【完結】彼の瞳に映るのは  

たろ

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ダイアナ。  求める人は。

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 静かだった。

 夢の中?それとも現実?


 愉しそうに、小馬鹿にしたように。

 意識を失う時彼女はわたしの耳元で囁いた。

『ねえ貴女は生きてて幸せ?』

 ーーわたしは……『幸せです』と頷けなかった。

 どうしてここまで意地を張ってきたのだろう。
 もっと楽に暮らすことが出来た。

 ブラン王国へ行けばわたしの家族が待ってくれているから。なのに逃げたくなかった。逃げるのはギリギリでいい、もうどうしようもなくなってから。

 そう思っていた。

 何故あの人はそんなことを聞いたのだろう。

 ズキズキする頭を押さえながら自分がいる部屋をキョロキョロ見た。

「こ、こは?」


 月明かりが微かに入ってくる何もない部屋。

『貴女には外国へ行ってもらうわ、この国から消えてもらうの。誰も知らない国で嫁ぐの』

 思い出していた。馬車の中で言われた彼女の言葉。


『わたしもこの国からやっと出ていくわ。貴女のお祖父様から子供を産むように命令されたわ、そして貴女をこの国から連れ出してやっとわたしも解放されるの』

『わたしの実家は借金で首が回らなかったの。貴女のお父様の子供を産むのが条件だった。解放されると思ったら今度は貴女の監視を命令されて……ほんとムカつくしかなかった。やっとこんな国おさばらよ』

 ミリア様は、いつもわたしの存在を無視していた。
 まるでわたしがいないかのように、いつもにこやかに微笑みながら。

 そんな彼女の心の中身が……お祖父様の子飼いだったなんて。お父様の子供を産むように命令されわたしを攫うように命令された?

 お祖父様はとても厳しい人だった。お母様に対しても強い口調で命令する人。

 お母様はそれをじっと黙って耐えていた。

『またベッドで臥せているのか?』
『いい加減に次期公爵夫人としての仕事くらいしたらどうだ?お前ができるのはダニエルに抱かれて子を産むことだけだろう?』
『ったくこの愚図!黒髪は大人しく男の言うことを黙って聞いていればいいんだ』

『申し訳ありません』『すみません』

『や、やめてください』


 ーー思い出した。

 お母様が言われたこと、された事。

 何で忘れていたのだろう、たぶん忘れたかったから。

 まだ6歳になったばかりの頃…お母様の病室でお祖父様はお母様を犯していた。

 なんて汚い。なんて気持ち悪い。お母様は声を出すこともなく死にそうな顔をしてじっと耐えていた。

 そしてその姿をわたしに見られて、ショックを受けた。
 それから日に日に病状は悪化していった。

 わたしはお母様が亡くなった時、お父様を責めた。そして葬儀にも出してもらえず納屋に閉じ込められたのだった。

 ミリア様がお父様そっくりの息子を連れてきた時、ショックだった。

 あの頃のわたしは全てが朧げで理解できていなかった。



 今ならわかる。お父様は裏切っていた。そしてお母様は傷つけられた。

 お祖父様は狂っている。
 お母様を毛嫌いし怒っているはずなのに、異常な程の執着。
 わたしのこともそう。
 わたしを嫌っているはずのお祖父様、時折り見せるあの気持ち悪い視線は、お母様と同じ…欲?

 狂っている、みんなみんな。

 そしてわたしは知らない場所に連れてこられて、知らない人に嫁がされる。

 頭が痛い。気持ちが悪い。

 ーーキース様……

 何故か彼の顔を思い出した。

 婚約者と言ってももうすぐ解消する相手。なのに彼はいつもわたしを優しく見ていてくれた。

 彼の優しい視線に何度助けられただろう。

 周りから悪い噂を立てられてもジャスティア殿下にネチネチと言われても、キース様の顔を見れば『ま、いいか』とどうでもよくなった。

 でも、もうすれすらも出来なくなる。

 この何もない部屋で逃げることすらできない。

 あるのは絶望だけ。











 

 


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