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- 王国の陰りと忌まわしき魔女の呪い -
『ジキルドの苦悩と蝕まれる心』②
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「や、やめろっっ!!!」
───ガシャアァアンッッッ!
バンッ!!
『兄上ッッ!?兄上!!どうされたのですか!??しっかりしてくださいッ兄上ッッ!!!』
───パシッ!
「やめろ!離せ!!」
頭を押さえ暴れ、もがき苦しむ私にいち早く気付いたのは他でもない部屋から去ったはずのオーディットだった。
邪悪な魔女の囁きを振り払うように… 頭を左右上下に… 振りかぶる。飾ってあった花瓶が腕に当たり、派手な音と共にその破片が粉々に床に飛び散る───。
そして、
理性を失っていた私は、駆け寄るオーディットの手を振り払い、気づけば罵声と共にその髪を掴み上げていた。
『ぅ、あ…ッぅぐ!』
このまま、いっそのこと私の手で殺してしまえば… この子の瞳に最後に映るのは私自身。苦しげに呻く愛しい弟を目にしながら、その死に行く様を恐怖に満ちた瞳と絶望に駆られながらその生を終える様を、私の手で終わらせる様を一人独占できるというのは何と至福な時だろうか…。
正気とは思えない黒い感情が少しずつ、少しずつ… 自身の心を蝕んでいく。
『ジキルドッ!?お前、何をやって…ッ!』
……が、騒ぎを聞きつけた突然の乱入者に、オーディットの首を絞めていたその手をブンッと放り投げ、力任せに投げられたオーディットは勢いよく壁に叩きつけられた。
───ドンッッ!!!
『ぅぐっ! かはッ…!!』
ずるずる…と力なく崩れ落ちるオーディットに駆け寄る端正な眉を寄せたジークの声によって理性を取り戻した。
『ケホ…ッケホッ!!!』
『大丈夫か!?』
コクリと力無く頷くオーディットの身体は、震えていて……
ああ…ッ 私は何てことを!
今の今まで愛しいオーディットの首を絞めていたその震える両手をまじまじ…と見つめる。その手にはつい先ほどまで血の通った生きた人間を手に掛けようとした生温かい感触が残っていて、
その手に残る感触がその生々しさを物語っていた。
この子がこんなに震えているのは私のせいなのか。他でもない。私自身がこの子を… 傷つけようとした。殺そうとした。その事実は変えようが無くて───。
「……2人とも、今すぐ出て行け」
『───ジキルド?待て、どういうことだ!?いや、それよりもなぜこんな…』
立てないオーディットを両手で抱えたジークは眉をしかめて私に問う。…だが、何と言えばいい?
「聞こえなかったのか?今すぐ出て行け!……それから」
【───オーディットを私に近づかせるな】
その言葉にジークの目が見開く。
『お前… 』
だが、私はそんなジークを無視し、口を開く。
「これは王命だ。金輪際、オーディットが私の視界に入ることを禁じる。破ったときは… その身は保障しない」
『ジ「わかったなら出て行け」…ッわかった』
ツイ、と視線を外し、もう用はないとばかりにジークの声を遮った。何か言いたげだったが、苦しげに呻くオーディットを一瞥すると途端にその表情を曇らせる。
ジークがオーディットを抱えて部屋を後にし、自嘲の笑みを浮かべた。
───これで良かったのだ。あの子を… オーディットをこれ以上傷つけないために、あの悪夢が現実にならないようにする為には… これしか方法が無いのだ、と無理に自分を… 納得させた。
───ガシャアァアンッッッ!
バンッ!!
『兄上ッッ!?兄上!!どうされたのですか!??しっかりしてくださいッ兄上ッッ!!!』
───パシッ!
「やめろ!離せ!!」
頭を押さえ暴れ、もがき苦しむ私にいち早く気付いたのは他でもない部屋から去ったはずのオーディットだった。
邪悪な魔女の囁きを振り払うように… 頭を左右上下に… 振りかぶる。飾ってあった花瓶が腕に当たり、派手な音と共にその破片が粉々に床に飛び散る───。
そして、
理性を失っていた私は、駆け寄るオーディットの手を振り払い、気づけば罵声と共にその髪を掴み上げていた。
『ぅ、あ…ッぅぐ!』
このまま、いっそのこと私の手で殺してしまえば… この子の瞳に最後に映るのは私自身。苦しげに呻く愛しい弟を目にしながら、その死に行く様を恐怖に満ちた瞳と絶望に駆られながらその生を終える様を、私の手で終わらせる様を一人独占できるというのは何と至福な時だろうか…。
正気とは思えない黒い感情が少しずつ、少しずつ… 自身の心を蝕んでいく。
『ジキルドッ!?お前、何をやって…ッ!』
……が、騒ぎを聞きつけた突然の乱入者に、オーディットの首を絞めていたその手をブンッと放り投げ、力任せに投げられたオーディットは勢いよく壁に叩きつけられた。
───ドンッッ!!!
『ぅぐっ! かはッ…!!』
ずるずる…と力なく崩れ落ちるオーディットに駆け寄る端正な眉を寄せたジークの声によって理性を取り戻した。
『ケホ…ッケホッ!!!』
『大丈夫か!?』
コクリと力無く頷くオーディットの身体は、震えていて……
ああ…ッ 私は何てことを!
今の今まで愛しいオーディットの首を絞めていたその震える両手をまじまじ…と見つめる。その手にはつい先ほどまで血の通った生きた人間を手に掛けようとした生温かい感触が残っていて、
その手に残る感触がその生々しさを物語っていた。
この子がこんなに震えているのは私のせいなのか。他でもない。私自身がこの子を… 傷つけようとした。殺そうとした。その事実は変えようが無くて───。
「……2人とも、今すぐ出て行け」
『───ジキルド?待て、どういうことだ!?いや、それよりもなぜこんな…』
立てないオーディットを両手で抱えたジークは眉をしかめて私に問う。…だが、何と言えばいい?
「聞こえなかったのか?今すぐ出て行け!……それから」
【───オーディットを私に近づかせるな】
その言葉にジークの目が見開く。
『お前… 』
だが、私はそんなジークを無視し、口を開く。
「これは王命だ。金輪際、オーディットが私の視界に入ることを禁じる。破ったときは… その身は保障しない」
『ジ「わかったなら出て行け」…ッわかった』
ツイ、と視線を外し、もう用はないとばかりにジークの声を遮った。何か言いたげだったが、苦しげに呻くオーディットを一瞥すると途端にその表情を曇らせる。
ジークがオーディットを抱えて部屋を後にし、自嘲の笑みを浮かべた。
───これで良かったのだ。あの子を… オーディットをこれ以上傷つけないために、あの悪夢が現実にならないようにする為には… これしか方法が無いのだ、と無理に自分を… 納得させた。
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