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15話 自白剤を飲ませ、隠し事を暴いてやる
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地下牢には捕えられた敵兵が収監されていた。先ほどの戦闘で十数名の兵を捕虜にできたのだ。
しかも全員指揮官クラスの大物ばかり。彼らを前にし、ガレオンは満足気に笑っていた。
捕虜たちはガレオンを見上げて震えている。悪名名高い魔王に捕まったらどうなるのか、いくら指揮官でも恐ろしいだろう。
「拷問にかけるのですか?」
「こいつらの返答次第だがな。仮にするとして、お前ならどうする?」
「私なら、タオルを顔に被せて水をかけます。そうすると呼吸が出来なくなりますので、相当な苦痛を与えられます。他には海老反りにつるして背中に重しを乗せて背骨を折ったり、炎天下の中磔にして放置するのも効果的かと……どうされました?」
「お前意外とエグイ事考えるんだな……てっきり、「そんなのは騎士道に反する」などと言うかと思ったんだが……」
「リティシア騎士団では拷問に耐える抵抗訓練も実施しますので、実体験を基に提案しました。これでも軽い物を選択したのですけれど」
男女関係なく行われる特殊訓練である。実際やられると死ぬほどきつかったなぁ、としみじみ思うセレヴィだった。ガレオンはドン引きしていたが。
「……少なくとも俺はそんな事は好まんし、やるつもりもない。情報を得るなら拷問するより自白魔法で吐かせた方が効率的だ」
「その拷問、やるならぜひとも私に。なんと魅惑的な責めが揃っているんだ人間界、一回捕虜留学したいものだなぁ」
「お前は黙って仕事しろドM天使」
「ああん、なんと心地よい罵声……かしこまりました。では、少々お時間を頂きます」
ルシファーは牢に入るなり、カーテンを閉めた。
そしたら、カーテン越しに捕虜たちの悲鳴が聞こえてくる。布の先で一体何が起こっているんだ?
三分が経過した頃に、カーテンが開かれる。その先には……。
「ガレオン万歳! ガレオン万歳! ガレオン万歳! ガレオン万歳!」
「我らガレオン様に忠誠を誓います! ガレオンマンセー!」
「なんなりと命じてくださいガレオン様! ガレオン様最高ーっ!」
すっかりガレオンに心酔する捕虜たちの姿があった。
「……あの、何を?」
「ルシファーは相手を洗脳する力を持っている。こいつに軍を任せている一番の理由なんだよ」
「私の力で指揮官たちを洗脳して、主様の手駒にしたのさ。この方法で各地の魔王軍に、我々の息のかかった者達を作っているんだよ」
「ガレオン様も充分エグイ事をされてませんか?」
「お前に言われたくはない。さておいて、よく聞け貴様ら! 貴様らは今日から俺の奴隷となってもらう、逐一領内の情報を流せ! 領域侵略の暁には、貴様らに何不自由ない生活を約束してやろう!」
「ははーっ!」
「ガレオン様ばんざーい!」
捕虜たちは洗脳されたまま、駐屯基地へと帰っていく。これであの前線基地はガレオンの物だ。
なるほど、確かに拷問するより洗脳して敵陣に潜り込ませれば、情報も取り放題だし、いざ侵攻の際にスムーズに事を運べる。こうして伏線を張っているわけだな。
やり口は少々鬼畜だが……敵に対して情けをかければ自分に返ってくる。その辺りの分別を付けているのは、魔王らしいな。
「いやぁ、それにしてもセレヴィ、君は中々Sの才能があるようだ。いつかぜひ、私とのセッションに付き合って欲しい。私の能力を使えば君を激昂させて、よりアグレッシブな夜を過ごせるはずだからね! 勿論君に似合う衣装もたくさん用意してあるから、ぜひとも私に激痛の快楽おっ!?」
「いい加減にしろと言っているだろうが」
度重なるセクハラの連発にとうとう怒り、ガレオンが制裁の拳骨を落とした。
さしものルシファーも、魔王の怒りに触れて悦ぶほど愚かではないようで、すごすごと引き下がっていた。
「次に同じことをしたら減給だからな」
「うぐっ! そ、それは流石に……私の業界でも拷問です……」
「なら大人しくしていろ。それとお前、リティシア騎士団の拷問訓練で、体や精神に異常をきたしたことはあるのか?」
「ええ、まぁ、訓練とはいえ拷問ですし、幾度かは。なぜそれを?」
「単なる世間話だ。残りの仕事を済ませるぞ」
もしかして、心配していたのか? 別にあいつに心配されるほど落ちぶれていない、事実セレヴィは人間界の男よりも強いのだ。
でも……先の戦闘の際、ガレオンは真っ先に守ってくれた。魔王の背中は、今まで見た男の中で最も頼もしく、逞しかった。セレヴィですら、見惚れるほどに力強かったのだ。
……いやいや、何を考えているんだ私は!
