「くっ、殺せ!」と屈服した女騎士を拾ったので虐待することにした。

歩く、歩く。

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14話 二度と無駄な抵抗をしないよう教え込んでやる

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「そこだぁぁぁっ!」

 咆哮と共に木刀を突き出し、胴へ痛烈な一撃を叩き込んだ。
 セレヴィの勝利である。兵達は「おおっ」と歓声を上げ、セレヴィに称賛を送っていた。
 しかし、当の彼女は既に限界である。
 滝のような汗を流し、肩で呼吸し、木刀を杖代わりにして立っている。一体何人の兵を相手にしたのかと言うと……。

「たった三人で……この消耗か……!」

 結論から言おう、ガレオン兵の練度は非常に高かった。
 井の中の蛙だった。リティシア王国騎士団の精鋭でも、セレヴィは五指に入る実力者だった。だけどもガレオン軍の一般兵は、そんな彼女を易々と上回っていた。

 太刀捌き、足運び、どちらも鋭く、木刀を交えれば打ち負けるのはセレヴィだ。勝てたのは正直、運がよかったとしか言いようがない。戦ったのはほんの十分ほどなのに、もう体力が底を尽きていた。

 しかも、彼らは人間が持ち合わせない技能、魔法を持っている。

 人間は魔法を使うためのマナを操る器官が存在しない。魔族に変えられたセレヴィだが、マナを使う訓練をしていないから、剣術一本で立ち向かうしかなかった。
 魔法で攻められる度に精神を削られ、体力もごっそり持っていかれる。仮にガレオン軍とリティシア騎士団がぶつかり合ったら……騎士団は成す術もなく敗北するだろう。
 体が重くて、もう動けない。だけど、ガレオンに無様な姿を見せるのはプライドが許さなかった。

「次の相手、上がれ……私はまだやれる!」

 私は誇り高きリティシア騎士、その意地を見せてやろう。

「では、私と一つ交えていただけるかな?」

 上がってきたのは、思わぬ相手だった。
 ルシファーが名乗り出て、木刀を構えてきたのだ。幹部自らが相手をしてくれるとは、相手にとって不足はない。
 あんな色ボケ幹部に負けるものか、何としても勝ってやる。
 開始の合図とともに、セレヴィは果敢に前に出た。だがすぐに足を止めた。
 ルシファーが大きく見える、まるで巨人の如き威圧感が、セレヴィの肌を痺れさせた。
 体が動かない、本能が逃げろと叫んでいる。そんな馬鹿な、あんな……ドエムのド変態が、私を圧倒しているだと?

「くっ……なめるな!」

 振りかぶり、渾身の一撃を叩き込む。だが、ルシファーは軽々と避けるなり、後頭部へ手刀を入れてきた。
 頭を揺らされ、視界が歪んだ。倒れ込んだセレヴィは、気絶してしまった。

  ◇◇◇

 目を覚ますなり、セレヴィは飛び起きた。
 医務室に運ばれていたようだ、まだ頭がくらくらする。ルシファー相手に、何もできなかったな。
 ガレオンと戦った時、セレヴィは食い下がる事が出来た。自分の剣ならば、魔界でも通用すると思っていた。
 けど実際は一兵卒にやっと勝てる程度、幹部に至っては勝負にすらならなかった。
 それで分かった事がある、ガレオンは手を抜いていたんだ。あの時戦えていたと思っていたが、実際は遊ばれていただけ。
 ……弱いな、私は。

「目を覚ましたか、で? いい夢でも見れたか?」

 ガレオンが入ってきた。隣に座るなり、腕を組んで睨んでくる。

「この間の熊の一件と言い、お前は無茶をするのが大好きなようだな。だが今のお前はなんだ? 騎士か? それとも兵士か?」
「……ガレオン様の秘書です」
「秘書の仕事はなんだ? 騎士のように前線に立ち、勇猛に戦う事か?」
「ガレオン様の傍で、お手伝いをする事です……」
「なら無意味に喧嘩を売るような真似をするな。騎士だったのは過去の事、いつまでも過去の栄光に縋るな」
「……はい」
「分かったら仕事に戻るぞ、ぐずぐずするな」

 誇りを示すどころか、恥をさらしただけだった。すっかり落ち込んでしまい、仕事に身が入らなかった。
 俯いた頭が上に向かない。セレヴィにとって剣とは、騎士の誇りとは、人生の一つだった。
 なのに、その全てが否定されてしまった。これまで生きてきた道のりが無意味だったのが、ショックだった。
 と、誰かの手が顎に触れ、顔を上げられた。

