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「あ、あの……」
ファナは戸惑っていた。
いつも静かに裏庭の誰もいないベンチで食事をとるか、温室の中で植物たちの世話をしながら一人静かに食べていた。
なのに……最近は……
裏庭のベンチには、あの女子生徒二人がファナを挟んで座って一緒に昼食を食べている。
「ファナ様のサンドイッチは美味しそうではありますが……なぜ一つはジャムのみで、もう一つはレタスとハムしか入っていないのですか?」
「わたしもそう思います。もう少し中身も考えてもらうように料理人に頼んだほうがいいのでは?」
ファナのサンドイッチはいつもシンプルだ。二人の令嬢、共に伯爵令嬢のミレイユとヴィオラはファナと昼食をとろうと、同じく弁当を持参するようになったが、中身はかなり手が込んだ豪華なものだった。
「………これは、料理の苦手なロリーが作ってくれるのです。とても愛情がこもっていてわたしはいつも感謝しています」
「ロリー?」
「はい、わたし付きのメイドです。幼い頃から共に過ごしております」
ーー姉のような存在なんです。
でもこの言葉は貴族令嬢には言えない。
その言葉は、貴族には受け入れてもらえないことを理解している。
使用人を友人や姉のように思うなどあってはならない。
使用人は使用人でしかない。
「わたしが、食堂で食べるのがどうしても苦手だと知ってこっそり作ってくれるのです。正式に料理人にお弁当を作るように頼むことも出来るのですが……いろいろとありまして……」
なんとなく言葉を濁すファナに二人はそれ以上、何も訊かないでいてくれた。
リリアンが弁当を作ってもらっていると知れば、屋敷で大騒ぎをするだろう。
父に聞かれれば何か学校で問題があるのかと問い質されてしまうし、また大した話でもないのに学校で大袈裟に話をされてしまう。
そしてファナはまた悪者にされる。
ファナは気づいていない。
彼女がロリーのことを、どんな顔をして話しているのか。
嬉しそうに、でも照れくさそうに、まるで大切な人のことを想っているかのようにファナはロリーのことを話す。
二人はお互い顔を見合わせ、ファナへ優しく微笑む。
「ファナ様は、そのロリーさんを大切に想っているのですね」
「………はい」
素直にこくんと頷いた。認めてはいけない。分かってはいたけど、この二人の前なら……多分大丈夫だと思った。
「でも、少しは栄養も考えなければ。その細すぎる身体、そんな身体では結婚しても子供を身籠ることも出来ませんわ」
「そうね、元気な子供を産むことはできないわ。あなた自身も身体が弱ってしまいそうだわ」
貴族令嬢にとって最も大切なのは、優秀な子孫を残すことだ。
ファナは次期当主としての勉強と、子孫を残すという義務を課せられていた。
「………ええ、屋敷ではしっかり食事をとっておりますので、昼間はこれくらいで十分なんです」
ーーあと少し……卒業資格さえ取れれば、侯爵家から出て薬師として仕事ができる。
まだ、一人では料理も掃除もできないけど、平民になれば……
「ハア……わかったわ。はい、これ」
ミレイユはファナのサンドイッチを包んでいたナプキンの上に自分のお弁当のおかずを一つ乗せた。
「あら、わたしからはこれを」
ヴィオラも一つ。
「じゃあわたしはこれを」
「あ、あの……」
「「いいから、お食べなさい!」」
「ふふっ。ありがとうございます」
二人に強く言われ困った顔をしながらもファナは嬉しそうに食べた。
食が細くたくさん食べられないファナだが、不思議と二人といるといつもよりも多めに食べることができた。
初めは二人がファナのところへやってくるのが不思議で、どうしていいのかわからず警戒していた。
でも今は二人があまりにも優しくて心が安らぐ存在になっていることに、自分自身が戸惑いを隠せないでいた。
図書委員のみんなとの会話も楽しい。だけど、この二人にはつい心の中の隠している本音を言葉にしそうになる。
もうすぐここからいなくなることも。
父からのプレッシャーにこれ以上耐え続けることができなくて、逃げ出そうとしていることを。
だけどそれを口にすれば秘密を共有することになる。もし二人が問い質されれば、伯爵令嬢の二人が侯爵家に逆らうことなどできない。
全てを話さなければいけなくなる。
わたしは消えたあとなのでバラされてもいい。でも二人は?
