「くっ、殺せ!」と屈服した女騎士を拾ったので虐待することにした。

歩く、歩く。

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12話 女騎士を捕まえ、逃がさないようしっかり抱え込んだ

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 山の奥深くに開けた場所があった。
 そこは野イチゴの群生地となっていて、オレンジ色の実が沢山成っている。一粒食べてみると甘酸っぱく、涼やかな風味が後を引いた。
 これは美味しいな、ジャムにしたらどんな風になるんだろう。

「このかごが一杯になるまで摘むんだよ。傷つけないように摘んでね」
「けどあんたに出来るかなぁ、なーんか不器用そうで不安だぜ」
「それに何度も戻ろうって言う弱虫だし、虫とか出てきても泣き言言わないでよね」
「精々頑張らせてもらうさ」

 子供たちと共に野イチゴを摘みながら、セレヴィは周囲を警戒していた。
 何やら、威圧的な気配を感じる。道中も、不自然に傷つけられた木や、大型動物の糞らしき物を幾つか見つけていた。
 この辺り一帯を縄張りにしている動物がいる、それも好戦的な性格の動物だ。
 幾度も子供たちを止めようとしたのだが、その度に反発されてしまった。何度も遊びに来ている油断と、幼い故の無謀という奴だろう。
 ……なるべく早めに切り上げさせて、ここから逃げた方がいいな。

「これくらいの量でいいんじゃないか? ジャムにするには充分だ、戻るぞ」
「何言ってるんだよ、もっと集めないと魔王様は驚いてくれないって」
「そーだそーだ! 弱虫は黙ってろー!」
「魔法も使えないくせに指図するなよー」

 ダメだ、言う事を全然聞いてくれない。なめられているようだ。
 どうやって説得すべきか、考えた時だった。
 明らかな敵意が突き刺さり、セレヴィは咄嗟に子供たちを背に隠した。

「全員身を低くしろ!」

 叫ぶなり、木々の間から倒木が飛んできた。子供たちをしゃがませて、どうにか回避し、セレヴィはナイフを引き抜いた。
 悪い予感が当たったな、しかも最悪なのが。

『グゥオオオオオオっ!』

 雄たけびを上げて現れたのは、三メートルにも上るであろう巨大な熊だった。体には無数の傷が付いており、幾度もの修羅場を乗り越えてきた個体なのが分かる。
 縄張りに入ってきた不届き者を見るなり、目を血走らせて襲い掛かってくる。子供たちはすくみ上って動けないでいた。

 騎士として、彼らを守らねば。セレヴィは三呼一吸の後、腰を低くし重心を落とした。上虚下実の状態を作って最大限の力を発揮する、リティシア騎士団の格闘技術だ。
 人間界の熊とは何度か組み合ったが、魔界の個体はどれほどのものか。
 飛びかかってきた熊の前足を掴み、腹に掌底を叩き込んだ後、勢いを利用して投げ飛ばす。巨大な熊が宙を舞い、頭から墜落した。

「全員逃げろ! ここは私が食い止める、早く行け!」
「ひ、ひ……!」
「こわいよぉぉ……!」
「さっきまでの大口はどうした! ぼさっとするな、死にたいのか!」

 子供たちを逃がすべく、セレヴィは熊へ挑みかかった。
 奴隷に堕ちても私は騎士だ、弱きを守る義務がある。熊如きに怖気づくわけにはいかない。
 熊は起き上がるなり、セレヴィへ打ち下ろしの右を放った。横っ飛びして回避するも、熊の一撃は木を粉みじんに吹き飛ばしてしまう。こいつ、人間界の熊より強い!
 一発でも受けたら、セレヴィの体なんて粉々になるだろう。死への恐怖が、頬に一筋の汗を流した。それでも……子供たちを、守らねばならない。

「逃げろ! 早く!」

 一喝するなり、やっと子供たちが動き出した。
 逃げていく子供たちに熊が反応する。注意を引くべくナイフを握り、熊の足へ突き刺した。
 関節を的確に貫き、熊が苦痛に吠えた。だけど動きを止められたのは一瞬で、すぐにセレヴィへ嚙みついてくる。間一髪避けると、牙は岩をも砕き、大量の土塊を散らした。

 ダメだ、私ではこいつを倒せない!
 熊の猛攻に反撃できず、防戦一方になる。せめて剣があれば、こんな奴には……!

「うああっ!」

 熊の一撃が体を掠めた。服が破れ、左肩が深くえぐれてしまう。
 ここまでか……猛然と襲い来る熊に、セレヴィは覚悟して目を閉じた。
 瞬間、何者かに抱き上げられ、体が浮かぶ感覚が。

「熊と戯れるとはファンシーな趣味を持っているもんだな、随分懐かれているじゃないか」
「え……ガレオン、様?」

 ガレオンに抱えられ、思わず縮こまってしまう。魔王は熊を見やるなり、

「丁度昼飯時だ、おいアバドン! こいつを食うぞ」
「アイヤ! 腕によりかけるヨー!」

 どこからともなく現れたアバドンが、包丁一本で熊に飛びかかった。
 あっという間に解体され、皮と肉の山に早変わりだ。しかもソーセージや燻製肉といった加工品までできている。どうやったんだ一体。
 ……意外と凄い技能を持っている。流石は幹部の一人と言った所か。

「いい熊アルヨ、上等な肉質アル、量も充分、農地の全員食わせられるアル」
「奴隷どもに食わせるには上等すぎるくらいが丁度いい、存分に振舞ってやれ。お前もとっとと戻るぞ、休憩時間はとっくに過ぎているからな」
「で、では……おろしていただけませんか……?」

 ガレオンの腕の中に閉じ込められ、身動きが取れない。直に触れる魔王の腕は想像以上に逞しく、なぜか胸が高鳴った。
 ……というかこれ、いわゆるお姫様抱っこなのでは?

