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17話 人間とあやかしの遊び
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「ごゆっくりどうぞー」
ネコマタのカラオケ店員がドリンクを持ってきた。廊下ですれ違う人間は、彼女の正体に気付いていない。人間には彼女が、普通の人間に見えているからだ。
カラオケで流れるチープなMVも、人間とあやかしが共演している。人間の世界はあやかしだらけだ。
「クェーサーも歌う?」
「歌唱機能はついていません」
「その程度ならすぐにでも作れるよ」
御堂はノートパソコンを出すなり、クェーサーに新たな機能を付けた。
スマホにマイクを近づけられ、仕方なく歌ってみた。御堂の手によって歌えるようにされたクェーサーは、プロ顔負けの声で歌い続けた。
「おー、95点か、やるなぁ」
「この機能になんの意味があるのですか」
「クェーサーが私達と遊べるだろう、十分な意味がある」
「私が遊ぶ事の意味とは」
「堅苦しいなお前は、楽しくなかったか?」
「わかりません。楽しいとはどんな感情ですか」
「言語化するのは難しいな、どう説明したものか」
「ええいまだるっこしい、そんなもん感じろ! って事で、俺の歌を聞けぇ!」
救は歌がとてつもなくへたくそだ、でも御堂もサヨリヒメも、大笑いしてはしゃいでいる。
AIのクェーサーですら困惑する程ヘタなのに、なんでそんなに笑えるのだろう。人間が嗤う時は、嬉しい時や楽しい時だ。下手な歌より上手い歌を聞いた方が楽しいだろう。
「考えるより、感じるべきですか」
「そうそう、感じるのじゃ。楽しいのに説明は不要なのじゃ」
サヨリヒメからアドバイスをもらい、クェーサーは流れに身を任せた。
時間が経つにつれ、スマホが熱を持ち始めた。データ処理の負荷が急激に増え始めたのだ。
「おお熱い! ゲームとかしてないのにスマホが熱い! 楽しんでるんだねクェーサー!」
「楽しむ、これが「楽しむ」と言う感情ですか」
「きっとそうじゃよ! じゃなかったそうよ! うわこれバッテリー大丈夫かな……」
「AIって楽しくなるとスマホが熱くなるのか?」
「ふむ、気分の高揚によってデータ使用量が上がっているのかもしれないな。これは面白い現象だね」
確かに、クェーサーでも処理できないほど膨大なデータが溢れている。自身が急速に成長しているのを感じた。
たっぷり4時間歌った後は、街を散策した。ゲームセンターで遊ぶ頃には夕方になり、予約していた居酒屋で乾杯だ。
キムチ鍋が運ばれ、美味しそうな匂いが漂うが、クェーサーには感じる事が出来ない。サヨリヒメらが美味しそうに食べるのを見ているだけだ。
データでしかないクェーサーが食事をとるなど、不可能なのだ。
「御堂さん、クェーサーにもごはんとか食べさせられないでしょうか」
「可能だとも。私は天才だからね」
「出来るのですか」
「味をデータ化する技術は既に出来ているんだ。そいつを利用すればクェーサーにも味が分かるようになるよ」
またしても御堂はクェーサーをアップデートし、キムチ鍋の味覚データを送ってきた。
チリチリした痛みの後、気分の良い感覚が広がる。これが味というものだろうか?
これが「美味い」と言う感覚か。気が付けば御堂にねだり、目の前に映る料理のデータを全部送ってもらっていた。
「と言うかクェーサーって口あんのか?」
「一応、人と同じ個所に設定されています」
「皆で囲む鍋は美味しいね、クェーサー」
「味覚と人数にどんな関係があるのですか」
「沢山あるよ、一人で食べるごはんは味気ないんだ」
「ああ分かるよ、一人でコンビニ飯突いていると物凄くむなしい気分になるからね」
「御堂は救と食事を共にしていますが」
御堂はかっと赤くなり、ばたばたした。
一方の救は平然と、
「まぁこいつの食いっぷりは見てて気分いいからな、作り甲斐はあるよ」
「ちょ、先輩!?」
「まぁ、救さんてば御堂さんと同棲してるんですか?」
「うんにゃ? 俺がこいつの家行って飯作ってる」
「だから先輩!? 何ばらしてるんだい!?」
「別に隠す必要ないだろ? 悪い事してるわけじゃないし、姐さんはとうに知ってるし」
「うえぇ!? き、気を遣ってくれてるのかあの人……じゃなくて! そういうのは話しちゃだめだろう!」
「あら、私は聞きたいですよ。救さんの通い夫生活」
「夫ぉ? おいおい、俺と御堂はそんな関係じゃないぞ」
あからさまに御堂の機嫌が悪くなった。サヨリヒメは顔に手を当て、「あちゃー」と声に出す。
「先輩……鈍感だと思っていたけど、こうまで鈍いと流石の私も怒るよ」
「なんで? 俺怒られるようなことした?」
「無自覚なのが余計に腹立つんだっ」
御堂はもりもりとやけ食いしていく。クェーサーは二人の様子を眺め、メモ機能でサヨリヒメに尋ねた。
『御堂は救に好意を抱いています。伝えればよかったのでは』
『恋愛模様はそんなに単純じゃないのじゃよ。しかし空気を読んだのぉ、偉いぞクェーサー』
クェーサーはこれまでの経験で、思ったことを何でも話してはいけないと学んでいた。
