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いや!
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「お父様、ご存知じゃないの?」
「何をだい?」
ピクリと片眉を少し吊り上げた父のマック。
「魔法が使えない魔力だけが多いわたくしは、子を産むためだけに嫁に欲しいと思われていることをご存知ないの?」
「…………誰がそんなことを?」
だんだん不機嫌な顔になっていくマック。
「ある集まりの場所で、そこにいた男の子にそう言われたわ。そんなことを知らなかったわたくしが無知だったの……魔力だけならたくさんあるのに魔法が使えない。そんなわたくしでも努力すれば少しは魔法も使えるかもしれない」
顔を俯き悲しそうな声でミルヒーナは語り始めた。
実は下を向いてニヤッと笑っていたのだが、マックには見えていない。
同情を買って、リヴィとの婚約話をなんとか断ろうと画策中だった。
「ミルヒーナが魔法を使えないからと言って恥じることはない。お前のそばにはたくさんの魔法が使える者がいる。いくらでもお前のために支えてくれるだろう」
「お父様……ありがとう……わたくしは強い魔力を持った子供を産むためだけの人生なんて嫌なの……出来れば愛する人と結婚したい」
「もちろんだ、だからこそリヴィがいいんじゃないか?今までは幼馴染のリヴィは優秀な魔法使いで、ミルにとっては劣等感があるからと婚約者として選ばなかった……だがミルはリヴィを愛しているのだろう?」
「は、はああああ?わたしが?いつ?誰が言ったの?ねえ、お父様??」
ミルヒーナはあまりの驚きにマックの襟首を掴んで全身を揺らしながら叫んでいた。
ミルヒーナは実は少しだけなら魔法が使える。誰にも教えてはいないことだけど。
何故ならミルヒーナが唯一使える魔法が、【譲渡】だから。魔力を他人に与えることができる。
もし知られれば悪用されかねない。
自分が魔法を使えると知った時に、あまりの驚きにまず書庫へ行って、自分の魔法について調べてみた。
【譲渡】は稀な魔法で、この魔法が使えた者は王家と神殿に報告され、いずれは戦で利用される運命なのだと書かれていた。
戦で魔力が減り戦えなくなった者達に魔力を補給する。
それが【譲渡】を使える魔法使いの仕事。
常に戦場に身を置き、敵からも命を狙われ、味方からは魔力を永遠に奪われる。
譲渡が続けば自分の魔力が枯渇し、最後は自分の命も危ぶまれる。
そのことを知ったミルヒーナは誰にも言わないと決めた。たとえ両親であっても。
幼い頃、生まれたばかりの弟のガトラの魔力があまりにも少ないことに気がついていたミルヒーナ。ミルヒーナは相手の体に触れるだけでその人の魔力量がわかる。
これも大人にはずっと内緒にしていた。変な子だと思われたくなくて。
ーーこのままではガトラもわたしみたいに将来魔法を使えないかも
心配でたまらないミルヒーナは手を握り神様に祈った。
ーーわたしみたいに魔法が使えない辛い思いはさせたくないの
するとガトラの体がふわっと光だし……やがてその光が消えた。
するとガトラからたくさんの魔力を感じるようになった。
子供ながらにその真実を話しても誰も信じてくれないだろうと思い、まずは調べてみた。そして、黙っていることにしたのだった。
喘息がひどく体の弱い弟のために領地で暮らすことになり、祖母にだけこっそり自分の魔法を相談したことがあった。
両親はミルヒーナが魔法が使えなくても差別したり虐げたりすることはない。愛情いっぱいでとても優しい両親。
だけどもしミルヒーナの特殊な魔法の力を知ったら喜んではくれるだろうけど、魔法学校へ行くことをまた勧められてしまう。
ミルヒーナは譲渡と魔力量を見ることしかできない自分が魔法学校へ通っても、みんなについていけないことは、身をもってわかっていた。
学校で何度も友達に馬鹿にされ揶揄われてきた。
物を浮かせたり、火や風を起こすことはできない。攻撃魔法や防御魔法もできない。
勉強だけなら誰にも負けない。だけど、魔法の技術はどんなに努力しても上がることはなかった。
ーーわたしだって隠れて魔法の練習したんだよね。カッコよく魔法が使えたらいいなと何度思ったか。
リヴィがいつも『ミルは努力が足りないんじゃない?』『頑張りなよ』『なんでできないの?』と言ってくることが苦痛になってきた。
ーー頑張ってもできないことだってあるの。
そう思ってリヴィに言い返したこともある。
だけど、リヴィは魔法が得意だから、できないミルヒーナの気持ちがわからなかった。
頑張ればできるはず、ミルヒーナは『全く頑張ろうとしない』と責められて、さらに自信をなくしてしまった。
祖母は魔法が得意ではない。多分自分は祖母の血を受け継いだのだと思う。だから祖母にだけは自分の魔法のことを打ち明けることができた。
『その力は間違えれば悪用されかねない。今はまだ隠していた方がいいかもしれないわね、ミルが魔法が使えないと人に馬鹿にされても耐えられるのなら』
祖母の言葉に『うん、だって今までもたくさん酷いこと言われたもの。もう慣れっこよ?』
笑ってそう言ったけど、内心は傷ついていた。特に一番仲の良いリヴィから『なんでできないの?』と言われるたびに『頑張ってるわ』と言い返した。
『はあぁーー』
リヴィがわたしを見ながら溜息を吐き呆れる顔が頭から離れない。
