【完結】彼の瞳に映るのは  

たろ

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お父様は相変わらずなので。

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 顔合わせが終わりわたしはお父様と同じ馬車に乗り家路についた。

 本当は回れ右をして、ダッシュで逃げたかったのに……。
 出来るだけ視線を合わせないで済むように、ずっと窓から外の景色を眺め続けた。

「なんでお前はいつもわたしをイラつかせるんだ!ったくデヴィッドの息子なんかと婚約することになるなんて!」

 わたしには直接当たらない様にしてはいるみたいだけど、一人でぶつぶつと文句を言っている。

 王命とまでは言わなくても、国王直々の紹介からの婚約なのでお父様に拒否権はない。

 ーーふふ、これでお父様の好き勝手に婚約させられないで済むわ。

 わたしは聞こえないフリをして窓から目を離さなかった。
 すると「ハァー」と大きな溜息をついたかと思うとわたしをじっと見つめ始めた。
 鋭い視線に身動きすらできない。

 重たい空気の中ひたすらダンマリで我慢比べの中なんとか屋敷に着いた。

「お帰りなさいませ」
 執事のトムがお迎えに出てきていた。
 馬車をさっさと降りるお父様。わたしも誰の手も借りずに馬車を降りた。
 お父様の方なんか見てもいなかった。……が、トムがなんとも言えない残念そうな顔をしていたのでチラッとお父様を見ると、引っ込めることもできない手が固まって馬車を降りるステップのところにあった。

 ーーもしかしてわたしに手を貸そうとした?

 まさかね。

 期待はしてはいけない。お父様がわたしに文句か悪態はついても優しさだけは全く見せたことなどない。

 わたしはトムの目線に気が付かないフリをしてさっさとお父様を置いて屋敷に入ることにした。

 屋敷の方からはお父様のお迎えのためお母様が着飾って慌てて出てきた。

「貴方お帰りなさいませ」

「ああ」
「「お父様、お帰りなさいませ」」
 可愛い義弟と義妹がお父様の帰りを心から待っていたようだ。

 家族の団欒の中にわたしは不要。だから軽く義母に頭を下げると屋敷に入り自室へと逃げ込んだ。

「ふー、やっと解放されたわ」

 わたしはドレスを一人で脱ぐと床に脱ぎ捨てて、下着姿でベッドに倒れ込んだ。

 枕の下に隠してあるお母様の写真。

 それをそっと取り出してお母様に報告した。

「お母様、わたしは今16歳です。今から2年間はここを出て行かなくてすみます。その間だけかもしれないけど…お母様の愛したこの屋敷を必ず守ります」

 一階では家族団欒中なんだろう。
 そう思うと今日の食事は喉を通らない。
 サリーに夕食は要らないとメモを書いて扉に貼った。

 これで今夜は一人っきり。

 誰にも会わずに済むので、窓を開けて月明かりをボーッと眺めて長い夜を一人で過ごすことにした。

 明日はまた王宮へ行き王妃様とのおしゃべりの時間。

 その時間になることだけを楽しみに眠れぬ夜をこの屋敷で過ごす。
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