【完結】大好きな幼馴染には愛している人がいるようです。だからわたしは頑張って仕事に生きようと思います。

たろ

文字の大きさ
8 / 60

8話。

 部屋に戻ると急いで机に絵の具を並べた。

 予定より多めの絵の具。

 これだけあれば坊っちゃまが喜んでくれるだろう。

 4歳になる坊っちゃまにあげようと思っているのは、お父さんと息子が冒険に出る話。

 本当は優しいお母さんの話を書こうと思ったけどまだお母さんが恋しいであろう坊っちゃまにはまだ早いかなと思った。
 わたしは両親がいない。おばあちゃんが内職をしながら育ててくれた。

 いつもおばあちゃんがお話をしてくれた。そこには作り話の優しいお母さんやお父さんの話がたくさんあった。もちろん全て想像でしかないけど、聞くのがとても楽しみだった。

 だけどみんなが両親と仲良くしている姿を見ると悲しくて寂しくなった。そんな時はおばあちゃんの体にくっついて顔を埋めて甘えた。

 ロードは寂しそうにしているとわたしの手を黙っていつも握ってくれていた。そしてロードのお母さんが「ダリアいらっしゃい」と言って両手を差し出してわたしを抱きしめてくれた。

 おかげでわたしは寂しかったけど、愛情だけはたくさんもらって育ったと思う。人見知りが激しくて慣れるのに時間はかかるけど仲良くなれば話すのも平気だし、今の職場はおじちゃんやおばちゃんの年齢の人が多いのでとても気楽に働ける。若い先輩達もみんな優しい。

 坊っちゃまのお父様は忙しいし、お母様は亡くなっているけど、優しい使用人に恵まれているからいつもニコニコしている。

 だけどやっぱりまだ幼いのでお母さんを思い出す話は書けない……だから大好きなお父様と冒険に出る話を書いた。
 あとは絵に色を塗るだけ。

 そして明日は朝早く起きて、りんごで作った天然酵母で時間をかけて発酵させたパンを焼く予定。料理長さんたちが途中は様子を見てくれている。

 うん、とても助かってます……感謝!

 さっきのロードの様子はとても気になるけど、今は坊っちゃまのこと。


 夢中で作業をした。なんとか仕上がって乾かすためにベッドに絵を広げて置いた。
 その間わたしは夕食を取るために、使用人たちの食堂へ向かった。

「お腹空いた」

 トレーに料理を乗せて席についた。

「ダリア、絵本は完成したの?」

 先輩が話しかけてきた。

「あと乾かして文字を入れて、纏めれば終わりです」

「あんまり遅くまで起きてたら明日起きれないわよ」

「そうなんですけど……ついあともう少しあともう少し、と思うと手が止まらなくて……」

「ダリアの絵本は完成度が高いものね。坊っちゃまはいつもとても楽しみにしているわ。毎回こんなお話だったってみんなに説明してくれるのよ」

「ほんとですか?そう言ってもらえると嬉しいです」

「あっ、ところで今日ダリアの彼氏が訪ねてきていたわよ。なんだか思い詰めているように見えたわ」

 ーーーわたしと別れ話するのに緊張してたのかしら?

「そうですか……」

「………彼…警備隊の騎士だったわよね?」

「はい、そうです」

「…………言っていいのかわからないけど……何度か買い物の時に見てしまったの。とても綺麗な女性と街を歩いているところ……ダリア、大丈夫?騙されていない?」

 ーーーうん、カリナさんと歩いている姿、わたしも何度か見ています。

 だけどそんなこと答えるのは惨めだから、「大丈夫…ですよ?」と答えた。

 笑っていたつもりだったけど、先輩がちょっと眉を顰めたので笑えてなかったかもしれない。

 なんだかちょっと惨めだけど、付き合ってるんじゃなくて付き合ってもらってる立場としてはロードが何をしようと何も言えない。

「何か相談したいことがあったらいつでも聞くわ。そんな顔しないの」

 先輩はそう言ってわたしの頭をポンっと優しく叩いた。その手がなんともあったかくて気がついたら泣いてしまっていた。

「ぐすっ……失恋したら……ケーキ食べたいです」

「了解、そんなことにはならないように祈ってるわ」




感想 168

あなたにおすすめの小説

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

いつも隣にいる

はなおくら
恋愛
心の感情を出すのが苦手なリチアには、婚約者がいた。婚約者には幼馴染がおり常にリチアの婚約者の後を追う幼馴染の姿を見ても羨ましいとは思えなかった。しかし次第に婚約者の気持ちを聞くうちに変わる自分がいたのだった。

すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…

アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。 婚約者には役目がある。 例え、私との時間が取れなくても、 例え、一人で夜会に行く事になっても、 例え、貴方が彼女を愛していても、 私は貴方を愛してる。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 女性視点、男性視点があります。  ❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

【完結】他の人が好きな人を好きになる姉に愛する夫を奪われてしまいました。

山葵
恋愛
私の愛する旦那様。私は貴方と結婚して幸せでした。 姉は「協力するよ!」と言いながら友達や私の好きな人に近づき「彼、私の事を好きだって!私も話しているうちに好きになっちゃったかも♡」と言うのです。 そんな姉が離縁され実家に戻ってきました。

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

最近彼氏の様子がおかしい!私を溺愛し大切にしてくれる幼馴染の彼氏が急に冷たくなった衝撃の理由。

佐藤 美奈
恋愛
ソフィア・フランチェスカ男爵令嬢はロナウド・オスバッカス子爵令息に結婚を申し込まれた。 幼馴染で恋人の二人は学園を卒業したら夫婦になる永遠の愛を誓う。超名門校のフォージャー学園に入学し恋愛と楽しい学園生活を送っていたが、学年が上がると愛する彼女の様子がおかしい事に気がつきました。 一緒に下校している時ロナウドにはソフィアが不安そうな顔をしているように見えて、心配そうな視線を向けて話しかけた。 ソフィアは彼を心配させないように無理に笑顔を作って、何でもないと答えますが本当は学園の経営者である理事長の娘アイリーン・クロフォード公爵令嬢に精神的に追い詰められていた。

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。