「くっ、殺せ!」と屈服した女騎士を拾ったので虐待することにした。

歩く、歩く。

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8話 ゴミ拾いをさせ、分別を手伝わせた

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「今後ルシファーが同じ事をしたらすぐに俺に言え、いいな」

 午後の始業と同時に、ガレオンからそう言われた。
 セクハラから守ってくれるのだろうか、さっきもタイミングよく来てくれたし。
 ほんのりとした安心感を受けたセレヴィだが、すぐに気持ちを切り替えた。
 いつかはここから出て行くんだ、僅かでも情を抱いてはいけない、隙を見て脱出の術を見つけるんだ。

「馬車の手配は済んでいます、いつでも出発できますが、いかがしますか」
「当然今すぐ行くぞ、報告によれば、随分大漁らしいからな」

 ガレオンはにやりとした。
 馬車に揺られる事三十分、城下町外れに設置されているガレオン軍駐留所へ到着した。現場は物々しい空気で満ちていて、セレヴィにも緊張が走る。

 そこには多数の馬車が集まっており、乗せられているのは、みすぼらしい服を着た人々だ。皆痩せこけていて、中には手足が欠損している者もいる。皆酷く怯えていて、恐怖に震えていた。
 彼らは他の領域から買い付けてきた貧民や奴隷、孤児に被差別部族の者達だ。

 魔界において、こうした者達には一切の人権がない。二束三文の金で命を売り買いされ、ひたすらに搾取されるばかりの、者ではなく物ばかりだ。
 彼らも、目が飛び出るほど安い値段で買いたたかれている。中にはタダ同然の安値で買われた者もいた。


「皆、主様にひどく怯えていますね」
「領外での俺は、魔界で最も非道な奴と広まっているからな。他の領土はお粗末な統治をしているらしく、民どもの不満がいつ爆発するかわからん状況のようでな。そこで民の敵意を俺に向けさせ、自分らに矛先が向かないようにしているんだそうだ」
「ネガティブキャンペーン、ですか。随分と器の小さい政策ですね」
「ま、吠えたければ勝手に吠えていればいい。所詮喚くしかできない負け犬どもに、真の強者たる俺が恐れる意味など、何一つないのだからな」

 ガレオンは意に介していない。奴隷達を見渡すと、凶悪な笑みを見せて彼らを怯えさせた。

「貴様ら、俺が魔王ガレオンだ! 今日から貴様らは俺の奴隷となった、俺の目が黒い内は、貴様らに安易な死は断じて許さん! 命尽きるまで俺に尽くし、俺のために益を生み出し、一生涯を俺の手の中でのたうち回って過ごせ! それが貴様らに許された、唯一の命の使い道だ! せいぜい楽に死ねると思わん事だなはーっはっはっは!」

 セリフだけ抜き取るとガチ凶悪な魔王にしか聞こえない。実際奴隷達は青ざめ、ビクビクと震えている。逆らったら殺される、本能的にそう悟り、中には涙する者まで出ていた。
 あんな事を言われたら余計に不安になるだろうに、どうしてこの男は勘違いされるような真似をするのやら。面倒くさい奴だ。

 どうせ、今からやるのはセリフと全く真逆の事なのに。

「奴らに契約書を渡せ」
「かしこまりました。では皆さん、各自指示に従ってサインをしてください」

 セレヴィは兵士達を指揮し、奴隷達の個人面談を始めた。
 最初こそ怯えていた奴隷達だが、契約書を渡されるなり、少しずつ目が輝き始める。
 それもそのはず、渡したのは奴隷契約書ではなく、労働契約書だからだ。

 ガレオンは奴隷達の経歴や身体状況を把握し、各々に適した仕事を斡旋していた。それどころか当面の住処や衣服、更には病や怪我などをした者にはケアを施す万全振りである。
 奴隷達は即座にサインを書き始める、すると首元に入れ墨と奴隷のマークが彫られ、ガレオンの所有物になっていく。