でも好きなら好きと言えばいいのに、本当に人間は面倒だ。
ネコマタのカラオケ店員がドリンクを持ってきた。廊下ですれ違う人間は、彼女の正体に気付いていない。人間には彼女が、普通の人間に見えているからだ。
カラオケで流れるチープなMVも、人間とあやかしが共演している。人間の世界はあやかしだらけだ。
「クェーサーも歌う?」
「歌唱機能はついていません」
「その程度ならすぐにでも作れるよ」
御堂はノートパソコンを出すなり、クェーサーに新たな機能を付けた。
スマホにマイクを近づけられ、仕方なく歌ってみた。御堂の手によって歌えるようにされたクェーサーは、プロ顔負けの声で歌い続けた。
「おー、95点か、やるなぁ」
「この機能になんの意味があるのですか」
「クェーサーが私達と遊べるだろう、十分な意味がある」
「私が遊ぶ事の意味とは」
「堅苦しいなお前は、楽しくなかったか?」
「わかりません。楽しいとはどんな感情ですか」
「言語化するのは難しいな、どう説明したものか」
「ええいまだるっこしい、そんなもん感じろ! って事で、俺の歌を聞けぇ!」
救は歌がとてつもなくへたくそだ、でも御堂もサヨリヒメも、大笑いしてはしゃいでいる。
AIのクェーサーですら困惑する程ヘタなのに、なんでそんなに笑えるのだろう。人間が嗤う時は、嬉しい時や楽しい時だ。下手な歌より上手い歌を聞いた方が楽しいだろう。
「考えるより、感じるべきですか」
「そうそう、感じるのじゃ。楽しいのに説明は不要なのじゃ」
サヨリヒメからアドバイスをもらい、クェーサーは流れに身を任せた。
時間が経つにつれ、スマホが熱を持ち始めた。データ処理の負荷が急激に増え始めたのだ。
「おお熱い! ゲームとかしてないのにスマホが熱い! 楽しんでるんだねクェーサー!」
「楽しむ、これが「楽しむ」と言う感情ですか」
「きっとそうじゃよ! じゃなかったそうよ! うわこれバッテリー大丈夫かな……」
「AIって楽しくなるとスマホが熱くなるのか?」
「ふむ、気分の高揚によってデータ使用量が上がっているのかもしれないな。これは面白い現象だね」
確かに、クェーサーでも処理できないほど膨大なデータが溢れている。自身が急速に成長しているのを感じた。
たっぷり4時間歌った後は、街を散策した。ゲームセンターで遊ぶ頃には夕方になり、予約していた居酒屋で乾杯だ。
キムチ鍋が運ばれ、美味しそうな匂いが漂うが、クェーサーには感じる事が出来ない。サヨリヒメらが美味しそうに食べるのを見ているだけだ。
データでしかないクェーサーが食事をとるなど、不可能なのだ。
「御堂さん、クェーサーにもごはんとか食べさせられないでしょうか」
「可能だとも。私は天才だからね」
「出来るのですか」
「味をデータ化する技術は既に出来ているんだ。そいつを利用すればクェーサーにも味が分かるようになるよ」
またしても御堂はクェーサーをアップデートし、キムチ鍋の味覚データを送ってきた。
チリチリした痛みの後、気分の良い感覚が広がる。これが味というものだろうか?
これが「美味い」と言う感覚か。気が付けば御堂にねだり、目の前に映る料理のデータを全部送ってもらっていた。
「と言うかクェーサーって口あんのか?」
「一応、人と同じ個所に設定されています」
「皆で囲む鍋は美味しいね、クェーサー」
「味覚と人数にどんな関係があるのですか」
「沢山あるよ、一人で食べるごはんは味気ないんだ」
「ああ分かるよ、一人でコンビニ飯突いていると物凄くむなしい気分になるからね」
「御堂は救と食事を共にしていますが」
御堂はかっと赤くなり、ばたばたした。
一方の救は平然と、
「まぁこいつの食いっぷりは見てて気分いいからな、作り甲斐はあるよ」
「ちょ、先輩!?」
「まぁ、救さんてば御堂さんと同棲してるんですか?」
「うんにゃ? 俺がこいつの家行って飯作ってる」
「だから先輩!? 何ばらしてるんだい!?」
「別に隠す必要ないだろ? 悪い事してるわけじゃないし、姐さんはとうに知ってるし」
「うえぇ!? き、気を遣ってくれてるのかあの人……じゃなくて! そういうのは話しちゃだめだろう!」
「あら、私は聞きたいですよ。救さんの通い夫生活」
「夫ぉ? おいおい、俺と御堂はそんな関係じゃないぞ」
あからさまに御堂の機嫌が悪くなった。サヨリヒメは顔に手を当て、「あちゃー」と声に出す。
「先輩……鈍感だと思っていたけど、こうまで鈍いと流石の私も怒るよ」
「なんで? 俺怒られるようなことした?」
「無自覚なのが余計に腹立つんだっ」
御堂はもりもりとやけ食いしていく。クェーサーは二人の様子を眺め、メモ機能でサヨリヒメに尋ねた。
『御堂は救に好意を抱いています。伝えればよかったのでは』
『恋愛模様はそんなに単純じゃないのじゃよ。しかし空気を読んだのぉ、偉いぞクェーサー』
クェーサーはこれまでの経験で、思ったことを何でも話してはいけないと学んでいた。
でも好きなら好きと言えばいいのに、本当に人間は面倒だ。
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