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20話 寂しくて、悲しい

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「はー! 今日は楽しかった、こんなに遊んだのは久しぶりじゃ!」

 クェーサーの部屋に戻り、サヨリヒメは満足げに頷いた。
 クェーサーも満ち足りた気持ちだった。この感情を、「満足」と言うのだろうか。この上ないほど、最高の時間だった。

「今日はありがとな、クェーサーよ。おぬしと遊ぶのは凄く楽しかったぞ」
「私もです。サヨリヒメとの遊びで、数えきれないほどの感情を学べました。説明は出来ませんが、感じるのです。救の言うように、感じる方が早いですね」
「そうかそうか」
「貴女との時間は、私にとって掛け替えのない物のようです。貴女を手放したくない、誰にも渡したくないと、思う程に」

 クェーサーは拳を握りしめた。

「この感情は何なのでしょうか。貴女とずっと居たい、離れたくない。そんな思いが、強くなっているのです」
「ん、んん?」
「教えてください、この感情はなんですか。こんなにも、胸が痺れるような痛みを伴う感情は……何なのですか?」

 クェーサーから真っ直ぐな眼差しを向けられる。サヨリヒメは目を伏せ、頬を赤く染めた。
 相手は、人工知能だぞ? それも、生まれてまだ間もない、赤ん坊のようなAIだ。

 光源氏じゃあるまいに……だけど、サヨリヒメを身を挺して守り、颯爽とバイクを駆る姿はとても恰好良かったし、ヒーローのような外見に反して紳士的な物腰なのもいいし、それなのに子供のように無垢なのもいいし。
 浮かんでくるのは、クェーサーの魅力ばかりだった。

「分からん、なぁ。いかに神でも全知全能ではないからの! それに関してはすまぬ、教えられん」

 サヨリヒメは逃げ、誤魔化した。

「ではまた、遊んでくれますか?」
「勿論じゃ。わらわは現実へ戻るからの」
「はい。それでは、また……」

 サヨリヒメが出ていくなり、クェーサーは胸に穴が開いたような感覚を受けた。
 何でもないと思っていた一人の部屋が、とても広く感じる。サヨリヒメに会いたくて、スマホを飛び出したくなってしまった。

「これが、寂しいという感情なのでしょうか」

 「寂しい」のは、凄く「悲しく」なる感情だった。
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