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56話
窓からさす光で目が覚めた。
ベッドで眠ることなくテーブルに顔を埋めたまま泣き疲れて眠っていた。
ひとってどんな時も眠れるしお腹も空くものなのね。
ミシェルがいつも私のことを食いしん坊だって言ってたな。
もう私に笑いかけてくれることはないけど。
あ……違うか……ミシェルの笑顔も優しい言葉もあの明るく振る舞う姿も全て偽りだったんだ。
もうどんなにあの笑顔を私に向けて欲しくても二度と向けてもらえない。
私は昨日ミシェルに出したけど手をつけることなく袋に戻していたパンを口に入れた。
少しパサついて固くなったパン。
なんだかその固さが現実だったんだと教えてくれているみたい。
水をゴクゴクっと飲んで固いパンを飲み込んだ。
いつも美味しいと思って食べていたのに、味なんてよくわからない。
顔を洗い簡単な化粧をして髪を一つにまとめて制服を着た。
どんなに嫌でも仕事はしなきゃ。
私の唯一の居場所なのだから、全て失った私に残されたのは仕事だけ。
もうこの場所を失うことはできない。
ここしかもう安心して息ができる場所はないのだから。
寮を出る時いつものように護衛でアレックス兄様が待っていた。
私はいつもの笑顔で「兄様今日もよろしくお願いいたします」と頭を下げた。
そういつものように。
職場に着くと「おはようございます」といつもの笑顔で先輩や上司に挨拶をした。
自分の席に着くとすぐに仕事を始めた。
今日は午前中まで仕事をしてその後レイモンド殿下とセリウス殿下と共に私の忘れてしまった記憶について話してもらうために、お義父様とお会いする。
なんのために?今更?
自分の出生のことなんて知る必要があるの?私が誰なのかもうどうでもいいんじゃない?
私は知らない間にお父様に守られていたの?……ふ、そんな訳ないか。
笑いが込み上げる。
お父様の愛だと思い込み、喜ぶべきなのかしら?
ミシェルにお金をちらつかせて私の友人にさせ、報告させていたことが愛情?
違うわよね?自分の言うことを聞かない娘に腹を立てて私の行動を把握して自分の思い通りにしたかったのよね?
私がどんな目に遭っていても仕方ない、と切り捨てたんだもの。
私のことを自分の思い通りになる道具としか見ていなかったのよ。あの人は。
お母様だって私のことを娘なんて思っていなかった。
彼らから愛情を受けたことがあったかしら?
あの家に私の居場所はなかった。
私は手を止めずひたすら仕事をこなした。
頭の中では違うことを考えているのに手は勝手に動く。
今回の接待の収支決算の報告書を書いているだけ。
ただ紙に数字を書くだけ。
ただ字を書くだけ。
「おい」
「………えっ?」
レイモンド殿下がわたしの手元を覗き込んで眉を顰めた。
「お前、何書いてるんだ?」
「え?報告書……ですけど」
ふと手元を見るとさっき書いた紙と同じモノをもう一度書いていたようで……
「お前、何枚同じ報告書を書くつもりだ?」
ーー確かに……
「すみません……つい……」
「昼からのことが気になるからと言って仕事をおろそかにするな」
「はい」
昼から……そうだ。お父様に会って……話を聞くんだった。
私の過去を。
レイモンド殿下に謝りつつ気持ちを切り替えて仕事をこなす。
この場所を追われればもう私の居場所はない。
昼食はセリウス殿下に誘われ、レイモンド殿下と三人で食堂に行くことにした。
王城内の食堂には高位貴族としか入れない食堂がある。
食堂と言っていいのかしら?
そこは一つ一つ個室になっていてランチとはいえコース料理が運ばれてくる。
お二人は美味しそうに舌鼓を打ちながら食べる姿は、もしここに令嬢達がいればうっとりするだろう。
とても美しいお二人の王子様が優雅に食す姿はまるで劇でも見ているようだ。
「おい、さっさと食べろ」
レイモンド殿下に言われて手が動いていなかったことに気がつく。
「いくら緊張するからと言って何も食べないと体調を崩すぞ」
ああ、緊張……そうね、緊張するのよね。
セリウス殿下はにこやかに笑い
「レインが全てを知って……もし僕についてくるなら一緒にモリス国へ帰ろう。父上も君が帰ってくるならとても喜ばれると思う」
「………はい」
一緒に?モリス国へ?
なぜ?
ああ、私にはもう何もないから……
『はとこ』なんて血が繋がっていても遠い親戚?なんじゃないの?