頬を叩き、気持ちを切り替えるも、ガレオンが気になって集中できない。違うんだ、私は別にガレオンなんて、なんとも思っていないのだから。
◇◇◇
夕方に魔王城へ戻り、事後処理が終わると、丁度定時となった。
今日も色んな事が起こりすぎた。自分の無力さを痛感したかと思えば、ガレオンに守られて複雑な気持ちを抱いたり、心休まる瞬間が全くない。
ガレオンに翻弄されて疲れてしまった、早く休みたい。
「おい、この後予定はあるのか」
「いいえ、ありませんが」
「敬語はいらん、終業後は普通にしろ。無いなら、後でバルコニーに来い」
「ああ、分かった……」
何をするつもりだ? 思わぬ誘いに警戒してしまう。
言われた通りバルコニーへ向かうと、カフェテーブルが用意されていた。加えて白ワインに、つまみの生ハムとモッツアレラが置かれている。
「これは……」
「ルシファーに俺と約束していると言ってしまったからな、そいつが嘘だとバレれば、一晩中あいつに付きまとわれるぞ。あのドM天使と一緒に過ごしたいなら止めはしないが」
「全力で遠慮したい……あいつの相手は、骨が折れる……」
「なら晩酌に付き合え、いいな」
ルシファーから逃げるための口実か、ガレオンと杯を交わすのも癪だが、身を守るためなら仕方ない。
バルコニーからは城下町が良く見える。街灯で明るく浮かび上がる街並は、どこか幻想的だ。
と、ガレオンがワインを差し出してきた。注いでもらった所で、セレヴィは気付く。
「このワイン、かなり上等な物じゃないか?」
「中々通だな。こいつはゴリアテの五年物、ブドウの当たり年に作られたワインだ。丁度今が飲み頃だぞ」
「そんな物を出していいのか? 私なんかに……」
「うぬぼれるな、お前のために出したんじゃない。俺が飲みたいから持ってきたんだ」
いちいち憎まれ口叩かないと気が済まないのかこいつは。
文句をたれつつワインを舐めると、洋ナシのような香りが鼻腔を抜けた。ドライでさわやかな酸味があり、フレッシュな後味の余韻が心地よい。
生ハムの肉の旨味と塩味、モッツアレラの柔らかい甘味と相性ばっちりだ。
「これは美味いな」
「元貴族だけあって味は分かるようだな。それに、立ち振る舞いもマナーも完璧か」
「私は今でも貴族、ラーゼフォン家の当主だ。魔王相手だろうと、恥となるような真似を晒せるものか」
「悪くない心掛けだ」
ガレオンはくつくつと笑っていた。なんかむかつくから、ワインを注がせてやる。
暫く無言のままグラスを傾けていると、ガレオンはおもむろに剣を差し出した。
シンプルな外観の細身の剣だが、相当な業物だ。一目でわかる。
「そいつを持ってろ、お前の腕なら使えるだろう」
「なんだ、急に」
「仕えている者のために剣を振るうのが騎士の誇りなんだろう? だったら俺の騎士として、その剣を使え」
「……私を馬鹿にしているのか? 私は一兵卒にも劣るような……」
「何度も言わせるな、あそこの連中は選りすぐりの兵士達だ。そいつらを三人も、しかも魔法もなしで倒したんだ、大したもんさ。俺の騎士とするには及第点だ。今後はその剣、俺のために振るうといい」
思わず顔を上げた。
今……ガレオンは私を褒めたんじゃないか?
