【完結】大好きな幼馴染には愛している人がいるようです。だからわたしは頑張って仕事に生きようと思います。

たろ

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6話。

 ジャックさんは人見知りのわたしのことなんかお構いなしで、ずっと話しかけてくる。

 警備隊ではこんなことをしている、だの。
 ーーーちょっと知らない情報で思わず聞き入ってしまった。

 ロードはとにかく女にモテる、だの。
 ーーーそんなのわたしが一番知ってます!幼馴染なんだもの。

 黙って聞いていると画材屋さんの店の前に着いた。「あっ、ここです。じゃあ、ありがとうございました」とお礼を言って店の中に入ろうとした。

「えっ?俺ももちろん店の中に入るよ!」ニコニコ笑いながら一緒に店内に入った。



 なんとも言えない、つーんとした絵の具の匂いがした。

 この画材屋さんにはお試し用で置いてある絵の具がある。そして壁にはいくつかの絵画も売られている。そこからの匂い。

 この独特の雰囲気と匂いが好きでつい通ってしまう。

 静かな空間で一人絵の具を手に取りじっくりと色を選んでいく。
 たかが絵本。だけどちょっとした色選びで、絵の印象は変わってしまう。

 キャンバスに描く絵とは違う。
 わたしの場合は安い紙に描く水彩画なので失敗したらなかなか修正が難しい。書き直すにも紙と絵の具代がちょっと懐を直撃する。

 うん……かなりのダメージが………

 だから貧乏なわたしは絵の具選びも真剣だ。

 出来るだけはっきりした色の方が、子供には食いつきがいいみたい。坊っちゃまのキラキラした目、嬉しそうな顔を想像しながら色選びをしていた。

 ……うん、完全にジャックさんの存在を忘れていた。


「……………リ…ちゃ……………てる?」

「へっ⁇」

 頭の上の方で誰かがわたしを呼んだので慌てて上の方に顔を上げた。

「………っあ…ご、ご、ごめんなさいっ!」

 ーーー忘れてた、ジャックさんも居たんだった。ど、どうしよう……存在すら忘れてた。

 動揺して目を白黒させていたら、「ぶはっ‼︎」とまた笑い出した。

「もしかして俺の存在忘れてた?」
 クククッと笑いながらジャックさんが愉しそうに言うので、少しホッとしながら答えた。

「絵の具選びに夢中になってました」
 素直に事実を伝える。

「俺って結構モテてるつもりだったんだけど、ダリアちゃんって全く興味ないよね?」

 ーーーうん、ありません。
 だけどそう言われてジャックさんのことをまじまじと見てみたら、確かにーーー

 背が高くて短髪で爽やかな人。優しく笑うので近くにいても怖くない。

 そう思っていたら……

「うん、君の俺を見る目は、多分俺自身の顔には興味がなさそう」

「……そ、そんなことは……」

 ーーーあるかな?顔は……確かにロードとはまた違う綺麗な顔立ちの人だわ。

「俺、ダリアちゃん気に入ったよ。ロードの奴なんでこんな可愛い恋人を放ったらかしにしてるんだ?」

「………ロードは悪くない……わたしが彼に似合わなすぎるから……」

「違うよ。ダリアちゃんは優しいよ。俺実は声かける前に見てたんだ。ハンカチを落としたおばあちゃんを追いかけて渡してあげてたし、転びそうになった子供を慌てて助けて自分が転んでいただろう?」

「あ、あの、転んだところ見てたんですかっ?」

 恥ずかしすぎる……助けたはいいけど思いっきり自分が転んで……実は今もスカートの中の膝がたぶん、傷になってるんだよね。

 屋敷に帰ったら傷の手当てするつもりではいるんだけど……

 思わず目線を膝にチラッと動かしていたのを見たジャックさんが「もしかして怪我してるの?我慢してたの?」わたしのスカートをめくろうとした。

「きゃっ」

「あっ、ごめん。他意はない。ちょっとそこにある椅子に座って見せて」

 絵の具のお試しのために置いてあるテーブルと椅子のところに連れて行かれた。

 ジャックさんがお店の人に頼んで大きめのタオルと女性の店員さんを呼んできた。

 タオルをスカートに被せて長いスカートの中を他の人には見えないようにそっと上げて膝を見せた。
 ーーーこんな姿を男の人に見せるなんて……

 いくら地味で可愛くないと言われていても恥ずかしい。

 そう思ったら、ジャックさんは傷だけサッと見てすぐに目線を逸らしてくれた。

「酷い怪我してるじゃないか!」

「ほんと、血が固まってるけどこれは痛いでしょう」
 女性の店員さんも怪我を見て呆れていた。

「あっ、あの、帰ったら治療するつもりなので大丈夫です」

「待っててください。傷薬と包帯持ってきますから!そして男性は向こうへ行っててください!」

「俺は傷を一瞬見ただけで何も見てないですよ!」ジャックさんが焦って言い訳をしているのを見て気の毒になってしまった。

「はい、ジャックさんは傷の確認しかしていません」
 そうタオルで膝のところを隠していたので、スカートを上げていても一瞬しか見ていない。

「ダリアちゃん、店の人に傷の手当てをしてもらって!俺向こうで待ってるから!」

 結局お店の人にご迷惑をかけてしまった。

 お礼に買う予定になかった絵の具まで買ってお店を出た。

「ジャックさんありがとうございました。包帯と傷薬を買ってきてくれていたんでしょう?治療してくれたお店の店員さんが言ってました」

「あーー、言わないでと頼んだのにバラしたのか……あれだけ派手に転んでいたからね。それに痛くてしばらく動けなかっただろう?」

「しっかり見られてたんですね」

「俺たちは街の警備隊の仕事をしてるから職業病だよ。つい人のことを見てしまう、君のことも、ロードの彼女がいるな、くらいで遠くから見てたんだ。そしたらおばあちゃんを追いかけたり子供を助けたようとして転んだり、最後には女の子たちに絡まれて嫌味を言われてただろう?」

「………そうですね」
 

「それなのに『みんな何か言ってくるけど暇なのね』発言だろう?落ち込んで泣いてるかと思ったらへこたれてないから、もう興味が先でつい話しかけてしまったんだ」

「……はあ……」

「で、隣で歩いてたら足を引きずってたから、怪我してるなと思って」

「引きずってました?」
 平気な顔していたつもりなのに。

「うん、普通に歩いていたつもりだった?」

「……うっ、はい」

 ジャックさんは「帰るなら送ろう」と言って待っていた馬車に乗せてくれた。

 ジャックさんってお金持ちみたい。自分の家の馬車があるのは平民でもお金持ちの家くらいだもの、わたしは普段歩きか乗合の馬車に乗るだけだもの。

 それとも貴族とか?街の警備隊でも王立騎士団から警備隊に数人配属されているとロードが言ってたな。

 ロードのことは考えないようにしたいのに、目の前にいるジャックさんのせいなのか、つい思い出してしまう。そしてその度に胸がチクチクと痛む。
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