侯爵家にどんなことをされるか……
ファナは友達になってくれた二人と適度に距離を置かなければ……
そう思っているのに………
「ファナ様?どうなさったの?」
「あなたって頭が良いのにほんと不器用ね。ほら、リボンが綺麗に結べていないわよ」
ミレイユが制服の襟のところに結ばれたリボンの結び目を解いて綺麗に結び直してくれた。
「ありがとう」
「そろそろ図書室に行くのでしょう?」
「わたし達も今日もご一緒させてもらうわ。読みかけの本もあと少しで終わりそうなの」
「ファナ様のおかげで本が面白いことに気がついたのよ」
「わたしも!本なんて教科書と何が違うのって思っていたけど、読んでみるとついその話の世界に入り込んでしまうわ」
ファナはあと少しだけ、今だけは……この二人と過ごしたいと願わずにいられなかった。
ファナは戸惑っていた。
いつも静かに裏庭の誰もいないベンチで食事をとるか、温室の中で植物たちの世話をしながら一人静かに食べていた。
なのに……最近は……
裏庭のベンチには、あの女子生徒二人がファナを挟んで座って一緒に昼食を食べている。
「ファナ様のサンドイッチは美味しそうではありますが……なぜ一つはジャムのみで、もう一つはレタスとハムしか入っていないのですか?」
「わたしもそう思います。もう少し中身も考えてもらうように料理人に頼んだほうがいいのでは?」
ファナのサンドイッチはいつもシンプルだ。二人の令嬢、共に伯爵令嬢のミレイユとヴィオラはファナと昼食をとろうと、同じく弁当を持参するようになったが、中身はかなり手が込んだ豪華なものだった。
「………これは、料理の苦手なロリーが作ってくれるのです。とても愛情がこもっていてわたしはいつも感謝しています」
「ロリー?」
「はい、わたし付きのメイドです。幼い頃から共に過ごしております」
ーー姉のような存在なんです。
でもこの言葉は貴族令嬢には言えない。
その言葉は、貴族には受け入れてもらえないことを理解している。
使用人を友人や姉のように思うなどあってはならない。
使用人は使用人でしかない。
「わたしが、食堂で食べるのがどうしても苦手だと知ってこっそり作ってくれるのです。正式に料理人にお弁当を作るように頼むことも出来るのですが……いろいろとありまして……」
なんとなく言葉を濁すファナに二人はそれ以上、何も訊かないでいてくれた。
リリアンが弁当を作ってもらっていると知れば、屋敷で大騒ぎをするだろう。
父に聞かれれば何か学校で問題があるのかと問い質されてしまうし、また大した話でもないのに学校で大袈裟に話をされてしまう。
そしてファナはまた悪者にされる。
ファナは気づいていない。
彼女がロリーのことを、どんな顔をして話しているのか。
嬉しそうに、でも照れくさそうに、まるで大切な人のことを想っているかのようにファナはロリーのことを話す。
二人はお互い顔を見合わせ、ファナへ優しく微笑む。
「ファナ様は、そのロリーさんを大切に想っているのですね」
「………はい」
素直にこくんと頷いた。認めてはいけない。分かってはいたけど、この二人の前なら……多分大丈夫だと思った。
「でも、少しは栄養も考えなければ。その細すぎる身体、そんな身体では結婚しても子供を身籠ることも出来ませんわ」
「そうね、元気な子供を産むことはできないわ。あなた自身も身体が弱ってしまいそうだわ」
貴族令嬢にとって最も大切なのは、優秀な子孫を残すことだ。
ファナは次期当主としての勉強と、子孫を残すという義務を課せられていた。
「………ええ、屋敷ではしっかり食事をとっておりますので、昼間はこれくらいで十分なんです」
ーーあと少し……卒業資格さえ取れれば、侯爵家から出て薬師として仕事ができる。
まだ、一人では料理も掃除もできないけど、平民になれば……
「ハア……わかったわ。はい、これ」
ミレイユはファナのサンドイッチを包んでいたナプキンの上に自分のお弁当のおかずを一つ乗せた。
「あら、わたしからはこれを」
ヴィオラも一つ。
「じゃあわたしはこれを」
「あ、あの……」
「「いいから、お食べなさい!」」
「ふふっ。ありがとうございます」
二人に強く言われ困った顔をしながらもファナは嬉しそうに食べた。
食が細くたくさん食べられないファナだが、不思議と二人といるといつもよりも多めに食べることができた。
初めは二人がファナのところへやってくるのが不思議で、どうしていいのかわからず警戒していた。
でも今は二人があまりにも優しくて心が安らぐ存在になっていることに、自分自身が戸惑いを隠せないでいた。
図書委員のみんなとの会話も楽しい。だけど、この二人にはつい心の中の隠している本音を言葉にしそうになる。
もうすぐここからいなくなることも。
父からのプレッシャーにこれ以上耐え続けることができなくて、逃げ出そうとしていることを。
だけどそれを口にすれば秘密を共有することになる。もし二人が問い質されれば、伯爵令嬢の二人が侯爵家に逆らうことなどできない。
全てを話さなければいけなくなる。
わたしは消えたあとなのでバラされてもいい。でも二人は?
侯爵家にどんなことをされるか……
ファナは友達になってくれた二人と適度に距離を置かなければ……
そう思っているのに………
「ファナ様?どうなさったの?」
「あなたって頭が良いのにほんと不器用ね。ほら、リボンが綺麗に結べていないわよ」
ミレイユが制服の襟のところに結ばれたリボンの結び目を解いて綺麗に結び直してくれた。
「ありがとう」
「そろそろ図書室に行くのでしょう?」
「わたし達も今日もご一緒させてもらうわ。読みかけの本もあと少しで終わりそうなの」
「ファナ様のおかげで本が面白いことに気がついたのよ」
「わたしも!本なんて教科書と何が違うのって思っていたけど、読んでみるとついその話の世界に入り込んでしまうわ」
ファナはあと少しだけ、今だけは……この二人と過ごしたいと願わずにいられなかった。
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