どうすればいいのか困惑してしまう。何より、魔王の騎士として剣を振るうのは抵抗があった。
けれど、迷いながらも、セレヴィは剣を取った。
騎士としての自分を求められたのが、嬉しかったから。
「ま、まぁ……形だけだぞ。私の剣はリティシア王のための物であって、魔王のための剣ではないからな。だがお前が私を必要としているなら……じゃなくて、そう! 剣が可哀そうだから、仕方なく使ってやる。いいか、剣のためだからな。決して魔王の、お前の騎士になどなったつもりはないからな」
「なんだ、照れてるのか?」
「そんなわけないだろうがっ。大体お前はだな」
酔っぱらったのか、ガレオンはセレヴィをからかってくる。静かな晩酌が一点、騒がしい口喧嘩が繰り広げられた。
でも悔しいかな、その口論を楽しいと感じるセレヴィであった。
◇◇◇
晩酌の少し前、ガレオンはワインセラーで吟味していた。
若い女が好きそうなワインはどれだろうか、セレヴィは辛口が好みのようだが、それでも選択肢は膨大だ。
セレヴィが魔界に来てひと月以上が経った、仕事も頑張っているし、労おうと思っていた所だ。
セレヴィの働きぶりはガレオンの予想を上回っている、歴代秘書の中でも一番の有能だ。彼女を採用してから仕事の効率は二割向上し、ガレオンの負担も軽くなっていた。
ただ、やはり兵と戦わせるべきではなかった。そこはガレオンのミスだ。プライドを折られ、セレヴィは随分落ち込んでいた。
セレヴィには期待している。励ますためにも、あいつ好みのワインを選んでやらないとな。
「こちらのワインはいかがでしょう、ゴリアテの5年物。さわやかな酸味が女性に好まれると思いますよ」
横から声をかけられるなり、ボトルを渡される。ガレオンは目を閉じ、受け取った。
「おせっかいのつもりかルシファー、第一これはお前の酒だろう」
「いえいえ、彼女と飲もうと思っていたお酒を、先約に譲っただけです。本日の彼女はいかがでしたか?」
「いつも通りだ。ま、プライドが傷ついたようだからな。フォローする必要があるだろう」
「それは大変だ、早急にケアしませんと」
「お前がやった事だろう、変にあいつを煽るな」
「私は彼女の本音を引き出しただけですよ。守ってあげるのもいいですが、彼女自身の生き甲斐も汲んであげなければ」
確かに、セレヴィは幼い頃から騎士として生きていた。なのに剣を取り上げたままというのは、彼女の意思を無視している。もっと騎士としてのセレヴィを尊重してやるべきだった。
ルシファーは妙な所で気を回す奴だ。砦で好き勝手振舞ったのは、二人の心中を察して敵役に回ったから。彼女が中継してくれたから、自然にセレヴィを口説く事が出来たし、彼女にしてやるべき事も分かった。
とはいえ、奴隷に借りを作るのは気に食わない。
「おい、こいつを持って行け。カルーソーの白、二十年物だ」
「不等価交換では? こっちの方が高価ですよ」
「黙って持って行け、それともそいつでは不満か?」
「いえいえ、私が望んでいるのは一つ……どうか私めにきっつい罵倒を! 出来れば冷酷な眼差しと脅迫めいた言い回した上で犬のように捨てていただけると最高です!」
「……いちいち注文の多い奴だ、拳で言う事を聞かせる方が好みか?」
「お、おぉぉぉぉ……蔑みの眼差し、ドスの利いた脅し……! ありがとうございます! 今夜のおかずにさせていただきます!」
「いいから出て行け、ハウス」
「ワンっ!」
犬扱いされて大喜びで出て行くルシファー、気は利くがぶれないドMである。と言うか注文を聞くガレオンもどうなんだ。
ともあれ、このワインならセレヴィも喜ぶだろう。彼女が微笑む姿を思い浮かべ、ガレオンはバルコニーへ向かった。
しかも全員指揮官クラスの大物ばかり。彼らを前にし、ガレオンは満足気に笑っていた。
捕虜たちはガレオンを見上げて震えている。悪名名高い魔王に捕まったらどうなるのか、いくら指揮官でも恐ろしいだろう。
「拷問にかけるのですか?」
「こいつらの返答次第だがな。仮にするとして、お前ならどうする?」
