は、俺の圧に押されて諦めたのか

「気が削がれた。俺は帰る」

俺と女性をじろっと見て、舌打ちをすると、さっさと帰っていった。
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