勇者パーティを引退したのに、勇者が連れ戻そうと追いかけ回してくるんだが

歩く、歩く。

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20話 悪趣味なドラッグジャンキー

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「アマンダたーん! リサちゃーん! 俺ちゃん反省しました、心改めます! もう覗きなんてしないから助けてくださーい! 心がさむいよー俺ちゃんさみしいよー!」

 俺様は布団で簀巻きにされ、屋敷の屋根から逆さ吊りにされていた。しかもアマンダたんがご丁寧に「僕ちゃん覗き魔兼下着泥棒でーす」なんて張り紙してくれやがって。このせいで街中に汚名が広がったじゃないの。

「はぁ……ぼちぼち頭に血が上ってきたなぁ、そろそろ出るか」

 するりと布団を抜け出し、華麗に着地する。全く、一晩中俺様を吊るすつもりか? ハワードで作った生ハムなんて腹下すっての。
 少しずつ東の空が白んできている、夜明けが近いな。あんな恰好じゃ一睡もできないっての。まぁ俺様、暗示をかけて一瞬で頭を休める事が出来ますから? 一生寝なくても困らないんですけどね。

 だ・か・ら。これから夜這いを掛けてもバリバリ全開でいけるのよねぇん♪

「ぬふふ……待っててちょうだいキッサラちゅわぁーん♡」

 気配を消して、スキップでキサラちゃんのお部屋へ向かう俺様、ご機嫌ちゃんだ。これから始まる乱痴気騒ぎを思うともう胸が高鳴っちゃって仕方ないぜ。
 いやもうほんと、期待外れにならなきゃいいんだがな。

「申し訳ありませんがお客様? そちら当店人気ナンバーワンの娘でございます。許可なきお触りはお控えください。ジャック様」

 キサラちゃんの部屋に入り、右手の指を突きつける。
 その先にいるのは、ヘルバリアを襲った根暗野郎、ザナドゥ幹部のジャックだ。

「額にイカしたタトゥー付けて、イメチェンかい? 似合ってるぜ弱虫君」
「貴様……いつから俺に気付いていた」

「昼間の雑魚狩りをした時さ。あいつらで俺様の注意を引いて、キサラちゃんの影に隠れただろ。でもって俺様が油断した隙に彼女を誘拐、もしくは殺害するつもりだったんだな。だが残念だな、賢者は如何なる時でも油断しないのさ」

 あえて敵の策に乗り、上から正々堂々叩き潰す。賢者の流儀って奴さ。どんな小細工だろうと真正面から受け止めて勝つのが、最強の男である俺様の美学なんだよ。

「今まで俺様の殺気に怯えて、ずっとキサラちゃんの影に隠れていただろう。んでもって彼女らが一番無防備な瞬間、つまり風呂に入っている時に人質に取るつもりでいたんだろう」

 だが俺様が傍に居たから実行できなかった、アマンダが覗きを許したのはこれが理由さ。
 なので仕方なく別の影に移動して、俺様が無防備になる瞬間を待っていたんだろう。んでさっき俺様が気配を消したから寝入ったと勘違いし、影から出てきたってわけだな。

「……簀巻きにされても隙が無さすぎる。貴様、本当に人間か?」
「ああ人間さ、女の裸が何より大好きなスケベ親父だよ。とっととその子から離れな、女神達の湯浴みに乱入できないような童貞にゃあ、レディの肢体は刺激が強すぎるぜ」
「ふっ、状況が分かっていないようだな……貴様がいくら強くとも、この距離なら娘を殺す事など容易だ。それが何を意味するか、分かっているだろうな」
「いいや、ぜひご教授願いたいねぇ」

「貴様の命を奪えずとも、娘を殺し、街を焼く事は出来る! その責務を貴様に擦り付け、名誉を汚し! アザレア王国を敵に回してやる! さすれば勇者カインが貴様を殺しにやってくるはず! そうなれば貴様と言えど、命はあるまい!」

「……お前、何考えてんだ? 自分じゃ俺様を殺せねぇからって、俺様の名を汚す方に頭向けて、他人に俺様を殺すようしむけるとかよ。しかもよりによってカインを利用するとか。どんだけ自分を本気で生きてねぇんだ、カス野郎」

「くかか、それがこのジャックの生き甲斐なのだよ。他者の名誉を踏みにじり、絶望の底に突き落とす快感こそ! この俺が最も愉悦を覚える瞬間だ!」
「ふぅ……悪趣味なドラッグジャンキーだ、注射打つなら予防接種だけにしときな」
「貴様を殺せるなら手段は厭わん、どのような形式でも、必ず貴様を殺す!」