「私なら、タオルを顔に被せて水をかけます。そうすると呼吸が出来なくなりますので、相当な苦痛を与えられます。他には海老反りにつるして背中に重しを乗せて背骨を折ったり、炎天下の中磔にして放置するのも効果的かと……どうされました?」
「お前意外とエグイ事考えるんだな……てっきり、「そんなのは騎士道に反する」などと言うかと思ったんだが……」
「リティシア騎士団では拷問に耐える抵抗訓練も実施しますので、実体験を基に提案しました。これでも軽い物を選択したのですけれど」
男女関係なく行われる特殊訓練である。実際やられると死ぬほどきつかったなぁ、としみじみ思うセレヴィだった。ガレオンはドン引きしていたが。
「……少なくとも俺はそんな事は好まんし、やるつもりもない。情報を得るなら拷問するより自白魔法で吐かせた方が効率的だ」
「その拷問、やるならぜひとも私に。なんと魅惑的な責めが揃っているんだ人間界、一回捕虜留学したいものだなぁ」
「お前は黙って仕事しろドM天使」
「ああん、なんと心地よい罵声……かしこまりました。では、少々お時間を頂きます」
ルシファーは牢に入るなり、カーテンを閉めた。
そしたら、カーテン越しに捕虜たちの悲鳴が聞こえてくる。布の先で一体何が起こっているんだ?
三分が経過した頃に、カーテンが開かれる。その先には……。
「ガレオン万歳! ガレオン万歳! ガレオン万歳! ガレオン万歳!」
「我らガレオン様に忠誠を誓います! ガレオンマンセー!」
「なんなりと命じてくださいガレオン様! ガレオン様最高ーっ!」
すっかりガレオンに心酔する捕虜たちの姿があった。
「……あの、何を?」
「ルシファーは相手を洗脳する力を持っている。こいつに軍を任せている一番の理由なんだよ」
「私の力で指揮官たちを洗脳して、主様の手駒にしたのさ。この方法で各地の魔王軍に、我々の息のかかった者達を作っているんだよ」
「ガレオン様も充分エグイ事をされてませんか?」
「お前に言われたくはない。さておいて、よく聞け貴様ら! 貴様らは今日から俺の奴隷となってもらう、逐一領内の情報を流せ! 領域侵略の暁には、貴様らに何不自由ない生活を約束してやろう!」
「ははーっ!」
「ガレオン様ばんざーい!」
捕虜たちは洗脳されたまま、駐屯基地へと帰っていく。これであの前線基地はガレオンの物だ。
なるほど、確かに拷問するより洗脳して敵陣に潜り込ませれば、情報も取り放題だし、いざ侵攻の際にスムーズに事を運べる。こうして伏線を張っているわけだな。
やり口は少々鬼畜だが……敵に対して情けをかければ自分に返ってくる。その辺りの分別を付けているのは、魔王らしいな。
「いやぁ、それにしてもセレヴィ、君は中々Sの才能があるようだ。いつかぜひ、私とのセッションに付き合って欲しい。私の能力を使えば君を激昂させて、よりアグレッシブな夜を過ごせるはずだからね! 勿論君に似合う衣装もたくさん用意してあるから、ぜひとも私に激痛の快楽おっ!?」
「いい加減にしろと言っているだろうが」
度重なるセクハラの連発にとうとう怒り、ガレオンが制裁の拳骨を落とした。
さしものルシファーも、魔王の怒りに触れて悦ぶほど愚かではないようで、すごすごと引き下がっていた。
「次に同じことをしたら減給だからな」
「うぐっ! そ、それは流石に……私の業界でも拷問です……」
「なら大人しくしていろ。それとお前、リティシア騎士団の拷問訓練で、体や精神に異常をきたしたことはあるのか?」
「ええ、まぁ、訓練とはいえ拷問ですし、幾度かは。なぜそれを?」
「単なる世間話だ。残りの仕事を済ませるぞ」
もしかして、心配していたのか? 別にあいつに心配されるほど落ちぶれていない、事実セレヴィは人間界の男よりも強いのだ。
でも……先の戦闘の際、ガレオンは真っ先に守ってくれた。魔王の背中は、今まで見た男の中で最も頼もしく、逞しかった。セレヴィですら、見惚れるほどに力強かったのだ。
……いやいや、何を考えているんだ私は!