 買いたたいた者達を一人一人確認したガレオンは、満足気に頷いた。

「やはり俺の目に狂いはなかったな、どいつもこいつも粒よりだ。使いこなせばより益が生み出せる奴らばかりだ」
「領民の方々は、皆このようにして集めているのですね」
「一人残らずな。そもそもこの世で最も価値のある資源が何か、お前に分かるか?」
「鉄や油、宝石などでしょうか」

「間違いではないが、そいつを実際取り出すのは誰だ? 使い物になるよう加工するのは誰だ? こいつらだ。つまり人材こそが最高の資源! だというのに、他の領では貴重な資源がゴロゴロとゴミのように転がっている。そいつを逃す奴は、この世で最も頭の悪い愚か者だ。そうだろう?」

 ガレオンの奴隷は領外での安全が保障されている、奴隷や貧民、被差別部族の調達は簡単なのだろう。

「はした金で調達出来て、ちょっと餌を与えれば、あっという間に多額の税を納める働きアリに早変わりだ。どうせ他の領内で捨てられたごみクズならば、俺が拾っても文句はないだろう。物は有効利用してこそ価値が出るのだからな」
「さようでございますか」

 力技だが合理的である。ガレオンの提示する条件は、彼らにしてみれば天国のような境遇だ。最底辺の境遇から一気に恵まれた環境へ放り込まれれば、恩義を感じて反乱する気も起きないだろうし、ガレオンの政策に文句を言う事もない。

 おまけに二束三文で拾ってくるから採用の初期費用も大幅にカットできる。これほど効率の良い投資は他にないだろう。
 下の者を大事にすれば税収も安定し、人手不足の心配もなくなる。単純だが難しい事を、この魔王は軽く実行していた。

 ……リティシア王国は弱者には決して優しくない。貧民層は永遠に底辺から脱出できず、ひたすら搾取されるばかり。貴族は彼らを使い捨ての道具としか考えておらず、幾人もの奴隷が涙を流し、命を落としてきた。

 この魔王とは、大違いだ。

 ふと顔を上げると、不安げな少女が目についた。
 サイクロプスの少女だ。恐らく孤児だろう、独りぼっちで身を震わせて、縮こまっている。思わず駆け寄り、頭を撫でてしまった。

「大丈夫、恐くないから」

 少女に優しく語り掛けると、少し安心したのだろうか。すがるようにセレヴィを見上げ、目を潤ませた。
 しかしどう慰めたものか……言葉に迷ったセレヴィは、

「……ガレオン様なら、貴方を守ってくれる、幸せを約束してくれる。だから、泣かないで。ほら、笑おう。貴方はこれから、いっぱい幸せになれるから。今は、笑おう」

 魔王の名を頼ってしまうとは、それでも誇り高き騎士か私は。
 自分に悪態をつきつつも、少女を慰めながら兵の下へ送った。孤児は事前に里親の募集をかけており、後日新しい両親へ送られる手筈となっている。

「元気で、どうか幸せになりますように……」
「なるともさ。この魔王ガレオンが手回ししているのだからな」
「出過ぎた真似をしてしまいました、申し訳ありません」

「構わん、泣きわめかれるよりずっとましだ。ついでに伝えておくと、あのガキは医者の家に送る事になっている。元々出来の良い奴のようだからな、有効利用できそうな奴に預けておけば将来、何かしらの役には立つだろう」
「…………」
「なんだ? 何か言いたそうだな?」
「いえ、何でもありません」

 ガレオンが分からなくなる、こいつは本当に悪い奴なのか?
 言っている事は果てしなく凶悪なのに、やっている事はとことんまでに善人だ。救われぬ弱者に手を差し伸べ、暗闇から助け出す、弱者にとって神のような男だ。

「……そういえば、皆さんは契約書にサインして奴隷の証が浮かぶのですね」
「それがどうした」
「いえ、私は直に奴隷の証を受けたなと思っただけです」
「特別扱いされたと思いあがっているようだな。勘違いするなよ、お前のような奴は大勢居る、そもそも俺が奴隷如きに気遣いをする奴だと思っているのか? くだらん妄想はとっとと捨てろ、いいな」

 そんな言い方しなくていいだろうに。セレヴィは不満げに頬を膨らませた。
 やっぱりあいつは悪い奴だ、もう少し優しい言い方をしたって罰はあたらないぞ。
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