「却下だ、休憩時間を忘れて遊びまわる馬鹿を信用できるか。熊を相手に色目を使うような淫乱女を野放しにしたら、何をしでかすか分からないからな」

 ガレオンは魔法でセレヴィの傷を癒し、上着をかぶせてきた。
 やっとセレヴィは、服が大きくはだけていた事を思い出した。

「生憎、お前を娼館に売り飛ばす予定はないからな。不必要に肌をさらけ出すな阿呆」
「も、申し訳ありません……」

 叱られ続けたのと、抱えられている羞恥から、セレヴィは委縮しっぱなしだった。
 結局人里に下りるまで、ガレオンから解放される事はなかった。

  ◇◇◇

 大量の熊肉が、アバドンの手により絶品料理に変わっていく。
 熊鍋や熊ステーキ、熊フライと熊尽くしのフルコースだ。思わぬ昼食に皆喜んでおり、見る間に肉が無くなっていく。
 そんな中で。セレヴィは隅っこに引っ込み、浮かない顔をしていた。
 ガレオンに叱られたのが堪えていたのだ。その魔王はなおも渋い顔をしているし、セレヴィへの怒りを隠していない。
 どうしよう……完全に謝るタイミングを失ってしまった。

「これ食べるアル」

 ステーキを差し出された。顔を上げると、アバドンが。

「まだアナタだけ私の料理食べてないアル、とっとと食べるヨロシ」
「あ、はい……」
「主様は怒ってないアル、逆アルヨ」
「え?」

「アナタ戻らない時、とても心配されていたアル。子供たち戻って話聞いたら、真っ先に飛び出したアルヨ。アナタが無事で一番安心してるの、主様アル。主様の事、誤解しないでほしいアル。アナタが思っている以上に、主様アナタを大切にしているアルヨ」
「そうでしょうか……さっきもひどく、叱られてしまいましたし」

「主様の言葉、思い返してみるアル。それでも辛くなったら、いつでもワタシの所来るアル。ワタシの料理いつでも美味しい、お腹満たせば幸せになれるアル」

 励ましてくれているようだ。ステーキを口にしてみると、確かに美味しい、ちょっとだけ幸せな気分になった。

「魔王様、これもらってください!」
「俺達で摘んできた野イチゴのジャムなんだ、凄いだろ」

 ガレオンはと言うと、子供達から贈り物を渡されている。件のジャムだ。
 ちゃんと逃げ切れたようで、セレヴィはほっとした。体を張った甲斐があったという物だ。
 だけどガレオンは子供たちを睨み、一喝した。

「その前に言うべきことがあるだろう。聞けばお前達は誰にも告げず、勝手に山に入ったそうだな。挙句熊に襲われ、俺の大切な秘書を傷つけた。無礼者どもめ、自分勝手な行動でどれだけの迷惑がかかったか理解しているのか。大怪我をした奴も居るというのに、何をへらへらしている、何も反省していないようだな」

「あ……」
「ごめんなさい……」
「言う相手が違うだろう。丁度いい、詫びの品もある事だし、あいつにでも渡してやれ。まだ謝罪すらしていないようだからな」

 ……私のために、怒っていたのか?
 ガレオンが自分をかばってくれたのが予想外で、セレヴィは戸惑った。確かに思い返せば、言葉こそ悪いが、セレヴィを責めるような事は何一つ言っていない。むしろ山道をずっと抱えて歩いてくれたし、はだけた肌を隠すために上着も貸してくれたし……この上ないほど、気を遣ってくれていた。
 アバドンの言う通り、誰よりもセレヴィを心配していたのは、他ならぬガレオンだった。
 ……なんか、凄く溺愛されているような気がするのは気のせいか?

「あの……これ、どうぞ」

 気が付けば、子供達に囲まれていた。野イチゴのジャムを受け取ると、

「あの、ごめんなさい。それと、助けてくれて、ありがとうございました」
「弱虫って言って、ごめんなさい……秘書さん、怪我は大丈夫?」
「問題ない、それに気にするな、ノブレスオブリージュだ」
「のぶ?」
「……魔王様の秘書として、当然のことをしたまでだ」

 魔王様の秘書、そう名乗るのがくすぐったい。着実に、王国騎士から魔王の奴隷へと堕とされている気がした。けど、悪くない気分だった。

「報酬をもらったようだな。……体調はどうだ?」
「問題はありません」
「今の所はそうみたいだな。城に戻ったら改めて医者に掛かれ、マステマに手配させておいた。熊の雑菌で倒れられたら困るからな」
「はい……」
「勘違いするなよ、貴様が倒れたら業務に支障が出るから、その前に対処しているだけだ。別に貴様を気遣ったりなど、していないからな」

 相変わらず悪態ばかりである。まるで本心を隠すように、口悪く言っているように思えた。
 そのせいか、満更でもないセレヴィであった。……心の底からセレヴィを心配し、助けに来てくれた。嘘偽りのない、彼の本心が伝わったから。
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