頬を叩き、気持ちを切り替えるも、ガレオンが気になって集中できない。違うんだ、私は別にガレオンなんて、なんとも思っていないのだから。
◇◇◇
夕方に魔王城へ戻り、事後処理が終わると、丁度定時となった。
今日も色んな事が起こりすぎた。自分の無力さを痛感したかと思えば、ガレオンに守られて複雑な気持ちを抱いたり、心休まる瞬間が全くない。
ガレオンに翻弄されて疲れてしまった、早く休みたい。
「おい、この後予定はあるのか」
「いいえ、ありませんが」
「敬語はいらん、終業後は普通にしろ。無いなら、後でバルコニーに来い」
「ああ、分かった……」
何をするつもりだ? 思わぬ誘いに警戒してしまう。
言われた通りバルコニーへ向かうと、カフェテーブルが用意されていた。加えて白ワインに、つまみの生ハムとモッツアレラが置かれている。
「これは……」
「ルシファーに俺と約束していると言ってしまったからな、そいつが嘘だとバレれば、一晩中あいつに付きまとわれるぞ。あのドM天使と一緒に過ごしたいなら止めはしないが」
「全力で遠慮したい……あいつの相手は、骨が折れる……」
「なら晩酌に付き合え、いいな」
ルシファーから逃げるための口実か、ガレオンと杯を交わすのも癪だが、身を守るためなら仕方ない。
バルコニーからは城下町が良く見える。街灯で明るく浮かび上がる街並は、どこか幻想的だ。
と、ガレオンがワインを差し出してきた。注いでもらった所で、セレヴィは気付く。
「このワイン、かなり上等な物じゃないか?」
「中々通だな。こいつはゴリアテの五年物、ブドウの当たり年に作られたワインだ。丁度今が飲み頃だぞ」
「そんな物を出していいのか? 私なんかに……」
「うぬぼれるな、お前のために出したんじゃない。俺が飲みたいから持ってきたんだ」
いちいち憎まれ口叩かないと気が済まないのかこいつは。
文句をたれつつワインを舐めると、洋ナシのような香りが鼻腔を抜けた。ドライでさわやかな酸味があり、フレッシュな後味の余韻が心地よい。
生ハムの肉の旨味と塩味、モッツアレラの柔らかい甘味と相性ばっちりだ。
「これは美味いな」
「元貴族だけあって味は分かるようだな。それに、立ち振る舞いもマナーも完璧か」
「私は今でも貴族、ラーゼフォン家の当主だ。魔王相手だろうと、恥となるような真似を晒せるものか」
「悪くない心掛けだ」
ガレオンはくつくつと笑っていた。なんかむかつくから、ワインを注がせてやる。
暫く無言のままグラスを傾けていると、ガレオンはおもむろに剣を差し出した。
シンプルな外観の細身の剣だが、相当な業物だ。一目でわかる。
「そいつを持ってろ、お前の腕なら使えるだろう」
「なんだ、急に」
「仕えている者のために剣を振るうのが騎士の誇りなんだろう? だったら俺の騎士として、その剣を使え」
「……私を馬鹿にしているのか? 私は一兵卒にも劣るような……」
「何度も言わせるな、あそこの連中は選りすぐりの兵士達だ。そいつらを三人も、しかも魔法もなしで倒したんだ、大したもんさ。俺の騎士とするには及第点だ。今後はその剣、俺のために振るうといい」
思わず顔を上げた。
今……ガレオンは私を褒めたんじゃないか?