だからこそ、リヴィとの婚約だけは絶対嫌だった。
「何をだい?」
ピクリと片眉を少し吊り上げた父のマック。
「魔法が使えない魔力だけが多いわたくしは、子を産むためだけに嫁に欲しいと思われていることをご存知ないの?」
「…………誰がそんなことを?」
だんだん不機嫌な顔になっていくマック。
「ある集まりの場所で、そこにいた男の子にそう言われたわ。そんなことを知らなかったわたくしが無知だったの……魔力だけならたくさんあるのに魔法が使えない。そんなわたくしでも努力すれば少しは魔法も使えるかもしれない」
顔を俯き悲しそうな声でミルヒーナは語り始めた。
実は下を向いてニヤッと笑っていたのだが、マックには見えていない。
同情を買って、リヴィとの婚約話をなんとか断ろうと画策中だった。
「ミルヒーナが魔法を使えないからと言って恥じることはない。お前のそばにはたくさんの魔法が使える者がいる。いくらでもお前のために支えてくれるだろう」
「お父様……ありがとう……わたくしは強い魔力を持った子供を産むためだけの人生なんて嫌なの……出来れば愛する人と結婚したい」
「もちろんだ、だからこそリヴィがいいんじゃないか?今までは幼馴染のリヴィは優秀な魔法使いで、ミルにとっては劣等感があるからと婚約者として選ばなかった……だがミルはリヴィを愛しているのだろう?」
「は、はああああ?わたしが?いつ?誰が言ったの?ねえ、お父様??」
ミルヒーナはあまりの驚きにマックの襟首を掴んで全身を揺らしながら叫んでいた。
ミルヒーナは実は少しだけなら魔法が使える。誰にも教えてはいないことだけど。
何故ならミルヒーナが唯一使える魔法が、【譲渡】だから。魔力を他人に与えることができる。
もし知られれば悪用されかねない。
自分が魔法を使えると知った時に、あまりの驚きにまず書庫へ行って、自分の魔法について調べてみた。
【譲渡】は稀な魔法で、この魔法が使えた者は王家と神殿に報告され、いずれは戦で利用される運命なのだと書かれていた。
戦で魔力が減り戦えなくなった者達に魔力を補給する。
それが【譲渡】を使える魔法使いの仕事。
常に戦場に身を置き、敵からも命を狙われ、味方からは魔力を永遠に奪われる。
譲渡が続けば自分の魔力が枯渇し、最後は自分の命も危ぶまれる。
そのことを知ったミルヒーナは誰にも言わないと決めた。たとえ両親であっても。
幼い頃、生まれたばかりの弟のガトラの魔力があまりにも少ないことに気がついていたミルヒーナ。ミルヒーナは相手の体に触れるだけでその人の魔力量がわかる。
これも大人にはずっと内緒にしていた。変な子だと思われたくなくて。
ーーこのままではガトラもわたしみたいに将来魔法を使えないかも
心配でたまらないミルヒーナは手を握り神様に祈った。
ーーわたしみたいに魔法が使えない辛い思いはさせたくないの
するとガトラの体がふわっと光だし……やがてその光が消えた。
するとガトラからたくさんの魔力を感じるようになった。
子供ながらにその真実を話しても誰も信じてくれないだろうと思い、まずは調べてみた。そして、黙っていることにしたのだった。
喘息がひどく体の弱い弟のために領地で暮らすことになり、祖母にだけこっそり自分の魔法を相談したことがあった。
両親はミルヒーナが魔法が使えなくても差別したり虐げたりすることはない。愛情いっぱいでとても優しい両親。
だけどもしミルヒーナの特殊な魔法の力を知ったら喜んではくれるだろうけど、魔法学校へ行くことをまた勧められてしまう。
ミルヒーナは譲渡と魔力量を見ることしかできない自分が魔法学校へ通っても、みんなについていけないことは、身をもってわかっていた。
学校で何度も友達に馬鹿にされ揶揄われてきた。
物を浮かせたり、火や風を起こすことはできない。攻撃魔法や防御魔法もできない。
勉強だけなら誰にも負けない。だけど、魔法の技術はどんなに努力しても上がることはなかった。
ーーわたしだって隠れて魔法の練習したんだよね。カッコよく魔法が使えたらいいなと何度思ったか。
リヴィがいつも『ミルは努力が足りないんじゃない?』『頑張りなよ』『なんでできないの?』と言ってくることが苦痛になってきた。
ーー頑張ってもできないことだってあるの。
そう思ってリヴィに言い返したこともある。
だけど、リヴィは魔法が得意だから、できないミルヒーナの気持ちがわからなかった。
頑張ればできるはず、ミルヒーナは『全く頑張ろうとしない』と責められて、さらに自信をなくしてしまった。
祖母は魔法が得意ではない。多分自分は祖母の血を受け継いだのだと思う。だから祖母にだけは自分の魔法のことを打ち明けることができた。
『その力は間違えれば悪用されかねない。今はまだ隠していた方がいいかもしれないわね、ミルが魔法が使えないと人に馬鹿にされても耐えられるのなら』
祖母の言葉に『うん、だって今までもたくさん酷いこと言われたもの。もう慣れっこよ?』
笑ってそう言ったけど、内心は傷ついていた。特に一番仲の良いリヴィから『なんでできないの?』と言われるたびに『頑張ってるわ』と言い返した。
『はあぁーー』
リヴィがわたしを見ながら溜息を吐き呆れる顔が頭から離れない。
だからこそ、リヴィとの婚約だけは絶対嫌だった。
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