 ジャックが影の刃を伸ばし、キサラちゃんを刺し殺そうとした。彼女が寝ていたら、殺されていただろうなぁ。

「はっ!」

 でも残念、すでに役者はスタントマンに交代しているのさ。
 ベッドからアマンダが飛び出し、影の刃を回避した。ひらりと俺様の背後に隠れ、ジャックに丁寧なお辞儀をする。

「な……キサラが、いつの間に!」
「俺様に気を取られすぎなんだよ。こそっと入れ替わってもらってな、キサラちゃんは今頃客間でリサちゃんとハグしながら白百合の夢でも見ている頃だろうさ」
「ぐっ……だがまだだ、貴様が簀巻きにされている間にカジャンガへ部下を潜らせた、今頃街は火の海に」
「なっているなら、どうしてキリギリスの聖歌が聞こえるんだい?」

 俺様に言われてようやく気付いたか、カジャンガが静かな事にな。

―うぉん!
「おーっすがるる、おつかれさん」

 ジャックの部下が入り込んでいる事なんぞとっくに気づいていたよ、だからがるるに処理してもらったってわけ。

「それに俺様の名を汚そうと思っても無駄だぜ、俺様の賢者としての名はとっくに汚れているんだ。……下着泥棒と覗き魔って汚名でな!」

 だからそもそも、ジャックのやろうとしている事は最初から無駄ってわけなのさ。……あまりに捨て身過ぎてみっともなくなるセリフだぜ、このマザファッカ。

「ハワード・ロックめ、変態具合まで規格外とは反則過ぎるだろう!」
「どこに感心してんだ馬鹿野郎! ともかく、更地になったチェスを続ける気はないんでね。とっととリザインしてもらおうか!」

 指先から種を撃ち出すスキル、【シードライフル】をクラブ野郎にぶっ放す。カジャンガに来る直前戦った、デモンフラワーって魔物からぶんどったスキルだ。
 種子の弾丸がジャックの肩を貫き、悶絶させる。威力は低いが、魔法と違って周辺被害の少ないスキルだから、使い勝手がいいぜ。

「ハワード様!? この音は、何かあったのですか!?」
「ちょちょ、ここはあいつに任せてって! 危ないから来ちゃだめだよ!」

 物音を聞きつけて、キサラちゃんとリサちゃんが走ってきた。ジャックを見るなり、キサラちゃんは「ひっ」と悲鳴を上げて口元を押さえる。

「今日はあいさつ代わりだ、ハワード。貴様から受けた屈辱、必ず倍にして返してくれる!」
「悪いが、てめぇに次は無いんだよ」

 太腿を狙って種を撃つ。そこを撃ち抜かれれば、出血で動けなくなるだろう?

「ないのなら作るまでだ」

 ジャックは奥歯で何かをかみつぶした。直後、種の弾丸を回避して、影の中へ逃げ込んだ。
 俺様も少々驚いたよ。一瞬だが、俺様の攻撃を避ける程度にレベルアップしやがった。

『覚悟していろハワード・ロック! 次に会った時が貴様の最期だ!』
「使い古された捨て台詞をぬかしやがるなぁ、期待してるぜファック野郎」

 ただ、最後に見せた悪あがきは気になるな。
 奥歯に薬をしこんでいたんだろうが、急にレベルアップする薬なんざ聞いた事がねぇや。……おまけに、随分と濃い血の臭いがしやがるな。

「……ザナドゥの、幹部ですよね、あの方……ハワード様、私のせいで……それに、子供達ももしかしたら……!」

 キサラちゃんは震えていた。自分が襲われることではなく、俺様や大好きな子供達が傷つくのを恐れてな。
 恐がるレディを前に黙っていちゃあ、ハワード・ロックの名が廃るな。

「Come on がるる!」
―ばうっ!

 指笛一つでがるるが走ってくる。キサラちゃんを背中に乗せ、俺様は白んだ空を見やった。

「アマンダたん、子爵閣下への説明は任せたぜ」
「お任せください、ごゆるりと」
「二人きりだからって、変な事すんじゃないわよ」
「えっ? あ、あの何を?」
「がるるの朝の散歩さ、一緒においで。Go!」
―がるるっ!

 窓から飛び出し、一気に草原へ走っていく。たまには悪い事をしてごらんよ、清楚なお嬢さん。
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