「そんなに沈んでいては美しい顔が見えなくなってしまうよ、もっと私に見せてくれないか?」
「ルシファー様……」
「さっきは済まなかったね、いかに訓練とはいえ女性に手をかけてしまうとは、断じてあってはならない事だ。しかしあれ以上無理をしては、君が危ないと思ったのでね。だが面と向かって止めては、君のプライドに傷をつけてしまう……そう考えた時、ああして止めるのがベストだと判断したんだ」
「……そう、なのですか……」

 逆に傷つく慰め方だ、そんな裏事情、黙っていてほしかったよ。
 余計に落ち込んでしまい、泣きそうになる。情けをかけられての中断なんて、騎士の恥だ。

「ああ、泣かないでくれたまえ。もし私に怒りを感じたのならば、その罰は甘んじて受けよう。さぁ! 遠慮なく私を殴ってくれ、もしくは蹴り飛ばしてくれても構わない! 何なら頭を踏みつけられてもいいぞ、ぜひ靴にキスをさせてくれ! さぁなんなりと命令してくれたまえさぁさぁさぁどうか私を思い切りなじって」
「黙れ変態天使」

 流石のガレオンもルシファーの暴走に怒り、彼女の頭を握りしめた。
 アイアンクローに悶絶するルシファーだが……。

「あっあっあっ! この痛み、まさしく愛だ! 主様から私への愛を感じるぅ! もっと、もっと握って、頭蓋骨が砕けるくらい強くぅ! これぞまさしく愛の抱擁あだだだだだ!」
「こいつにはどんな罰も褒美になってしまうから困りものだ、くれぐれもこいつの口車に乗って殴ったりするなよ、もっと痛めつけてもらおうとストーカー化するからな」
「迷惑すぎませんか?」

 そんなのを幹部に取り立てるガレオンもガレオンである。

「お前もお前で、いつまで俯いているつもりだ。そもそもここに居るのは俺が所有している奴隷の中でも屈指の実力を持った連中、いわば最強の部隊だ。狭い物差しで全部わかった気になるな。もっと奴隷どもを知れ、どこにどんな連中が配置されているか調べてみろ、その上でお前が今日示した成果を振り返るといい」
「……ガレオン、様?」
「言っておくが、いつまでもくだらん事に気を取られていては俺が迷惑なんだよ。それに、お前の剣が鈍ろうが鋭かろうが、そんなのはどうでもいい」

 ガレオンは突然、右腕を突き出した。
 セレヴィに迫っていた矢を掴んだのだ。

「俺の隣が、魔界で最も安全な場所だからな」

 ようやくセレヴィは気付いた、隣領の街から、兵が迫ってきている事に。
 その数はおよそ二千、チャリオットを使って、猛スピードで砦に攻め込んでいた。
 まさかあれは街じゃなくて……隣領の兵の駐屯基地だったのか?

「俺がここに来ていると知って、攻撃命令でも出したんだろうな。随分好戦的な奴がトップになったようだが、よほど世間知らずのようだな」

 ガレオンはにやりとすると、左手の中指を立てた。
 その直後、巨大な落雷と同時に大地が大爆発した。最前線の兵達がひっくり返り、進軍が止まった。
 圧倒的なエネルギーを持つ雷を操るなんて、一体どれだけの力を持っているんだ。

「このガレオンが、魔界で最も恐ろしい魔王だと知らないようだ。ルシファー! 奴らを潰せ、全軍攻撃用意!」
「仰せのままに。皆の衆! 特に指示は出さない、好きに料理してあげなさい!」

 大雑把な命令だが、ガレオン軍は非常に統率のとれた動きを見せていた。
 大砲と弓矢による波状攻撃で兵達を削り、強大な魔法を放って迎撃する。敵兵も抵抗するが、ガレオン軍の弾幕の前に退くばかり。
 あまりの攻勢にセレヴィは唖然としていた。すると敵兵の苦し紛れの火球が、セレヴィ目掛けて飛んできた。
 反応が遅れ、避けられない。あわや直撃かと思った瞬間、ガレオンがセレヴィを背にして火球を振り払った。
 目を瞬き、セレヴィは困惑する。

「ぼさっとするな、それでも騎士か?」
「す、すみません……」
「俺から離れるな、中に入るぞ」

 ガレオンがセレヴィを背にしつつ、砦へ入っていく。流れ弾から彼女を、守るかのように。
 なんなんだ、なんでこんな……私を守るような真似をする……!
 セレヴィがおろおろしている間に、戦闘は終わっていた。
 ガレオン軍は誰一人削れる事なく、圧倒的な勝利だった。最強の魔王が率いる軍は、格が違ったようだ。
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