私なんてよく知らないのに受け入れる訳ないじゃない。
心がどんどん冷えて凍って……頑なになっていく。
私は満面の笑みで「ふふ、素敵なご提案ありがとうございます」とセリウス殿下に心にもない言葉を伝えた。
ベッドで眠ることなくテーブルに顔を埋めたまま泣き疲れて眠っていた。
ひとってどんな時も眠れるしお腹も空くものなのね。
ミシェルがいつも私のことを食いしん坊だって言ってたな。
もう私に笑いかけてくれることはないけど。
あ……違うか……ミシェルの笑顔も優しい言葉もあの明るく振る舞う姿も全て偽りだったんだ。
もうどんなにあの笑顔を私に向けて欲しくても二度と向けてもらえない。
私は昨日ミシェルに出したけど手をつけることなく袋に戻していたパンを口に入れた。
少しパサついて固くなったパン。
なんだかその固さが現実だったんだと教えてくれているみたい。
水をゴクゴクっと飲んで固いパンを飲み込んだ。
いつも美味しいと思って食べていたのに、味なんてよくわからない。
顔を洗い簡単な化粧をして髪を一つにまとめて制服を着た。
どんなに嫌でも仕事はしなきゃ。
私の唯一の居場所なのだから、全て失った私に残されたのは仕事だけ。
もうこの場所を失うことはできない。
ここしかもう安心して息ができる場所はないのだから。
寮を出る時いつものように護衛でアレックス兄様が待っていた。
私はいつもの笑顔で「兄様今日もよろしくお願いいたします」と頭を下げた。
そういつものように。
職場に着くと「おはようございます」といつもの笑顔で先輩や上司に挨拶をした。
自分の席に着くとすぐに仕事を始めた。
今日は午前中まで仕事をしてその後レイモンド殿下とセリウス殿下と共に私の忘れてしまった記憶について話してもらうために、お義父様とお会いする。
なんのために?今更?
自分の出生のことなんて知る必要があるの?私が誰なのかもうどうでもいいんじゃない?
私は知らない間にお父様に守られていたの?……ふ、そんな訳ないか。
笑いが込み上げる。
お父様の愛だと思い込み、喜ぶべきなのかしら?
ミシェルにお金をちらつかせて私の友人にさせ、報告させていたことが愛情?
違うわよね?自分の言うことを聞かない娘に腹を立てて私の行動を把握して自分の思い通りにしたかったのよね?
私がどんな目に遭っていても仕方ない、と切り捨てたんだもの。
私のことを自分の思い通りになる道具としか見ていなかったのよ。あの人は。
お母様だって私のことを娘なんて思っていなかった。
彼らから愛情を受けたことがあったかしら?
あの家に私の居場所はなかった。
私は手を止めずひたすら仕事をこなした。
頭の中では違うことを考えているのに手は勝手に動く。
今回の接待の収支決算の報告書を書いているだけ。
ただ紙に数字を書くだけ。
ただ字を書くだけ。
「おい」
「………えっ?」
レイモンド殿下がわたしの手元を覗き込んで眉を顰めた。
「お前、何書いてるんだ?」
「え?報告書……ですけど」
ふと手元を見るとさっき書いた紙と同じモノをもう一度書いていたようで……
「お前、何枚同じ報告書を書くつもりだ?」
ーー確かに……
「すみません……つい……」
「昼からのことが気になるからと言って仕事をおろそかにするな」
「はい」
昼から……そうだ。お父様に会って……話を聞くんだった。
私の過去を。
レイモンド殿下に謝りつつ気持ちを切り替えて仕事をこなす。
この場所を追われればもう私の居場所はない。
昼食はセリウス殿下に誘われ、レイモンド殿下と三人で食堂に行くことにした。
王城内の食堂には高位貴族としか入れない食堂がある。
食堂と言っていいのかしら?
そこは一つ一つ個室になっていてランチとはいえコース料理が運ばれてくる。
お二人は美味しそうに舌鼓を打ちながら食べる姿は、もしここに令嬢達がいればうっとりするだろう。
とても美しいお二人の王子様が優雅に食す姿はまるで劇でも見ているようだ。
「おい、さっさと食べろ」
レイモンド殿下に言われて手が動いていなかったことに気がつく。
「いくら緊張するからと言って何も食べないと体調を崩すぞ」
ああ、緊張……そうね、緊張するのよね。
セリウス殿下はにこやかに笑い
「レインが全てを知って……もし僕についてくるなら一緒にモリス国へ帰ろう。父上も君が帰ってくるならとても喜ばれると思う」
「………はい」
一緒に?モリス国へ?
なぜ?
ああ、私にはもう何もないから……
『はとこ』なんて血が繋がっていても遠い親戚?なんじゃないの?
私なんてよく知らないのに受け入れる訳ないじゃない。
心がどんどん冷えて凍って……頑なになっていく。
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