【完結】わたしが嫌いな幼馴染の執着から逃げたい。

たろ

文字の大きさ
46 / 50

やっぱり幼馴染なんだから。

しおりを挟む
「ええ、言われなくても帰るわ!」

 ミルヒーナは追い出すように言われてムッとした。

「このお菓子、お見舞いだから食べてちょうだい!今すぐに食べられなくても日持ちするものだから!」

 扉に向かって帰ろうとしたけど……足を止めて振り返りズカズカとリヴィのベッドにもう一度戻った。

 リヴィの手に自分の手を重ねて置くこと数分。

「じゃあ、帰るわね?」

 ミルヒーナはリヴィに「明日もお見舞いに来てあげるわ。次はリヴィ、わたしがパイを焼いてきてあげるわね」と言って手を振り帰って行った。


 リヴィは黙ったままベッドから起き上がった。さっきまで真っ青だった顔も赤みがさし始めた。

 意識すら朦朧となっていて話すのもキツい状態だったのに今はなんともない。
 ただ火傷がズキズキと痛むだけだった。

「ミル、あいつわかってたんだ」

 魔力が欠乏して火傷すら治せない状態だったことも、もうまともに動けなくなっていることも知っていた。

(俺が気を遣わないようにわざとあんな言い方をしたんだ。明日もまた会える……)

 リヴィは自分でも諦めが悪いとわかっていた。だけど長年の想いは簡単には消えない。ずっとミルヒーナが好きで好き過ぎて拗らせてきた。マルシアのことはあったけど、あんなの恋愛じゃない。無理やり恋人役をさせられただけで好きではなかった。

(明日は素直にお礼を言おう)

 部屋にいたメイドが「お見舞いのお菓子はどうしましょうか?」と聞くので「一つ食べたい」と答えた。

 皿に出されたお菓子は幼い頃二人でよく食べていたフィナンシェだった。

「…………美味しい」

 懐かしい味、幸せだった時間。思い出されるのは二人でいつも笑い合っていた事。

 それを全てダメにしたのは自分だった。もうすぐこの国からいなくなるミルヒーナのことを考えると胸が苦しくてせっかく魔力を分けてくれたのに、元気が出ない。

 甘いお菓子のフィナンシェは何故かしょっぱくて塩辛い。

「くそっ、この歳になって泣くなんて……」

 メイドは下がらせて一人になっているからよかったものの、恥ずかしくてこんな姿、人には見せられない。

「あーー、俺ってほんと馬鹿だよな。こんなにミルのことが大好きなのに……今更どうすることもできない、助けたつもりが最後は助けられるなんて格好悪いよ」

 涙が止まらない。悔しくて自分が情けなくて……








 次の日ミルヒーナはもう一度お見舞いにやってきた。
 もうベッドから起き上がり動くこともできたがミルヒーナが来るのでベッドの中で待っていた。

(まだ火傷は治っていないし、一応病人だからな)
 そう言い訳をして。

「あら?顔色がよくなったみたいね?」

「ああ、ミル、ありがとう。昨日の君の【譲渡】のおかげで助かったよ」

「わたしの方こそ守ってくれていたんでしょう?シエロが教えてくれたの。シエロ達使用人は、リヴィのところの使用人と仲がいいみたいなの。あなたが内緒にしていてもしっかり情報は入ってくるのよ?」

 ミルヒーナはクスクス笑いながら屈託のない笑顔をリヴィに向けた。

 そしてすぐに【譲渡】の魔法をもう一度リヴィにかけると、リヴィの魔力は完全に満たされて顔色も体調もほとんど元に戻った。

 火傷くらいならすぐに自分で治癒できる状態になって「ありがとう」とお礼を言った。

(何年ぶりだろう?ミルが俺に笑いかけるのは……どんなにこの笑顔を見たかったか……)

