上 下
23 / 57

23話 島根県のある場所にて

しおりを挟む
 カムスサは、島根県の山奥にある祠へと赴いていた。
 この祠には、ある悪霊が奈良時代より封印されている。人を喰らい、未曾有の災害を興したとされるあやかしだ。
 苔が生えている祠からは、うっすらと禍々しい妖気が溢れている。悪意が詰まった妖気を前に、カムスサはにやりとした。

 禁じられし魔物を用いれば、仁王から人間を追い払える。
 奈良時代に現れたこのあやかしは、人とあやかしの混血児によって打ち払われ、封印された。封印を解くには、多量の妖気を捧げる必要がある。

「人間どもめ、必ずや我が地を取り戻してくれる」

 仁王市はカムスサが生まれ育った地だ。かつては美しい木々が広がり、あやかし達がのびのびと暮らす場所だった。
 平安時代から、人間達が森を切り開き始めた。
 その頃は特に何も思わなかった。自分達を祀る神社を作り、年に何度かあやかしを尊ぶ祭りや舞いを開いたり、それなりに楽しい時間を過ごせていたから。

 だが時が経つにつれ、人間はあやかしへの敬意を失っていった。

 気づけば木々は無くなり、奇怪な建造物が立ち並び、誉れ高かった自然も失われた。カムスサの愛した世界が、瞬く間に壊れてしまったのだ。
 人間達が一方的に押し付けてきた狼藉の数々、断じて許せるものではない。カムスサは1人抗い、山々から人間を追い返した。

 だと言うのに、他のあやかし達からは幾度も非難を浴びた。

「何が人間は自然の一部だ、今の街も自然の延長だ。我らあやかしの誇りを忘れたか」

 人間達の造ったものなど自然ではない、奴らに迎合して生きる同胞達は、あやかしの誇りを失ってしまった。
 あやかしとは人間の上位種だ、奴らから恐れ、敬われる存在でなければならない。
 人間達を追い払い、今一度あやかし達の尊厳を取り戻すのだ。

「誰かが血に染まらねば、誰かがやらねばならぬのだ」

 カムスサはあやかし達から集めた妖気を捧げた。同胞を襲い集めた、汚れた妖気だが……本懐を成すための、必要な犠牲だ。
 大丈夫、殺してはいない。少し妖気を貰っただけ、数ヶ月は昏睡するだろうが、死にはしない。

「我が理想を成した暁には、必ずや理解してくれるだろう。さぁ甦れ、ヤマタノオロチよ!」

 祠が砕かれ、古の時代より眠っていた悪意が、再び世に解き放たれた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

私はモブのはず

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:3,673

神様、つがいが2人同時に現れるなんて酷過ぎます!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:155

碧の海

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:4

【完結】放置された令嬢は 辺境伯に過保護に 保護される

恋愛 / 完結 24h.ポイント:92pt お気に入り:2,553

ブレードステーション

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:3

愛の呪いは夢を見させる

BL / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

無自覚な感情に音を乗せて

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:18

転生した先は三国志の糜芳だったわけだが

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:27

処理中です...