どうすればいいのか困惑してしまう。何より、魔王の騎士として剣を振るうのは抵抗があった。
けれど、迷いながらも、セレヴィは剣を取った。
騎士としての自分を求められたのが、嬉しかったから。
「ま、まぁ……形だけだぞ。私の剣はリティシア王のための物であって、魔王のための剣ではないからな。だがお前が私を必要としているなら……じゃなくて、そう! 剣が可哀そうだから、仕方なく使ってやる。いいか、剣のためだからな。決して魔王の、お前の騎士になどなったつもりはないからな」
「なんだ、照れてるのか?」
「そんなわけないだろうがっ。大体お前はだな」
酔っぱらったのか、ガレオンはセレヴィをからかってくる。静かな晩酌が一点、騒がしい口喧嘩が繰り広げられた。
でも悔しいかな、その口論を楽しいと感じるセレヴィであった。
◇◇◇
晩酌の少し前、ガレオンはワインセラーで吟味していた。
若い女が好きそうなワインはどれだろうか、セレヴィは辛口が好みのようだが、それでも選択肢は膨大だ。
セレヴィが魔界に来てひと月以上が経った、仕事も頑張っているし、労おうと思っていた所だ。
セレヴィの働きぶりはガレオンの予想を上回っている、歴代秘書の中でも一番の有能だ。彼女を採用してから仕事の効率は二割向上し、ガレオンの負担も軽くなっていた。
ただ、やはり兵と戦わせるべきではなかった。そこはガレオンのミスだ。プライドを折られ、セレヴィは随分落ち込んでいた。
セレヴィには期待している。励ますためにも、あいつ好みのワインを選んでやらないとな。
「こちらのワインはいかがでしょう、ゴリアテの5年物。さわやかな酸味が女性に好まれると思いますよ」
横から声をかけられるなり、ボトルを渡される。ガレオンは目を閉じ、受け取った。
「おせっかいのつもりかルシファー、第一これはお前の酒だろう」
「いえいえ、彼女と飲もうと思っていたお酒を、先約に譲っただけです。本日の彼女はいかがでしたか?」
「いつも通りだ。ま、プライドが傷ついたようだからな。フォローする必要があるだろう」
「それは大変だ、早急にケアしませんと」
「お前がやった事だろう、変にあいつを煽るな」
「私は彼女の本音を引き出しただけですよ。守ってあげるのもいいですが、彼女自身の生き甲斐も汲んであげなければ」
確かに、セレヴィは幼い頃から騎士として生きていた。なのに剣を取り上げたままというのは、彼女の意思を無視している。もっと騎士としてのセレヴィを尊重してやるべきだった。
ルシファーは妙な所で気を回す奴だ。砦で好き勝手振舞ったのは、二人の心中を察して敵役に回ったから。彼女が中継してくれたから、自然にセレヴィを口説く事が出来たし、彼女にしてやるべき事も分かった。
とはいえ、奴隷に借りを作るのは気に食わない。
「おい、こいつを持って行け。カルーソーの白、二十年物だ」
「不等価交換では? こっちの方が高価ですよ」
「黙って持って行け、それともそいつでは不満か?」
「いえいえ、私が望んでいるのは一つ……どうか私めにきっつい罵倒を! 出来れば冷酷な眼差しと脅迫めいた言い回した上で犬のように捨てていただけると最高です!」
「……いちいち注文の多い奴だ、拳で言う事を聞かせる方が好みか?」
「お、おぉぉぉぉ……蔑みの眼差し、ドスの利いた脅し……! ありがとうございます! 今夜のおかずにさせていただきます!」
「いいから出て行け、ハウス」
「ワンっ!」
犬扱いされて大喜びで出て行くルシファー、気は利くがぶれないドMである。と言うか注文を聞くガレオンもどうなんだ。
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