「俺、みっともない。カッコつけてミルを陰から守ってきたつもりなのに最後はミルに助けられて……かっこ悪すぎだよな」

「リヴィはずっとかっこいいよ。魔法が上手で頑張り屋でみんなに優しくて……まぁわたしにだけは意地悪だったけど?いつも女の子達に囲まれて……男の子達にも慕われていたわ。わたしにはない憧れの世界で生きていた人だと思うわ………わたしも意地ばかり張って素直じゃなかった。
 リヴィ、守ってくれてありがとう。そしてごめんなさい……今頃素直になっても遅すぎたけど、あなたもオリソン国にはたくさんの知人が出来たと思うの。だから遊びに来てちょうだい。待っているわ」

「いいのか?会いに行っても?」

「もちろんよ。ギルさんはとても喜ぶと思うわ。わたし向こうに住んだらルイスと一緒に仕事を始めるつもりなの」

「………ルイスと?」

「ええ、ガトラが商売に興味があるらしくてルイスやお父様が協力して立ち上げることになったの。
 魔道具って魔力がなければ使えないけど、そこに貯めて魔道具を使えば魔法のない国でも魔道具を使えると思うの。友達の魔道具師が今魔力を貯めた石を使う魔道具を開発しているの」

「魔力を貯めた石?」

「石を使えば魔力を貯められるの。魔道具と魔法石を売るつもりなの」

「そんなことができるのか?」

「うん、わたしが魔法の練習をしている時に使用人達が手伝ってくれたの。
 その時に魔力を他人に【譲渡】できないかみんな練習したのだけどやっぱり無理で、じゃあ、庭にあった石にしてみようと言うことになってやってみたら偶然出来たの!でも石ならなんでもいいと言うわけではなかったみたい。
 庭にあった石の中の煙水晶……スモーキークォーツという茶色や黒っぽい煙がかったような色の石にしか魔力が込められなかったの」

「ふうん、その石はどうやって取るの?」

「うーん、それは川で、なんかよくわかんないんだけどガマっていう穴が空いているのを探して根気よく見つけるんだって」

「それは大変な仕事だな」

「うん、だけど平民の人にとっては仕事になるから有難いと言われたわ。いろんな鉱物が取れるらしいの、それを高額で買ってくれるなら喜んで仕事をすると言ってくれているわ」

「そうか、これから大変だけどやりがいのある仕事を見つけたんだ」

「これはリヴィの家との共同事業のおかげだよ。仕事の楽しさを教わったんだもの」

「ミルは俺と結婚している時もずっと事業の手伝いをしてくれていたもんな」

「とても楽しいわ。オリソン国は特に男とか女とか平民とか貴族とかあまり拘らないで能力があれば認めてもらえる国でしょう?魔法が使えなくても生きていけるわ。だけどみんなに守ってもらうばかりの生活より自分の身は自分で守れるようになりたい。
 だから向こうへ行ったら魔法も頑張るけど、体術とかも頑張るつもり」

「俺、会いに行くよ。ミルの新しい世界を見てみたい」

「うん、ぜひ、会いに来て。わたし……後悔していたの。
 あんな別れ方をしてしまって……リヴィとはずっとずっと一緒だと幼い頃約束したのに、もう二度と話すこともない関係になってしまって……今更だけど……もう一度幼馴染に戻りたい」

「俺は……ずっとミルが好きで間違った態度しか取れなかった。もう一度ミルと幼馴染から始めたい。
 ………そして、いつかミルにもう一度……」

(俺にチャンスが欲しい)

 だけどその言葉は飲み込んだ。これだけ片思いし続けてきた。あと数年片思いしてもいいんじゃないか?

 リヴィは心の中で開き直ることにした。ミルにとことん嫌われてどん底まで落ちたんだからもう落ちようがない。

 だったらもう一回頑張って今度フラれたら諦めよう。それまでにミルヒーナに認められる男になると決めた。




 









しおりを挟む
感想 156

あなたにおすすめの小説

【完結】旦那様、わたくし家出します。

さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。 溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。 名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。 名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。 登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*) 第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。

音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。 王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。 貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。 だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです ※表紙 AIアプリ作成

処理中です...